安住の地を求めて
2016年には、推定6,560万人が、戦争から人権侵害に至るさまざまな理由で世界各地の住まいを追われました。前年より30万人多い数字です。
気候変動と地球温暖化は、住む場所を追われる人々の問題を深刻化させています。何百万人もの人々が移住を余儀なくされると予想されており、移住先はほかの、つまり比較的涼しいことの多い国々です。この問題は広がりを見せており、ニュージーランドは新たなビザの創設を検討しています。気候変動によって移住を余儀なくされた人々を対象とするものです。
故郷を離れるという苦渋の決断をした難民には、さらに多くの疑問が待ち受けています。どの国に逃れるのか。その国のどこに行けばよいのか。到着後、仕事に就けるのか。
通常、難民を受け入れる国は、空きのある場所に人々を割り当てるだけです。難民が到着した時点で受け入れ地域に空きがあれば、そこが新たな居場所となります。
しかし、スタンフォード大学とETHチューリッヒの研究者たちは、難民の就職や不慣れな社会への定着の可能性を高め、各国が受け入れ先をより効果的に決めるのに役立つ可能性のあるアルゴリズムを開発しました。研究成果は学術誌『Science』に掲載されました。

場所、場所、場所
難民の受け入れ先を決めるアルゴリズムを開発するため、研究チームは米国に定住した18歳から64歳までの難民3万人超について、2011年から2016年までの社会経済データを分析しました。英語力や教育水準などの個人特性、難民一人ひとりの就業状況、国内の定住先を調べました。
次に、このアルゴリズムを使って2016年後半に到着した難民にとって最適な受け入れ先を予測し、その予測を実際の結果と比較しました。アルゴリズムを使って受け入れ先を決めていれば、就業率は41%上昇していたと分かりました。
チームは、1999年から2013年にかけてスイスに到着した庇護希望者のデータを用いて、同じ実験を行いました。2013年末に到着した人々に難民受け入れ先割り当てアルゴリズムを使っていれば、就業率は73%高くなっていたでしょう。
「私たちが予測する雇用の増加はかなり大きく、政府や再定住支援機関にほとんど追加費用をかけずに実現できるものです」と、研究の筆頭著者の一人であるカーク・バンサック氏は述べました。スタンフォード大学のニュースリリースで同氏はさらに、「既存のデータを使って既存のプロセスを改善することで、このアルゴリズムは、ほかの政策革新をしばしば妨げる財政面や行政面の障壁を数多く回避できます」と述べています。
難民受け入れ先割り当てアルゴリズムは、政府や再定住支援機関にほとんど追加費用をかけずに導入できますが、チームは人間の職員に取って代わるものにはしたくないと述べています。AIが提案を行い、最終判断は再定住支援の担当者が下す形を想定しています。
ただし、それを実現する前に、アルゴリズムを実環境で複数回テストしたいと考えています。そのため、チームは政府や再定住支援機関と連携し、アルゴリズムの能力をさらに検証する複数の試験プログラムに取り組んでいます。
AIや機械学習が人々の予測を支援するために使われるのは、今回が初めてではありません。
アルゴリズムが常に人間より優れているとは限りません。広く使われている商用リスク評価ソフトウェアは、経験の浅いボランティアと比べて、再犯率の予測で優れているとは言えませんでした。一方、予測で驚くほど高い精度を示すものもあります。たとえば現在、自閉症、投票行動、心臓発作などを効果的に予測できるアルゴリズムがあります。
AIはまだ、あらゆる場合に人間を上回れる段階にはないかもしれません。しかしスタンフォード大学の研究者たちが指摘したように、成功の可能性が最も高まるのは、人間と機械が協力するときです。


