生成AIツールは2023年に一気に一般に普及し、クリエイティブ産業が拡張される可能性のある未来への対応を模索するなか、ハリウッドではストライキが起きました。
アーティスト、ミュージシャン、コンテンツ制作者が世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、AIとともに創造的な未来を切り開く方法について議論しました。
ダボス会議のセッションから、主な発言をいくつか紹介します。
野球帽をかぶったイルカ。
ボウルの中の幸せ。
希望をひとつかみ。
これらは、画像を生み出した4,000件を超えるプロンプトのほんの一部です。ただし、AIが生成した画像ではありません。ニューヨークを拠点とするアーティスト、パブロ・デルカンの作品であり、彼のアート実験は「史上初の非AI生成アートモデル」を自称しています。
デルカンは自身のウェブサイトPrompt-Brushで、1月に公開されたこのサイトを通じて、人々にプロンプトを添えたメッセージを送るよう呼びかけています。届いたプロンプトをもとに「黒インクで絵を描いて、あなたに送ります」としています。
「このプロジェクトは、創作過程における人間の経験の価値をめぐる議論に貢献し、個人的な解釈とプロセスの重要性を強調することを目指しています」と、ウェブサイトは説明しています。
「人間の要素とAIを並置し、それぞれの長所と役割を探っています。」
人間とAI
ここ数年で、人工知能は広く一般に認知されるようになり、ChatGPTやClaude.aiのような生成AI文章作成ツールや、MidjourneyやDALL-Eのような画像生成ツールの性能が向上し、より広く利用できるようになりました。そして人々、企業、アーティスト、ミュージシャン、さらにはハリウッドの映画スタジオまでもが、AIとどう協働するか、あるいはしないかを模索しました。
たとえば2022年8月、Midjourneyを使って制作された作品『Théâtre D’opéra Spatial』が、物議を醸しながらも美術コンテストで優勝し、米国で制作者のジェイソン・アレンに栄冠をもたらしました。
クリエイティブ分野のAIツールが広がるなか、倫理、規制、ガードレールをめぐる緊急の議論が始まりました。創造性の拡張や生産性の向上といった生成AIの潜在的な利点が、データプライバシー、著作権侵害、不正確さといった問題点と比較検討されています。
これに伴い、FOBO、つまり「時代遅れになることへの恐れ」も広がっています。米国では労働者の5分の1以上が、新興技術によって職を失うのではないかと懸念しています。
しかし、世界経済フォーラムの調査によると、AIは既存の仕事を拡張するだけでなく、まったく新しい分野に新たな仕事を生み出すことも示されています。
AIを「経済と社会の原動力」と捉えることは、2024年1月にダボスで開かれたフォーラム年次総会の主要テーマのひとつでした。アーティスト、ミュージシャン、コンテンツ制作者が、AIとともに創造的な未来を切り開く方法について議論しました。
生成AIとハリウッド
2023年5月、全米脚本家組合は賃金をめぐってストライキに入り、AIへの懸念が前面に浮上しました。
6月には、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』が劇場公開され、80歳のハリソン・フォードがAIプログラムを使って若返った姿で登場しました。
そして7月には、米国の俳優組合であるSAG-AFTRA(映画俳優組合・米国テレビ・ラジオ芸術家連盟)の組合員が118日間のストライキに入り、俳優に取って代わる目的でAIが使われることへの保護が、主な争点となりました。
ダボス会議のセッション「Workers in Focus」で、SAG-AFTRAの首席交渉官ダンカン・クラブツリー=アイルランド氏は、AIは「交渉における非常に重要な問題でした」と述べました。
「この分野では、特に声優が最前線に立つことになります。音声だけで生成AIを使うための技術的な要件はより簡単で、その分、導入も速く、容易だからです。
「クリエイティブ産業全般、そしてテレビ、映画、ビデオゲーム業界に大きな影響を与え、広く浸透するでしょう。」
SAG-AFTRAと全米脚本家組合のストライキは、合わせて業界に65億ドルを超える損失をもたらしましたが、合意が成立した今、クラブツリー=アイルランド氏は、ほかの企業や業界がこの事例から学べることを期待しています。
「AI導入に関する決定を下すのはAIではなく人間だということを、私たちは忘れてはなりません。決定を下すのは企業幹部だけでなくてよいのです。これは私たち全員で行うべき決定であり、労働者と社会もその意思決定に重要な役割を果たすべきです。」
「クリエイティブ産業は、AI導入に人間中心のアプローチを取らなければ、その産業の心と魂、存在意義そのものを失う危険がある分野のひとつです。」
生成AIと音楽業界
伝説的なプロデューサー、ナイル・ロジャース氏は、音楽への貢献、構造的な人種差別、不平等、不正義との闘いへの献身、そして若い世代の声を後押ししてきた功績により、クリスタル賞を受賞するためダボスを訪れました。
Radio Davosのインタビューで、同氏は作家ディーパック・チョプラ氏との昼食時の会話を通じてAIに対する見方が形づくられたと語りました。チョプラ氏はこう話したといいます。「テクノロジーは人間と同じように、美しくもあり、悪魔的でもあります。」
同氏は創作過程で生成AIをまだ使っていないものの、将来は使うだろうと「思っている」と述べ、こう付け加えました。「アーティストが創作するのを可能にするツールは、どれも素晴らしいものです……」
ただし、「誰かの模倣に使うことは絶対にありません」と明言しました。

ダボス会議では、AIがクリエイティブ産業に及ぼす影響をテーマにしたセッションが丸ごと設けられました。「生成AIは創造性にとって恩恵か、それとも脅威か?」には、YouTubeのニール・モーハンCEOと、世界知的所有権機関(WIPO)のダレン・タン事務局長が登壇しました。
タン氏は法科大学院で学んでいた頃、セミプロのジャズピアニストとして活動していました。同氏は、AIをめぐるミュージシャンやクリエイターの課題を理解しているとしたうえで、「ミュージシャンは常にテクノロジーを受け入れ、表現の新たな形を見つけるために、使えるツールは何でも使ってきました」と述べました。
2023年4月、カナダ人歌手のグライムス氏は、自分の声を使ってAI生成の楽曲を制作するミュージシャンと印税を分け合うと発表し、AIソフトウェア「Elf.Tech」を公開しました。このソフトウェアを使うと、ほかの人も彼女の声で歌うことができます。
2023年11月、ビートルズは最初のフレーズが書かれてから45年を経て、シングル「Now and Then」をリリースしました。この曲では、デモ用カセットからAIを使ってジョン・レノンのボーカル音源が「取り出され」ました。
「ミュージシャンはすでにAIに反応し、創造力を高め、拡張する手段としてAIを使い始めています」とタン氏は述べました。「そして、これは始まりにすぎないと思います。」
モーハン氏はAIを創作過程の「民主化」に役立つ「革命」と捉え、人間の創造性を拡張するためのものだと考えています。
「YouTubeのモットーは、AIを人間の創造性に取って代わるものにしてはならない、ということです。AIは私たち全員の創造性を高めるためのツールであるべきです。」
2023年8月、このプラットフォームはAI音楽インキュベーターを立ち上げました。これはYouTubeとGoogle DeepMindの共同事業で、アーティストが新しいAIツールを試し、プロンプトを入力してさまざまな音を生み出せるようにするものです。
「アーティストの創造性を一気に高めるようなものです。アーティストからいつも聞くのは、『すごい。1週間前には人間にできるとは思いもしなかった音楽を作れる』という言葉です。」
AIによってクリエイティブ産業が今後どう変わろうとも、AIに関する最善の慣行に合意するには、アーティストと規制当局がはるかに緊密に連携する必要があるとタン氏は述べました。「規制の調和、あるいは相互運用性の何らかの形が必要になるでしょう。」
世界経済フォーラムは人工知能のガードレールをどのように構築しているのか?
AIエクセレンス・センターは、人工知能の急速な進化と、それが経済や社会に及ぼす影響を理解するため、さまざまな分野のリーダーをつなぎます。AI導入に伴う機会、リスク、トレードオフについて、十分な情報に基づく対話を支援しています。
信頼できる対話の場や協働の取り組みを通じて、同センターはパートナー間の共通理解を深め、AIのイノベーションと活用に責任ある形で取り組めるよう後押しします。
タン氏はまた、今も26億人がインターネットにアクセスできないとダボス会議の聴衆に念を押しました。アクセスできる人々のうち、AIを使えるだけの計算能力を持つ人は90%に満たないと同氏は述べました。
「AIへの期待が高まるなか、そうした人々を確実に巻き込む必要があります……音楽がより多様化するなかで、私たちはもっと包摂的にならなければなりません。」


