経営幹部は、人工知能(AI)について、戦略的な影響から新たな事業リスクまで、さまざまな角度から検討する必要があります。
従来のテクノロジーとは異なり、AIにはますます複雑な意思決定を行う能力があり、新たなビジネス機会を生み出します。一方で、AIによる意思決定にはAIに対する責任も伴います。
責任あるAIを企業運営に組み込むには、新たな慣行を導入し、適切なAIガバナンスを確立する必要があります。
新しいツールキットはこちらでご覧ください。
人工知能(AI)への投資は、近年拡大しており、議論の焦点は、AIでビジネス価値を生み出す方法から、責任ある倫理的な方法で価値を生み出す方法へと移りつつあります。価値の創出、破壊的変革、そして破壊をもたらすAIの可能性を踏まえると、経営幹部はこのテクノロジーの「可能性の芸術」と「可能なことに伴うリスク」をより深く理解し、管理することが不可欠です。
そのために経営幹部は、自らとチームに適切な問いを投げかける必要があります。AIがどのような戦略的選択肢を生み出すかだけでなく、何がAIをリスクの高いものにするのか、導入時にどのようなリスクを考慮すべきかも問う必要があります。組織全体にAIを組み込み、AIガバナンスを検討するために、最も効果的な組織設計を見極めることも求められます。これには、新たな規制を遵守し、顧客やその他のステークホルダーの信頼確保を重視しながら、AIを倫理的に導入するために組織が活用できる慣行も含まれます。
AIがビジネスや社会にもたらす影響のような複雑なテーマでは、適切な問いを投げかけることは、考え得る多くの「正解」を特定することと同じくらい、あるいはそれ以上に重要です。さらに、AIが提起する問いへの答えを得るには、技術、組織、規制、社会、さらには哲学的な要因にまたがる、多角的なアプローチと包括的なAI理解が必要です。
こうしたアプローチを、私たちは世界経済フォーラムのAI経営幹部向けツールキットで採用しました。このツールキットは、産業界と学術界の専門家の知見に基づいて開発されました。経営幹部が組織を導き、このテクノロジーを責任ある形で活用できるよう支援することを目指しています。
AIがもたらす可能性
たとえば、AIがもたらす戦略的な影響を考えてみましょう。他のテクノロジーとは異なり、AIには、どの顧客にどの商品を勧めるかから、顧客、さらには医療トリアージにおける患者の優先順位をどう決めるかまで、自動(または半自動)で意思決定を行う能力があります。AIは、人に依存する変動費をAI対応ソフトウェアの固定費に置き換えられるため、企業のコスト構造と拡張性に根本的な変化をもたらします。
AIは、自動化を従来可能だった範囲よりさらに進めることができます。頻繁に繰り返される多くの業務は、たとえば、どの顧客がローンを返済できなくなる可能性が高いかといった予測に基づいています。AIがデータを使って学習し、実行できる業務は自動化でき、改善も可能です。
顧客満足度やエンゲージメントに関するKPIから、プロセス効率の指標や従業員の生産性に至るまで、従来テクノロジーの影響を受けてきた事業指標も、AIによって改善できます。
自動車や保険などの業界ですでに見られるように、AIは業界に破壊的変革をもたらす可能性もあります。
AIの成熟度と組織の準備状況
組織のAI能力が成熟するにつれて機会は広がりますが、AIの成熟に至る道のりは容易ではありません。経営幹部は自組織のAI成熟度を評価し、進展を妨げる障壁を把握する必要があります。また、必要となる組織面・文化面の変化と、AI導入後に生じる変化を検討しなければなりません。
組織全体にAIとデータに基づく意思決定を組み込むための適切な組織設計を定めることは複雑です。エンジニアリング部門から顧客対応部門まで、組織のあらゆる部分でAIを活用できるようにし、従業員のスキルを効果的に高めるには、複数の課題を克服する必要があります。個々のAIプロジェクトの導入でさえ、成功が約束されているわけではありません。経営幹部は、変更管理の課題など従来の要因に加え、プロジェクトの失敗に多大なコストをもたらしかねない新たな実行リスク要因を理解する必要があります。これには、非常に難しいデータの問題や、導入したAIモデルの継続的なリスク管理に伴う困難などが含まれます。
組織が直面するAIリスクの可能性
ここまでで、経営幹部が把握すべきAIの全体像の半分に触れました。残る半分は、組織と社会が直面する新たなAIリスクです。力には責任が伴います。これはAIにも当てはまります。AI搭載システムが自動で意思決定を行う能力は、プライバシー侵害や差別の可能性など、さまざまな新たなリスクにつながります。たとえば、似た属性の顧客がAIによって異なる扱いを受けることがあります。安全面やセキュリティ面の新たなリスクも生じます。
経営幹部は、自組織がAIをどう導入できるかだけでなく、責任ある形でどう導入するかも理解する必要があります。新たなリスクが顕在化すれば、AIの「導入成功」が長期的には高い代償を伴うこともあります。AIで成功するには、事業価値の創出とリスク管理の両方が重要です。経営幹部は、AIが自社にもたらす新たなリスクは何か、どう管理できるか、AIガバナンスはどのような役割を果たすのか、どう考えるのが最善か、といった問いに答える必要があります。
AIの導入を成功させるための実践的なツールキット
AIの開発は半世紀以上にわたって続いてきました。主要な技術革新が普及し、実際に大きな影響を及ぼす段階に達するには、これほどの時間がかかります。AIがビジネスや社会を変革する可能性が見え始めたのは、ここ数年のことです。
世界経済フォーラムは、AI経営幹部向けツールキットを開発しました。経営幹部が組織を責任あるAI活用へと導く際に検討すべき問いを示すものです。問いはAIのライフサイクル全体にわたって構成されており、AIがビジネス、戦略、人材、組織変革にもたらすものから始まり、責任あるAIの導入に特に焦点を当てています。また、AIとサステナビリティ、さらに産業用AIについて、経営幹部が検討すべき具体的な問いも示しています。
この取り組みはまだ初期段階にあり、AIがもたらすプラスとマイナスの影響の一部を理解し始めたところです。責任あるAIのイノベーションと導入が当然のこととして実現するわけではありません。それを実現するうえで経営幹部は重要な役割を担い、多様な側面を理解して幅広い問いを投げかける必要があります。


