量子もつれは、不可解な科学現象です。
量子力学では、2つの粒子が互いに独立ではない形で結びついているとき、その粒子はもつれ状態にあるといわれます。
以下では、この過程をさらに掘り下げ、科学者たちがその理解を深めるために取り組んでいることを紹介します。
もつれの生成と操作の効率を高めれば、他の量子技術の効率も最適化できます。
「量子もつれ」は、現代のSF映画に登場するいくつかの筋立て上の仕掛けの一つです。「マーベルのスーパーヒーロー映画」のファンなら、異なる時間軸が融合して交差したり、一見魔法のような力によって登場人物たちの運命が絡み合ったりする設定になじみがあるでしょう。
しかし、「量子もつれ」はSFの流行語にすぎないわけではありません。現実に存在する、不可解で有用な現象です。「もつれ」は、量子力学として知られる物理学の幅広い概念の一つです。量子力学は、原子、さらにはそれを下回るスケールでの自然の振る舞いを説明する理論です。
もつれを理解し、活用することは、多くの最先端技術を生み出す鍵です。そうした技術には、特定の問題を通常のコンピューターよりはるかに速く解ける量子コンピューターや、盗聴者に聞かれる可能性をわずかも残さずに通信できる量子通信装置などがあります。
では、量子もつれとは何でしょうか。量子力学では、2つの粒子がもつれ状態にあるとは、一方の粒子を完全に記述するために、もう一方の粒子に関する情報をすべて含めなければならない状態をいいます。つまり、両者は互いに独立ではない形で「結びついて」います。一見すると納得できそうな考え方ですが、理解するのは難しく、物理学者たちは今もその解明を進めています。
量子のサイコロ
あなたと友人のタンディに、それぞれ小さな不透明の黒い箱を渡すとしましょう。各箱には普通の六面体サイコロが入っています。サイコロをよく混ぜるため、それぞれ箱を軽く振るように言われます。その後、あなたたちは別々の場所へ向かいます。タンディは南アフリカのケープタウンへ、あなたは別の都市ダーバンへ帰ります。その間、互いに連絡は取りません。帰宅したら、それぞれ箱を開け、サイコロの上を向いている目を確認します。
通常、あなたとタンディが見る目の間に相関はありません。彼女もあなたも、1から6までのどの目も同じ確率で出ます。重要なのは、彼女のサイコロの目が、あなたのサイコロの目にまったく影響しないということです。
これは意外なことではありません。実際、世界は通常そのように働いています。しかし、この例を「量子的」にできれば、まったく違った振る舞いをするかもしれません。今度は、別々に箱を振ってそれぞれの目的地へ向かう前に、タンディとあなたに箱同士を軽く打ち合わせるよう伝えたとしましょう。
量子力学になぞらえると、箱同士を打ち合わせることでサイコロに魔法がかかり、謎めいた形で結びつく、つまり、もつれ状態になります。家に着いてそれぞれ箱を開け、目を確認すると、あなたとタンディの目は必ず完全に相関します。ダーバンにいるあなたが「4」を見たなら、ケープタウンのタンディも必ずサイコロで「4」を観測します。「6」が出た場合も、彼女も同じです。
このたとえでは、サイコロは個々の粒子(原子や、光の粒子である光子など)を表します。箱同士を物理的に打ち合わせる魔法の行為が粒子をもつれさせ、一方のサイコロを測定すると、もう一方についても情報が得られるのです。
もつれをよりよく生み出す
私たちが知る限り、人間のスケール、つまり巨視的なスケールで、サイコロなどの物体に魔法をかけられる箱の打ち合わせ方はありません(もしあれば、日常生活で量子力学を体験できるため、これほどなじみがなく不可解な概念ではなかったでしょう)。現時点で科学者たちは、量子効果をはるかに観測しやすい微視的なものを使うしかありません。たとえば、イオンと呼ばれる荷電原子や、トランズモンと呼ばれる特殊な超伝導デバイスです。
これは、南アフリカにあるウィットウォーターズランド大学の構造化光研究室で行われている研究の一例です。ただし、この研究室の研究者たちはイオンやトランズモンではなく、光子と呼ばれる光の粒子を使い、量子力学とその意味をより深く理解しようとしています。私たちは、悪意ある第三者による侵入を完全に防ぐ効率的な通信システムの設計から、損傷を与えずに繊細な生体試料を撮像する方法の開発まで、さまざまな目的に光の量子的性質を活用することに関心があります。
こうした研究では、多くの場合、特別に生成したもつれ光子の状態から始める必要があります。しかし、別々の箱にサイコロを入れて打ち合わせるほど簡単ではありません。実験室で実際にもつれ光子を生成する過程は、多くの実験変数に左右されます。たとえば、実験に使うレーザー光の形状や、もつれ光子が生成される小さな結晶の大きさなどです。その結果、出力の質が不十分になったり、理想的でない状態になったりすることがあります。その場合、実験後に研究者は一部の測定結果を選別して捨てなければなりません。これは最適な状況ではありません。光子が廃棄され、エネルギーが無駄になるからです。
私を含む研究室の研究者グループは最近、この問題の解決に向けて一歩前進しました。学術誌に掲載された論文では、実験者が実験の出発点として望むもつれ状態をできる限り生成するには、最適なレーザー形状がどのようなものかを数学的に算出しました。この手法では、実験の後半でのもつれ光子の生成過程を最大化するため、実験開始時に入力レーザー光の形状を変えることを提案しています。これにより、望む方法で実験を行うために使える光子が増え、不要な光子が減ります。
新興技術のガバナンス形成に向けて、世界経済フォーラムはどのような取り組みをしているのでしょうか?
提案された手法のような技術を用いて、もつれの生成と操作の効率を高めることは、量子暗号システムや先に挙げたその他の技術を含む、さまざまな量子技術の効率を最適化するうえで重要です。量子力学を中核とする技術が世界的に進む第4次産業革命とともに、疑いなくより一般的になっていくため、これは特に重要です。



