「モノのインターネット」の登場は、工業国の電化と非常によく似ています。1880年代に発電・配電システムの建設が始まると、電化は製造基盤、生産性、生活の質、技術の進歩に、まさに驚異的な影響をもたらしました。
しかし、電化は深刻な意図せぬ結果も招きました。当時、電気の安全性についての理解は十分ではなく、電気製品の登場に伴い、家庭や職場に感電の危険が生じました。
感電による死亡者の増加とともに、生命保険の保険金支払いも増えていきました。この負担の増大に対処するため、電気機器の安全基準を策定するUnderwriters Laboratories(UL)が1894年に設立されました。助言や勧告しかできない一般的な標準化団体とは異なり、ULの基準を支持した保険引受会社は、実効性のある強制の仕組みを提供しました。基準を順守すれば保険料が下がり、順守しなければ保険費用が大幅に増える仕組みです。
多くの自治体が、建築基準の一環としてUL規格を採用しました。消費者への啓発活動と相まって、ULは製品設計と消費者の購買行動の両方を変えました。
デジタルの世界にも、電化とその意図せぬ結果に通じる歴史があります。1959年、テキサス州の製油所に初の産業用コンピューター制御システムが導入され、自動化と機械制御の世界は一変しました。1968年のプログラマブル・ロジック・コントローラーや、8080、Z80などの低価格CPUの登場に後押しされ、デジタル制御はさまざまな産業に広がりました。
1970年代のX.25、イーサネット、ダイヤルアップなど、データネットワークの並行した進歩により、広域ネットワークを通じて制御システム同士を接続する道が開かれました。半導体の価格低下に加え、広域ネットワークとインターネットの登場によって、私たちがモノのインターネット(IoT)と呼ぶ制御システムの導入と相互接続が加速しました。今日、IoTは世界経済の産業基盤、現代社会を支えるインフラ、そして社会を守る軍事力を支えています。
電化と同じく、モノのインターネットにも意図せぬ結果、いわば独自の「ブラックミラー」があります。しかし、こうした結果は、はるかに発見しにくいため、さらに深刻な脅威となります。
セキュリティは、操作、欺瞞、妨害という衝撃からモノのインターネットを守る「絶縁材」です。IoTデバイスを開発・導入する企業が増えるにつれ、攻撃の機会は飛躍的に増え、セキュリティ侵害の影響も拡大しています。IoT製品の開発を急ぐあまり、最終製品の機能に重点が置かれ、インフラのセキュリティが軽視されることがあまりにも多くありました。IoTセキュリティの組み込みは大きく遅れており、その必要性への認識も十分ではありません。1950年代には、産業制御システムへの侵入が影響するのは単一の工場に限られていたでしょう。今日では、何百万人もの利用者に影響が及ぶ可能性があります。世界経済は、信頼できないIoTデバイスやシステムを土台として成り立っています。
IoTのセキュリティ侵害による賠償責任は、誰が負うのでしょうか。やはり保険引受会社です。製品を製造するIoTメーカー、それを導入するシステムインテグレーター、利用する企業、そして被害を受ける消費者に、賠償責任保険を提供するのは保険引受会社です。
IoTセキュリティの問題は、技術そのものとほぼ同じ歴史を持ちます。Hewlett Packard Enterprise傘下のArubaのように、ソリューションの基盤にIoTセキュリティを組み込むベンダーもいますが、市場全体では自律的な是正や規律が進んでいません。IoTセキュリティのベストプラクティスを確立する「IoT版Underwriters Laboratories」を創設し、保険引受の実効性を活用して順守を徹底することで、ブラックミラーを打ち破る必要があります。電気安全の場合と同様に、保険引受会社は市場が実現できていないこと、つまり行動を変える金銭的なインセンティブとディスインセンティブを設けることができます。
この解決策の枠組みは現在、世界経済フォーラムのIndustrial IoT Safety Networkのパートナーによって策定されており、保険引受会社の関心も高まっています。電気安全の分野では、こうした取り組みが産業界と消費者の行動を大きく変え得ることが実証されています。IoTでも同じように機能しない理由はありません。


