世界で毎年約800万人の命を奪うがんとの闘いにおいて、医師はさまざまな化学療法や放射線療法など、強力な武器を数多く備えています。しかし不足しているのは、個々の患者に対する特定の治療がどれほど効果を上げているかを示す、信頼できるリアルタイムデータを得る手段、つまり優れた偵察手段です。
磁気共鳴画像法(MRI)などの画像診断技術では腫瘍の大きさを把握できます。一方、治療の効果に関する最も詳細な情報は、生検で採取した組織を病理医が調べることで得られます。しかし、こうした方法で得られるのは腫瘍の反応を捉えた一時点の情報にすぎません。また、生検は侵襲を伴うためリスクがあり、臨床医はできる限り回数を抑えようとします。
現在、MITコッホ統合がん研究所の研究者たちは、初回の生検時にがん組織へ埋め込める小型の生化学センサーを開発し、この情報の隔たりを埋めようとしています。センサーは、がんの兆候を示すバイオマーカーのデータを外部の「リーダー」装置に無線で送信します。これにより医師は患者の経過をより適切に把握し、それに応じて投与量を調整したり、治療法を切り替えたりできます。がん治療をより標的に即した精密なものにすれば、有効性を高めながら、患者が深刻な副作用にさらされるリスクを減らせます。
「腫瘍内で何が起きているかを化学的な信号で知らせる装置を作りたいと考えました」と、センサー開発を統括した、材料科学・工学科のデビッド・H・コーク(1962年)工学教授でコッホ研究所の研究者でもあるマイケル・シマは話します。「腫瘍が縮小するのを何カ月も待つのではなく、早い段階で状況を読み取り、正しい方向に進んでいるかを確かめられるのです。」
シマの研究室に所属するMITの博士課程学生2人、現在MITの博士研究員であるヴィンセント・リウと、現在カリフォルニア大学バークレー校の博士研究員であるクリストフォロス・ヴァシリウが、センサー研究でシマと協力しました。彼らの研究を紹介する 論文 は、学術誌 Lab on a Chip にオンライン掲載されました。
MRIを使わない測定
シマのチームが開発したセンサーは、治療に対する腫瘍の反応に関係する2つのバイオマーカー、pHと溶存酸素について、リアルタイムで必要に応じたデータを提供します。
シマによると、がん組織が化学療法薬の攻撃を受けると、酸性度が高まります。「多くの場合、腫瘍が実際に縮小するのを見る前に、化学的な変化として反応を捉えられます」とシマは言います。実際、一部の治療法は免疫反応を引き起こし、炎症によって腫瘍が大きくなっているように見えることがあります。治療が効いている場合でもそう見えるのです。
一方、酸素濃度は、放射線療法などの適切な投与量を医師が判断する助けになります。腫瘍は低酸素状態でよく増殖するためです。「腫瘍の低酸素状態が強いほど、より多くの放射線が必要だと分かりました」とシマは話します。「したがって、こうしたセンサーで経時的に測定すれば、腫瘍の低酸素状態がどう変化しているかを確認し、それに応じて放射線量を調整できる可能性があります。」
生体適合性プラスチック製のセンサー筐体は、生検針の先端に収まるほど小型です。内部には、磁気共鳴画像法(MRI)で一般的に使われる化学造影剤が10マイクロリットル入っており、外部のリーダー装置と通信するための回路も搭載されています。
シマによると、これらのセンサーの電源を考案することが重要でした。4年前、彼のチームはMRI装置で読み取れる、同様の埋め込み型センサーを開発しました。「MRI検査は高額で、日常的な診療に組み込むのは簡単ではありません」と彼は言います。「次の段階として、MRIを使わずに測定できるよう、装置に電子回路を載せたいと考えました。」
新しいセンサーは、リーダー装置から電力を得ます。具体的には、リーダーの内部に金属コイルがあり、センサー自体にはそれよりずっと小さなコイルがあります。電流によってリーダー内のコイルが磁化され、2つのコイルが近づくと、その磁場がセンサーのコイルに電圧を生じさせます。この過程は相互インダクタンスと呼ばれます。リーダーが一連のパルスを送ると、シマの表現を借りれば、センサーが「応答音を返します」。この戻り信号の経時的な変化は、リーダーに有線接続されたコンピューターで解釈され、対象のバイオマーカーの変化が明らかになります。
「この装置を使うのは、血圧を測るようなものです。簡単に測定でき、数値を確認したら次に進めます」と、研究内容を知るマサチューセッツ総合病院システム生物学センター研究室の所長で放射線科医のラルフ・ワイスレダーは話します。「複雑な検査をせず、その場ですぐにできることなら、できるに越したことはありません。」
さらなる応用
シマのチームは、げっ歯類への埋め込みを含む実験室での実験で、センサーの検証に成功しました。センサーの埋め込み期間は数週間に限られましたが、シマは人の健康状態を長年にわたり監視するためにも使えると考えています。
「ペースメーカーや除細動器のような埋め込み型電子機器のおかげで、今日、何千人もの人々が生きています」と彼は言います。「私たちは、こうした長期埋め込み型機器に使われている材料でセンサーを作っています。しかも非常に小さいので、問題はないと思います。」
初期の実験では、センサーが組織内のpHと酸素濃度を迅速かつ確実に、正確に検出できることが示されました。次に研究者たちは、長期間にわたるpHの変化をセンサーがどれほどうまく測定できるかを調べたいと考えています。
「腫瘍の反応を監視できるよう、これらのプローブを実用化したいのです」とシマは言います。「今回の実験でも少し試しましたが、本当に堅牢なものにする必要があります。」
これらのセンサーの主な用途はがん医療ですが、シマは環境科学など、ほかの分野の研究者との協力にも意欲を示しています。「たとえば、池や湖のさまざまな場所で、溶存酸素やpHを測定するために使えます」とシマは話します。「環境モニタリングにビッグデータをもたらすため、このセンサーを使うことに期待しています。」
本記事は MIT Newsとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムによる見解への賛同を意味するものではありません。
Agendaの最新情報を受け取るには、 週刊ニュースレターに登録してください。
著者:クリス・バーディックはMIT Newsに寄稿しています。
画像:ワルシャワのオフィスで、ノートパソコンを持つ男性にバイナリーコードが投影されている様子を描いたイラスト。REUTERS/Kacper Pempel

