自殺は、公衆衛生上の懸念として深刻さを増している。カナダでは毎年、自殺によって4,000人が命を落としている — 1日あたり10人にのぼる。
カナダ公衆衛生庁の分析によると、自殺による死亡者1人につき、自傷行為で入院する人が5人、自殺未遂が25~30件あり、さらに一つひとつの悲劇によって7~10人が影響を受けている。
自殺率は、たとえば先住民族、移民や難民、受刑者、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス(LGBTI)の人々など、特定の集団で最も高く、上昇傾向にある。
自殺の影響は広範囲に及ぶ。トロント交通局(TTC)は2017年末、交通機関での自殺企図が増加し、12月だけで8件に上ったと報告した。また、職員が受けた精神的負担を背景に、TTC職員のストレス休暇取得率も同様に上昇した。
人工知能(AI)、すなわち機械が示す知能は、こうした死亡を防ぐ助けとなるのだろうか?
カナダうつ病バイオマーカー統合ネットワークに所属する精神医学研究者として、私たちは大うつ病の人々への治療介入中に、臨床データと生物学的データを収集している。モバイルヘルス技術を用いて、行動や気分の変化を示す早期の手がかりを探っている。
私たちの目標の一つは、再発や自殺行動のリスク上昇を早期に予測する指標を特定することだ。
ここでは、自殺予防におけるAIの有望な応用例を検討し、この分野に立ちはだかる障壁にも注目する。
AIが自殺率を予測
2018年初め、カナダ公衆衛生庁は、Advanced Symbolicsとの試験プロジェクトを発表した。同社はオタワを拠点とするAI企業で、ブレグジット、トランプ大統領の誕生、2015年のカナダ総選挙の結果を的中させた実績がある。
このプロジェクトでは、カナダのソーシャルメディア投稿のパターン(自殺に関する内容を含む)を調べ、地域ごとの自殺率を分析・予測する。ただし、利用者の身元情報は収集しない。
このプログラムは、リスクの高い事例を個別に特定したり、個人に介入したりするものではない。調査結果は、メンタルヘルス資源の計画に役立てられる。
Facebookが緊急対応要員に通知
2011年、Facebookは手動の自殺報告システムを開発した。利用者は自殺に関する投稿のスクリーンショットをアップロードし、審査を依頼できた。
2015年、このシステムでは、利用者が懸念のある投稿に「フラグ」を立てられるようになり、Facebookのスタッフが投稿を確認し、支援に役立つ情報を提供する仕組みになった。
このツールが成果を上げたことを受け、FacebookはAI機能を拡充し、自殺に関する投稿を自動検出して、地域の緊急対応要員に通知する取り組みを始めた。さらに、対応言語が増え、Instagramにも機能が拡張された。
チャットボットがうつ病の治療を支援
AIは1990年代から医療分野で使われ、病気の検出や、健康状態を示すさまざまな指標の改善に役立てられてきた。
メンタルヘルス分野では、AIによって診断の速度と精度が向上し、治療法の選択を導く「決定木」も活用されている。
「治療」への新たなアプローチとして、音声やテキストで人間のような会話を模倣するよう設計されたコンピュータープログラム、会話型ボット(チャットボット)がある。
チャットボットは、認知行動療法(CBT)に基づき、うつ病や不安症への心理的介入を提供できる。提示された対話に応じて独自に返答するため、患者の感情状態や臨床上のニーズに合わせて介入内容を調整できる。こうしたモデルは、かなり使いやすいと考えられており、チャットボット自体が利用者に合わせて返す応答も高く評価されている。
同様の技術はスマートフォンにも導入されつつあり、iPhoneのSiriのような音声アシスタントが、利用者のメンタルヘルス上の懸念を認識し、適切な情報や支援に役立つリソースを提示できるようになっている。しかし、この技術の信頼性は確立されておらず、まだ初期段階にある。ほかにも、スマートフォンのアプリの中には、ゲームを使ってメンタルヘルスケアに関する教育を促進するものがある。
患者ケアの向上を目指し、ほかの領域でも自殺リスク管理にAI技術が取り入れられている。AI評価ツールは、短期的な自殺リスクを予測し、臨床医と同等の治療推奨を行えることが示されている。こうしたツールは患者からも高く評価されている。
AIモデルが個人のリスクを予測
自殺リスクの評価と管理は、現在も非常に主観的だ。成果を高めるには、より客観的なAI戦略が必要である。有望な応用例には、自殺リスクの予測と臨床管理がある。
自殺には、心理社会的、生物学的、環境的、経済的、文化的なさまざまな要因が影響する。AIを使って、これらの要因と自殺に関する結果との関連を探ることができる。
AIは、複数の要因が自殺に及ぼす複合的な影響をモデル化し、そのモデルを用いて個人のリスクを予測することもできる。
一例として、ヴァンダービルト大学の研究者らは最近、AIモデルを設計した。このモデルは電子健康記録を用いて自殺リスクを予測し、自殺事象の1週間以内では84~92%、2年以内では80~86%の精度を示した。
慎重に前進する
人工知能を活用した自殺予防の分野が発展するなか、対処すべき潜在的な障壁がいくつかある。
プライバシー:AIに関連するリスク、特に機密性の高い健康情報の収集、保管、移転、利用を対象に含めるため、保護法制を拡充する必要がある。
精度:システムの偏りや誤りを含め、自殺の意図を正確に判定できるAIの精度を確認してから、個人を高リスク(または低リスク)と分類する必要がある。
安全性:AIプログラムが自殺を考えている利用者に適切に対応し、感情状態を悪化させたり、自殺の計画を誤って助長したりしないようにすることが不可欠である。
責任:AI技術が高リスクと判定した事例を適切に扱う方法や、AIによるリスク評価が臨床上の見解と異なる場合の対応について、手順を定める必要がある。
理解不足:主要な利用者の間には、自殺予防においてAI技術がどのような役割を果たすのかについて知識の隔たりがある。これを解消するには、このテーマに関する教育をさらに進める必要がある。
総じて、AI技術は、自殺のスクリーニングや介入の提供を含む医療のさまざまな領域で、今後も活用され続ける。



