ChatGPTのような大規模言語モデルは、論文の執筆や研究の要約、さらにはコードの作成までこなし、世界の注目を集めています。
しかし、AI搭載ロボットがテキストで返答するだけでなく、あなたが自然で受け入れやすいと感じる方法で関わってきたら、何が起こるでしょうか。
ロボットなど物理的な形を持つ「身体性AI」の未来には、機械が学ぶ方法を見直すことが必要です。インターネットからだけでなく、私たちから学ぶ方法です。
大規模言語モデル、たとえばChatGPT、ClaudeやDeepSeekは世界の注目を集めています。次に来る可能性が最も高い単語を予測することで、論文を執筆し、研究を要約し、さらにはコードを書くこともできます。
これらのシステムは、AIによるテキストの処理と生成がいかに進歩したかを示しています。しかし、AIに身体が宿ったら、何が起きるでしょうか。
世界経済フォーラムは、人工知能のためのガードレールをどのように構築しているのでしょうか。
AIエクセレンスセンターは、分野を越えてリーダーを結びつけ、人工知能の急速な進化と、それが経済や社会にもたらす影響への理解を深めます。AI導入に伴う機会、リスク、トレードオフについて、十分な情報に基づく対話を支援しています。
信頼できる場と協働の取り組みを通じて、同センターはパートナーが共通認識を築き、AIのイノベーションと活用に責任あるアプローチをともに進められるよう支援します。
次の単語ではなく、次に適切な行動を予測するAI搭載ロボットを想像してみてください。テキストで返答する代わりに、あなたが自然で受け入れやすいと感じる方法で挨拶したり、物を手渡したり、会議室まで案内したりするかもしれません。
この「身体性AI」の構想は、新たな問いを投げかけます。テキストよりはるかに豊かで予測しにくい世界で、ロボットはどのように振る舞いを学べるのでしょうか。また、安全で倫理的かつ包摂的な形で人間社会に溶け込めるようにするには、どうすればよいのでしょうか。
ロボットの訓練がチャットボットより難しい理由
現在の大規模言語モデル(LLM)は、インターネットや書籍、会話から収集した数兆語のテキストを使って訓練されています。
言語の統計的なパターンを学習した後、人間からの安全性と関連性を高めるためのフィードバックを用いて微調整されます。ChatGPT-4の訓練には、およそ1ペタバイトのデータが必要だったと伝えられています。これは、高画質動画を13年以上連続して視聴する量に相当します。
それでも、ロボットに必要となるデータ量と比べれば、わずかなものです。物理世界はテキストよりはるかに複雑です。そこを移動するには、ロボットは次の単語だけでなく、次に起こりうる出来事や感覚入力も予測する必要があります。
簡単な例を考えてみましょう。玄関ドアの前に立つロボットです。ドアは蝶番を軸に開くこと、呼び鈴は固定されていること、壁が突然消えたりはしないことを理解していなければなりません。そのためには、物理法則や物体、社会規範に根ざした世界モデルが必要です。
倉庫や組み立てラインのような管理された環境では、こうしたモデルを構築できますが、変化や不確実性が絶えない日常生活では機能しなくなります。
参考までに、4歳になるまでに子どもが処理する視覚的な感覚入力は、推定で10テラバイト相当に達します。これは、ChatGPT-4の訓練に使われたデータ量に近い規模です。
しかも、これは視覚だけの量です。聴覚、触覚、味覚、固有受容感覚、嗅覚からの入力は含まれていません。こうした身体を通じた学習によって、子どもは現在のAIシステムには及ばない形で、世界の仕組みを理解できるようになります。
ロボットの学習について人間から学べること
人間が優れた学習者であるのは、脳や身体を通じた学習のおかげだけではありません。文化を学ぶからでもあります。
哲学者ダニエル・デネットは、文化化、つまり観察、経験、指導を通じて自分の文化の規範、価値観、行動を学ぶことが、人間がきわめて効果的に、脳に備わる「思考の道具」を使い、他の霊長類をはるかに超えて発達した理由だと論じました。
チンパンジーも社会的に学びますが、積極的な指導はありません。たとえば、チンパンジーの子どもは石を使って木の実を割る方法を覚えるのに何年もかかります。大人のチンパンジーは、木の実の割り方を子どもに積極的に教えないため、子どもは受け身の観察と模倣を通して学ぶからです。
一方、人間の子どもは、他者から意図的に教わることで恩恵を受けます。世代を重ねるなかで、こうした文化的適応は新たに生み出され、蓄積され、人類の並外れた成功を支えてきました。
ロボットに効果的に学習させるには、社会的学習と積極的な指導における人間の能力を活用し、身体を通じた学習に社会的な交流や文化の伝達を組み合わせ、積極的に教えるモデルを検討するとよいでしょう。
社会的な合図から積極的な指導へ
学習を実現する方法として、二つのアプローチが有力です。最善の道は、両方を組み合わせることです。
社会的強化学習(SRL):チンパンジーとは異なり、人間は世代を超えて積極的に教え、社会的に学ぶことができます。ロボットは、笑顔、しかめ面、驚いた表情、大きくなった声、人が離れていく様子などの社会的な合図を読み取り、文化化された人間のフィードバックからリアルタイムで学習できます。子どもが周囲からの肯定や否定を通じて学ぶのと同じように、こうした合図はロボットをより受け入れられやすい行動へと導くでしょう。
積極的な指導:受け身の観察にとどまらず、人間がロボットの指導に積極的に関わることもできます。これには、実演から学ぶといった従来の方法に加え、人が無意識に近い形で認識するミスへのさりげない否定的フィードバックなど、より社会的な方法も含まれます。また、特定の状況でロボットが提示した選択肢から、最も適切な行動を人間が選ぶ方法もあります。訓練は病院や学校などの実環境でも、シミュレーションでも行えます。
時間をかけて、これらの方法はロボットが配備先の状況に合った行動パターンを身につける助けになります。たとえば病院のロボットはベッドサイドでの礼儀作法を徐々に学び、物流ロボットは倉庫で働く人々との接し方を磨いていくでしょう。
計画立案と複雑性の課題
社会的に学習できるようになっても、ロボットには階層的な計画立案という課題が残ります。
誰かを駅まで連れていくという、一見簡単な目標を考えてみましょう。アパートを出る、ドアに鍵をかける、バスに乗る、正しいホームへ向かうなど、複数の段階に分かれたサブ目標を管理する必要があります。各段階では、交通状況から人とのやりとりまで、予測できない障害に直面します。
ロボットが、個々の筋肉の動きに至るまで、あらゆる小さな動作を事前にすべてプログラムするのは現実的ではありません。代わりに、事前訓練と、状況の進展に合わせてサブ目標を調整する能力を組み合わせる必要があります。
実演や、オンラインまたはオフラインのフィードバックを通じた人間の積極的な指導は、ロボットがこうした複雑さに対処するうえで不可欠となる可能性があります。
今これが重要な理由
ロボットはもはやSFの世界に限られた存在ではありません。都市で食事を配達し、倉庫で作業を支援し、介護施設で人々に寄り添っています。生成AIが物理的な機械に搭載され始めるにつれて、その影響は広がります。
機会:建設や採掘の危険な作業を担ったり、高齢者介護を支援したり、気候災害に対応したりできます。
リスク:慎重に設計しなければ、雇用を奪い、不平等を深め、兵器として利用されるおそれさえあります。プライバシー、安全性、信頼が懸念されます。
選択:リーダーは、ロボットがどこで役割を担うのか、導入によって誰が恩恵を受けるのか、そして人々の信頼を得るシステムをどう構築するのかを決めなければなりません。
文化を学ぶロボティクスの呼びかけ
物理的な形を持つAIの未来は、データの規模を拡大するだけでは切り開けません。
機械が学ぶ方法を見直す必要があります。インターネットからだけでなく、私たちから学ぶ方法です。ロボットが家庭、職場、街路を私たちと共有するなら、文化化が必要です。人間の発達を補完する形で、身体を通じた相互作用、社会的な合図、積極的な指導を通じて学ばなければなりません。
これは大きな課題であると同時に、機会でもあります。ロボットの訓練に文化的学習を組み込むことで、タスクを実行するだけでなく、私たちの生活の社会的な営みに責任ある形で溶け込む自律システムを形づくることができます。
問うべきなのは、AIに身体が宿るかどうかではなく、私たちの世界になじむ方法をどう教えるかです。


