議論し、自らの考えを他者に伝える能力は、人間であることを特徴づける要素の一つです。
議論と討論は、文明社会と知的生活の礎です。議論のプロセスは政府を動かし、科学的探究を形づくり、宗教的信念の枠組みとなっています。人工知能の新たな進歩によって、コンピューターがこうした能力を身につけつつあることを懸念すべきでしょうか。
テクノロジーが暮らしを変えるなか、私たちは新しい働き方や交流の方法に慣れつつあります。ミレニアル世代は、それ以外を知りません。政府や司法機関は、民主的・法的なプロセスに市民を参加させるうえでテクノロジーがもたらす可能性に目を向け始めています。選挙においてソーシャルメディアが果たす大きな役割を理解し、先を行く政治家もいます。しかし、深刻な課題もあります。
その一つを見事に示しているのがUpworthyのCEO、イーライ・パリサーがTEDトークで語った内容です。私たちは「フィルターバブル」の中で暮らし始めていると、彼は説明しています。Googleである言葉を検索したときに目にする結果は、同じ言葉を検索した私の結果と必ずしも同じではありません。Fox Newsから、最近ではBBCに至るまで、メディア各社はコンテンツを個人に合わせており、IDやログイン情報を使って、どの記事を目立つ位置に掲載するかを選んでいます。その結果、似た考えを持つ人々の反響室に閉じこもり、議論が一面的で、バランスを欠き、他の見解への理解に乏しくなるおそれがあります。
批判的思考が重要な理由
もう一つの懸念は、ニュースや情報の量が増え続ける一方で、信頼性がますます低下していることです。「フェイクニュース」をめぐる非難や反論は、今や日常茶飯事です。
こうした課題を前に、批判的思考のスキルはかつてないほど重要になっています。証拠を迅速かつ効率的に判断・評価し、反響室の外に出て別の視点から考え、多くの場合チームで情報を統合し、双方の論拠のバランスを取り、確かな根拠に基づいて擁護できる結論に至る力です。これらの議論のスキルは、アリストテレスの時代から2,000年以上にわたり、哲学の学術研究の対象となってきました。
議論テクノロジーセンターダンディー大学の議論テクノロジーセンター(ARG-tech)は、人間がどのように議論し、意見を異にし、合意に達するかを説明する哲学、言語学、心理学の理論を取り入れて発展させ、それらを出発点として、人間の議論をモデル化・認識・指導し、さらには参加する人工知能ツールを構築することを目指しています。

この分野の現代研究における課題の一つは、十分なデータを集めることでした。たとえばディープラーニングなどのAI技術には、堅牢なアルゴリズムの構築に役立つ、慎重に精査された膨大なデータ例が必要です。
しかし、そうしたデータを得るのは非常に困難です。わずか数分の議論から論拠の組み立て方を解きほぐすには、高度な訓練を受けた分析者が何時間もかけて細心の作業を行う必要があります。
10年以上前、ARG-techはBBCラジオ4の番組、モラル・メイズに着目し、「最高水準」の討論の事例としました。感情を揺さぶる時事問題をめぐる厳密で緻密な議論を、慎重かつ節度ある司会進行で展開する番組です。非常に価値の高いそのデータは、実証的な根拠に基づく議論テクノロジー研究の一連の取り組みに活用されました。
テクノロジー
こうした難度の高いデータに取り組むことで、哲学理論から大規模なデータ基盤まで、あらゆるものが試されることになりました。2017年10月、BBCラジオの宗教・倫理部門と協力し、2種類の新しい議論テクノロジーを導入する試験運用を行いました。
最初に開発したのは、一連の「分析ツール」でした。まず、モラル・メイズの各討論について、何千もの個々の発言と、それらすべての発言内容を結ぶさらに何千ものつながりからなる巨大なマップを作成しました。次に各マップを一連のインフォグラフィックに変換し、アルゴリズムで中心的なテーマを特定しました(GoogleのPageRankアルゴリズムに似た手法を使用)。最も意見が分かれる問題や参加者の立場、討論で対立が頂点に達した場面、論拠がどの程度裏付けられているかなどを自動的に特定しました。
その成果は、bbc.arg.techでモラル・メイズと連携して公開され、討論で実際に何が起きているのかを、証拠に基づいて理解する初めての方法を提示しています。
2つ目は「ディベーター」と呼ばれるツールです。モラル・メイズの司会者の役割を担い、自分なりの番組を進行できます。参加者それぞれが示した論拠をたどり、優れた議論を見抜く自分の直感に従って、論点を検討できます。
どちらの取り組みも、洞察をもたらし、質の高い、より内省的な議論を促すことを目指しています。一方では、実際に何が有効かを示すデータに基づき、議論のスキルを高める方法の要約を提供します。
もう一方では、そうしたスキルを明示的に教える機会を提供します。BBC Tasterサイトで公開された議論力を試そうの試作版では、モラル・メイズの事例を使って少数の議論スキルを探り、機械を相手に直接腕試しができます。
チームで取り組む
最終的な目標は、議論で人間に勝てる機械を作ることではありません。AIソフトウェアが人間の議論に貢献する可能性こそ、はるかに刺激的です。議論の種類を認識し、批評し、別の見解を示し、理由を掘り下げることは、いずれも今やAIにできることです。
真の価値はここにあります。情報分析から経営管理まで、難しく複雑な状況に対処するため、人間と機械がともに議論するチームを組むことです。
このような、人間と機械が協働する「混合主導型」の推論チームは、AIとの関わり方についての考えを一変させ、私たちが集団で推論する能力も高めてくれるでしょう。


