AIがもたらすリスクが見出しをにぎわせる一方、舞台裏では、気候変動やCOVID-19から世界の飢餓に至るまで、人類が直面する最大の課題に取り組むためにAIシステムを活用する静かな変革が進んでいる。
食料システムの改善は複数のSDGsの達成に極めて重要だが、それは、SDGsが描くより公平で持続可能な世界の実現にAIが貢献している多くの方法の一つにすぎない。
人工知能(AI)は急速に、そして加速度的に世界を変革し、大きな可能性をもたらす一方で、社会的・経済的な課題も生み出している。人間が機械に本能的な恐れを抱くのは、いつの時代も変わらない。技術の進歩は文化の変化を上回る傾向がある。少なくとも10年前から存在していた多くの技術の普及を加速させるには、世界的なパンデミックという衝撃が必要だった。
当然ながら、AIをめぐる公の議論の多くは、顔認識、自動意思決定、試験用アルゴリズムをめぐる最近の論争に焦点を当ててきた。自動化による雇用喪失は、AIシステムの規制を強化し、より倫理的なものにする必要性をいっそう浮き彫りにしている。
しかし、AIがもたらすリスクが見出しをにぎわせる一方、舞台裏では、気候変動からCOVID-19に至るまで、人類が直面する最大の課題に取り組むAIシステムを開発する新興スタートアップによる静かな変革が進んでいる。
目的意識を持つ新世代のイノベーターがAI分野に参入し、「善のためのAI(AI for Good)」は、SDGsを達成し、世界中の人々の暮らしと生計を向上させる最も強力な手段の一つとして台頭している。
農業部門は世界の就業人口の25%超を雇用し、75億人を養う役割を担っている。政府や産業界が何十年にもわたって取り組んできたにもかかわらず、その4分の1を超える人々、実に19億人が依然として中程度または深刻な食料不安に直面しており、約8億2,000万人は毎日十分な食事を取れていない。SDG 2「飢餓をゼロに」は、「飢餓を終わらせ、食料安全保障と栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」ことを目指す。
課題の大きさは計り知れない。世界人口は2050年までにほぼ100億人に達すると予測されており、地球上の人々を養うには、農家が2006年と比べて69%多くのカロリーを生産する必要があると専門家は推計している。同時に、既存の農業システムはすでに地球に大きな打撃を与え、世界の炭素排出量の10%超を占め、居住可能な土地の最大半分を利用している。その結果、生物多様性、淡水資源、自然の生態系に壊滅的な影響が及んでいる。

SDG 2の達成に向けて食料供給を拡大しながら、SDG 6(安全な水とトイレを世界中に)、13(気候変動に具体的な対策を)、15(陸の豊かさも守ろう)の進展を続けるにはどうすればよいだろうか。そこで登場するのがAIだ。AIは農業・食料システムのほぼすべての側面を変革し始めている。
農業におけるAIの先駆的な活用例4つ
AIが地球を守りながら飢える人々を養うために役立っている4つの方法を紹介する。
1. 農業分野のAIスタートアップの中には、農地に焦点を当てる企業がある。膨大な新しいデータセットを使って高度なアルゴリズムを学習させ、従来型農場の効率と生産性を高めている。イスラエルに拠点を置くProsperaは、4,700の農地から毎日約5,000万件のデータポイントを収集する。同社はAIでデータを分析し、病害や害虫の発生を特定するとともに、収量を増やし、廃棄をなくし、汚染を減らす機会を見つけている。
2. 別の企業は、AI技術を活用し、農業へのまったく新しいアプローチを一から構築することに注力している。PlentyとAerofarmsは、コンピュータービジョンとAIアルゴリズムを用いて養分の投入を最適化し、収量をリアルタイムで増やす垂直型の屋内農業を先駆けている。Root AIもコンピュータービジョンを活用しているが、高度なロボットと組み合わせ、果実の熟し具合を検知して最適な時期に収穫する。
3. AIを活用した屋内農業だけで2050年までに地球上のすべての人々を養うことは難しいが、取り組みを広げるほど望ましい。最先端のAI対応型施設では、従来の農地に比べ、1エーカー当たり20倍を超える食料を生産できると推定されており、水の使用量も約90%少ない。
4. AIは農業生産性の向上だけでなく、食料部門の中でも環境に最も大きな負荷を与える分野の一つである工業的な食肉生産にも活用されている。ブラジルのFazenda FuturoやチリのNotCoなどの企業は、植物データを大量に分析し、肉の食感や味を再現する最適な方法を見極めるAIツールを開発している。
市場が注目しているのは明らかだ。過去2年間で、冷蔵植物由来肉の売上は125%増加した。企業は有力なベンチャーキャピタルから大規模な投資を獲得している。食肉生産は世界の農業由来排出量のほぼ50%を占め、地域の汚染も多く引き起こしている。AIを活用した植物由来の代替肉への移行が広がれば、環境に大きな恩恵をもたらすと期待される。
政府も可能性に注目
各国政府も、国民を養い農業生産性を高めるうえでAIが持つ価値を認識し始めている。こうした機会の実現を後押しするため、世界経済フォーラムは最近、インド政府およびテランガーナ州政府と連携を開始した。農業におけるAIの価値の高い活用事例を特定し、革新的なAIソリューションを開発して、広く導入を進めることを目的としている。
プロジェクトの開始イベントで、テランガーナ州のIT・産業大臣は、政府関係者の間で広がりつつある見解を次のように述べた。「AIは、農家、政府、そしてエコシステムのあらゆる関係者に計り知れない可能性をもたらすと考えています」。
AIはSDGsの実現に貢献できる
食料システムの改善は複数のSDGsの達成に極めて重要だが、それは、SDGsが描くより公平で持続可能な世界の実現にAIが貢献している多くの方法の一つにすぎない。
一つの技術ですべての世界的な問題を解決することはできない。SDGsを達成するには、新技術に加え、政府の意欲的な政策、企業の取り組み、個人の行動が必要となる。私たちは、使えるあらゆる手段を活用しなければならない。AIが日々進化するなか、この技術を社会の最大の課題に取り組む新たな方法に生かすイノベーターや起業家を、さらに後押しすべきだ。
この記事はForbesに掲載された。


