人工知能(AI)にとって、歴史的な瞬間が訪れています。ビッグデータ、ハードウェアの進歩、強力なAIアルゴリズムの登場、そして業界やスタートアップの参入障壁を下げるツールを提供するオープンソースコミュニティなど、あらゆる要素がそろいつつあります。その結果、AIは研究室を飛び出し、都市の移動やライドシェア、エネルギーネットワークからオンラインの世界まで、私たちの日常生活に浸透しつつあります。
2018年、AIのビジネス価値が誰の目にも明らかになり始めています。AIは毎年、ますます多くのものに取り入れられ、さらに賢くなり、人間のイノベーションを加速させています。しかし、AIの能力が高まり、自律性が増し、用途と影響の範囲が広がるにつれ、未解決のAI安全性の問題が極めて重要になっています。リスクには、偏見、質の低い意思決定、透明性の不足、雇用の喪失、自律型兵器のようなAIの悪意ある利用が含まれます。
しかし、課題は「人間に優しいAI」の実現にとどまらず、「地球に優しいAI」を確保することにも及びます。自然環境の悪化がもたらす経済や人々の健康への影響が深刻化し、緊急性を増すなか、AIが従来の産業やシステムの変革にどう役立つかを検討する機会があります。気候変動への対処、食料と水の安全保障の実現、持続可能な都市の構築、生物多様性と人々のウェルビーイングの保護に向けた変革です。
この目的に向けて、今年のダボス会議で発表された、フォーラムとPwCによる新たな報告書では、地球のためにAIを活用する大きな機会を示しています。ここでは、地球規模の課題に取り組むために特定された、変革をもたらすAIの活用例を8つ紹介します。

1. 自律走行・コネクテッド電気自動車
AIが制御する自律走行車(AV)は、今後数年から数十年にわたり、オンデマンド型モビリティへの移行を可能にします。経路や交通の最適化、エコドライブのアルゴリズム、車両を連ねて走行させる「隊列走行」のプログラム、自律型ライドシェアサービスを通じて、都市交通の温室効果ガスを大幅に削減できます。実質的な効果をもたらすには、電動AVの車両群が不可欠です。
2. 分散型エネルギーグリッド
AIは、分散型グリッド全体で再生可能エネルギーの需要と供給の予測可能性を高め、エネルギー貯蔵、効率、負荷管理を改善できます。また、再生可能エネルギーの統合と信頼性を支援し、動的な価格設定と取引を可能にして、市場のインセンティブを生み出します。
3. スマート農業と食料システム
AIを活用した農業では、データの自動収集、意思決定、ロボットによる是正措置を通じて、作物の病気や問題の早期発見、家畜への適切な時期の栄養供給を可能にし、需要と供給に基づいて農業投入資源と収益を全般的に最適化します。これにより農業の資源効率が高まり、重要な生態系に損害を与える水、肥料、農薬の使用を減らし、気候の極端な変化に対するレジリエンスを高めることが期待されます。
4. 次世代の気象・気候予測
AIを活用して気象予測を根本的に変革し、気候変動の影響に対する理解を深める「気候情報学」という新たな分野が発展しています。この分野では従来、高性能でエネルギー消費の大きいコンピューティングが必要でしたが、ディープラーニングのネットワークを使えば、コンピューターの処理を大幅に高速化し、計算に現実世界のシステムの複雑さをより多く取り込めます。
10年余りで、計算能力の向上とAIの進歩により、家庭用コンピューターが現在のスーパーコンピューターと同等の能力を持つようになり、研究コストの低減、科学の生産性向上、発見の加速が実現するでしょう。AI技術は、モデルの偏りを補正し、データの劣化を避けるために最も関連性の高いデータを抽出し、極端な事象を予測するほか、影響のモデリングにも役立つ可能性があります。
5. スマートな災害対応
AIは、ある地域の気象事象や災害に関するシミュレーションとリアルタイムデータ(ソーシャルメディアのデータを含む)を分析し、脆弱性を見つけて災害への備えを強化し、早期警報を出し、緊急情報機能の連携を通じて対応の優先順位を決めることができます。深層強化学習をいつか災害シミュレーションに組み込み、最適な対応戦略を特定できるかもしれません。これは、現在AIがAlphaGoのようなゲームで最善の手を特定するために使われている方法に似ています。

6. AIが設計する、スマートでつながりのある暮らしやすい都市
AIを使って、用途地域の規制、建築条例、洪水想定区域の設定をシミュレーションし、自動化することができます。拡張現実(AR)や仮想現実(VR)との組み合わせも可能です。エネルギー、水の消費量と供給状況、交通の流れ、人の流れ、天候に関する都市全域のリアルタイムデータを活用すれば、「都市ダッシュボード」を構築し、都市の持続可能性を最適化できます。
7. 透明性の高いデジタル地球
リアルタイムで利用できるオープンAPIを備え、AIを活用した地球規模のデジタル地理空間ダッシュボードがあれば、これまで不可能だった規模と速度で環境システムを監視、モデル化、管理できます。違法な森林伐採、水の採取、漁業、密猟への対処から、大気汚染、自然災害への対応、スマート農業まで、幅広く活用できます。
8. 地球科学の飛躍を促す強化学習
入力データが不要で、必要な計算能力も大幅に少なく、進化のようにAIが自ら学習するこの初期段階の技術は、まもなく自然科学の現実世界の問題に応用できるよう発展する可能性があります。気候科学、材料科学、生物学など、強化学習を科学の進歩や発見に応用できるよう体系化できる対象を、地球科学者と協力して特定することが重要です。例えば、DeepMindの共同創業者デミス・ハサビスは、材料科学においてAlphaGo Zeroの後継モデルを使い、室温超伝導体を探せる可能性を示唆しています。これは、極めて効率的なエネルギーシステムを可能にする仮説上の物質です。
結びに、私たちは刺激的な時代を生きています。AIのような新興技術を使って、世界最大級の問題のいくつかに取り組むことが、今や可能です。地球のためにAIを活用する時が来ています。
「4IR for the Earth」プログラムは、世界経済フォーラム、PwC、スタンフォード大学の協働事業であり、MAVA財団の支援も受けています。このプログラムは、地球が直面する最も差し迫った環境課題に向けて、技術イノベーションの加速を目指しています。技術を活用して世界の環境課題への取り組み方を変革する新たな事業、パートナーシップ、ビジネスモデルを特定し、支援し、拡大することに貢献します。「4IR for the Earth」シリーズでこれまでに発表された報告書はこちらでご覧いただけます。


