機械学習と人工知能は、ビジネス効率の向上に期待をもたらしている。一方で研究者らは、労働生産性や経済活動が約束どおりに飛躍することを裏付ける実証的証拠を、ほとんど見いだせずにいた。今までは。
オンライン電子商取引サイトeBayのデータを分析したこの新たな論文は、AIと機械学習がその可能性を実現しつつあることを示す、初期の具体的な証拠の一つだ。
逸話と現実
「AIが多くの分野で人間を上回ったという逸話的な証拠はたくさんありますが、因果関係を示す実証的証拠はあまりありませんでした」と、セントルイス・ワシントン大学オーリン・ビジネススクールのマーケティング担当客員助教、メン・リウは語る。
リウは、AIが経済成長と相関していることを示す証拠はあると指摘する。「AIについて私たちの直感が示すことと、実際に観察されることの間には、食い違いがあるようです」と彼女は言う。
たとえば、総生産性の成長率は2000年代以降、停滞している。
リウと共著者でマーケティング担当助教のシャン・フイは、人工知能に対する高い期待と控えめな生産性の成果との逆説を指摘した、MITとシカゴ大学による2017年の研究を引用している。経済活動の鈍化を考慮したその論文は、新技術が登場する一方で、生産性と所得中央値の数値は停滞または低下していたと報告した。
「総合的な成長統計を根拠に、AI懐疑派は、生産性の向上に実際には役立っていないと言います」とフイは付け加える。
「問題は、AIの恩恵を得るには、組織面であれ技術面であれ、それを補完するイノベーションを組織が立ち上げるまで、通常は時間がかかることです。そこで私たちの論文が登場します。AIベースの翻訳システムを使う摩擦のないプラットフォームで、この問いを考えてみましょう。」
国際貿易を押し上げる効果
2014年に200か国以上との間で140億ドルを超える取引を扱ったeBayのデータを用い、フイとリウは、言語翻訳の品質が適度に向上したことで、eBay上の国際貿易が10.9%増加したことを示している。
この論文は、米国の買い手と売り手の取引結果を、ラテンアメリカ、ヨーロッパ、アジアの国々を含む、主に英語を話さない国々の取引結果と比較している。研究者らは、eBayが2014年にAIを活用した新しい機械翻訳サービスを導入する前後の貿易を調べた。いくつかの指標では、このサービスによって翻訳の品質が約10%向上した。
研究者らはまた、フイが以前の研究で検討した貿易コストの指標と結果を比較した。eBay上で取引相手間の距離が縮まると、貿易コストは低下する。「機械翻訳の導入は、国と国の間の距離を26.1%縮めるのと同等だと示しました。」
研究チームは貿易データを分析するため、2つの手法を用いた。まず、高度な翻訳が利用できる国と利用できない国への米国の輸出を比較した。上のグラフは技術導入後の結果を示しており、利用可能な国々への米国の輸出が目に見えて増加している。
次に研究チームは、機械翻訳が長い商品タイトルと短い商品タイトルに及ぼす影響を調べ、貿易を増やし得る他の要因(マーケティングの強化など)の影響を抑えた。長いタイトルの翻訳にはより大きな費用と労力が必要だが、より大きな見返りが得られるため、機械翻訳を導入する利益はこうした商品で大きいはずだ、という仮説だった。
一方、eBayがマーケティングを強化したのであれば、長いタイトルも短いタイトルも同じように影響を受けるはずだ。しかし、下のグラフは、長い商品タイトルのほうが大きな影響を受けたことを示している。
研究者らは、「これらの比較から、言語の壁が貿易を妨げる影響は非常に重要であることが示唆される」と記している。「機械翻訳の改善により、eBayの世界は大幅につながりやすくなった。」
著者らによると、研究の完了後、Googleはさらに高性能な言語翻訳ツールを公開し、「翻訳品質を大幅に改善」した。研究結果に基づけば、「(Googleのソフトウェアが)国境を越えた貿易に及ぼす影響は大きい可能性がある」という。
著者らは、eBayへの機械翻訳の導入は、影響を測定できる明確な実験の機会をもたらすと論じている。しかし最終的には、AIの影響はほぼすべての経済部門で見られるようになるだろう。
新しいシステムが稼働するにつれ、「本論文で検討したもののような自然実験を通じて、AIの経済的影響を評価する新たな機会が生まれるだろう」と著者らは記している。




