ブロックチェーン技術そのものを目標とするのではなく、具体的な目的を達成するために導入するツールとすべきである。
他の貿易ネットワークとの相互運用性の確保は、技術面での主要な課題である。
ガバナンス体制と収益・便益の配分は、すべての参加者にインセンティブを与えるものでなければならない。
ブロックチェーン導入における主な課題は、技術的な要因ではなく、運用や規制に関する問題に結び付いている。
組織をまたぐネットワークを構築する国家的な取り組みは、デジタル時代の始まり以来、課題となってきた。ビジネスネットワークは一般に、所有者は別々だが、共通する事業上のニーズや問題を抱える複数の異なる組織の企業グループで構成される。
ブロックチェーンと分散型台帳技術の発展は、こうしたエコシステム内の協業と、国レベルでのブロックチェーンネットワークの形成を促してきた。ブロックチェーンネットワークは、アプリケーションに分散型台帳を提供するインフラであり、ノードで構成される。これらのノードは、ネットワークの状態と台帳のコピーを維持する組織によって運用される。
世界経済フォーラムで貿易関連プロジェクトのブロックチェーン・分散型台帳技術を担当するナディア・ヒューエット氏は、次のように述べる。「ブロックチェーン技術は分散型であるため、究極のネットワーク型技術と言っても過言ではありません。他の新興技術以上に、ブロックチェーンのアプリケーションは、共有された分散型台帳をめぐるネットワーク型のピア・ツー・ピアの関与を前提としています。ブロックチェーン技術の進展に伴い、世界各地の多くの政府機関が、国家貿易ネットワークの構築など、全国規模の取り組みを開始しています。」
その一例がアラブ首長国連邦(UAE)政府である。2018年4月、UAE政府は政府取引の50%をブロックチェーン基盤のプラットフォームに移行するため、「エミレーツ・ブロックチェーン戦略2021」を開始した。世界経済フォーラムと連携し、第四次産業革命センターUAEは、ブロックチェーン導入における成功事例、知見、ベストプラクティスを共有するため、官民双方の組織を招集してきた。
こうした教訓を生かし、UAE国家貿易プラットフォーム構想の一環として、ブロックチェーン導入を成功させる要因について、複数の組織から経験を集めた。

1. 事業としての実現可能性
ブロックチェーン技術が最適なツールかどうか、また、この新興技術の投資収益率がどの程度か不確かなため、多くの取り組みが概念実証(POC)の段階から本格運用へ進めずにいる。どの組織にとっても、ブロックチェーン技術そのものを目標とするのではなく、具体的な目的を達成するために導入するツールとすべきである。
学習面の課題は主に、ブロックチェーンの適切な用途を特定することと、関係するステークホルダーに十分な教育と認識を促すことにある。スマート・ドバイ政府は、これを踏まえてブロックチェーンソリューションに取り組んだ。同政府は、企業がブロックチェーンなどの新興技術を試すのと並行して、政府内での事業機会を開いた。ドバイ未来財団(DFF)などの取り組みは、ラボプロジェクト/POC/パイロットが技術面と運用面で実証され、投資収益率(ROI)と価値収益率(ROV)の両面で確かな事業性が確認された後、実社会での導入につなげる機会を提供する。
2. 技術的な実現可能性
ブロックチェーン導入における主要な技術課題は、他の貿易ネットワーク(国内外)との相互運用性を確保することである。この課題に対処するには、確立されたデータ標準に従うこと、また政府が企業や市民向けに相互運用可能なデジタルID検証手段を整備することが重要だ。ドバイのブロックチェーン戦略が定められ、2020年までにブロックチェーン対応都市を目指す中、相互運用性に向けた先を見越した取り組みが必要だった。主要なブロックチェーンプロジェクトは連携して、UAE国内および国外のネットワークとの相互運用性を将来にわたって確保できるよう、共通の技術を採用し、発展させた。
3. ユーザーにとっての望ましさ
中小企業(SME)は貿易プラットフォームの主要な参加者である。大規模組織が業界全体や国全体に及ぶブロックチェーンソリューションの開発を主導する一方、中小企業が直面する課題への理解は限られている。そのため、ユーザー中心の設計プロセスに従うことが不可欠だ。ソリューションの対象となる組織や人々は、自らの課題について最もよく知っている。したがって、目の前の課題のさまざまな側面や複雑さに対応するソリューションを設計するには、中小企業の参加が欠かせない。UAEでは、ユーザーグループのフォーラムを設けることが、その実現方法の一つだった。
一例が、港湾や物流業務を運営する物流企業、DPワールドである。同社は最近、フリーゾーンの顧客向けに貿易事業者の登録を一本化し、輸出入関連の書類や手続きをデジタル化することを目指すブロックチェーンプラットフォームを立ち上げた。ソリューションの開発では、DPワールドを利用する貿易事業者のユーザー体験の向上を目指し、ユーザーにとっての望ましさを最優先にした。
4. エコシステムとしての実現可能性
全国規模、またはそれに類するネットワークに必要なすべてのステークホルダーに参加してもらうことは、大きな課題となる。関係するステークホルダーとの緊密な意思疎通と良好な関係を保つことが重要だ。ガバナンス体制と収益・便益の配分はすべての参加者にインセンティブを与えるものでなければならず、明確なロードマップがあればエコシステムの拡大に役立つ。
UAEで台頭するブロックチェーンコンソーシアムは、ブロックチェーンの機能は単独では引き出せないことを十分に理解している。そのため、UAEの民間および政府のさまざまな取り組みを見ると、多くが戦略的な事業提携(コンソーシアムなど)を通じて実行・実施されている。こうした提携は、主導組織、独立した規制当局、そしてブロックチェーン上で共有される情報を利用するとともに提供する参加者で構成される。
総じてUAEでは、ブロックチェーン導入の主な課題は、技術的な要因ではなく、運用や規制に関する問題に結び付いたままであることが分かった。UAEでは、政府が新興技術を積極的に受け入れ、社会の発展におけるイノベーションの価値を強調し、民間・公共両部門による新技術の探究、導入、拡大を支援することが、主な課題の解決につながってきた。
UAEのブロックチェーンエコシステムから得られた、実社会に即した知見をさらに知るには、白書「ブロックチェーンの包摂的な導入:アラブ首長国連邦の事例研究と知見」をご覧ください。世界経済フォーラムが発行したこの白書では、60を超える政府機関および非政府機関の100人を超えるステークホルダーから得た事例研究と知見を詳細に分析している。


