イェール大学の物理学者らは、将来、量子コンピューターにおける堅牢な情報記憶の基盤となり得る、新たな形態の量子摩擦を観測した。研究者らは数十年にわたる研究を土台に、約30年前に理論化された手法を実験で実証した。
この成果は学術誌『Science』に掲載され、F.W. Beinecke応用物理学教授Michel Devoretの研究室で行われた研究に基づいている。
開発途上にある技術である量子コンピューターは、量子力学の法則を利用して、特定の問題を従来型コンピューターより指数関数的に速く解くことが期待されている。電子のスピンや人工原子のエネルギー準位など、量子系に情報を記憶する。こうした記憶単位は「量子ビット」と呼ばれ、従来型の「ビット」に相当する。ビットが0または1の状態をとるのに対し、量子ビットは0と1の状態を同時にとることができる。この性質は量子重ね合わせと呼ばれ、強力な資源である一方、非常に壊れやすい。量子情報の完全性を保つことは、この分野の大きな課題だ。
論文の筆頭著者で、イェール大学の博士研究員であるZaki Leghtasは、この新たな形態の量子摩擦を説明するため、次のたとえを示した。
二つのくぼみに囲まれた丘を想像してほしい。丘の頂上にボールを置けば、斜面を転がり落ち、どちらかのくぼみに落ち着く。転がる間、ボールと地面の間の摩擦によってエネルギーを失い、速度が落ちる。そのため、くぼみの底で止まる。しかし摩擦は、ボールが通った跡も残す。丘の左右を見て、草が押しつぶされ、石が脇へ押しのけられている場所を調べれば、ボールが右と左のどちらのくぼみに転がり込んだかが分かる。

この図は、19マイクロ秒にわたる量子粒子の位置を示している。色が濃いほど、指定された位置に粒子が存在する確率が高い。量子系のWinger関数W (⍺)の時間発展をプロットしたもので、黒は1.0、白は0、青は–0.05に対応する。
しかし、ボールを量子粒子に置き換えると問題が生じる。量子粒子は複数の状態に同時に存在できるため、理論上は両方のくぼみを同時に占めることができる。ところが、粒子が転がり落ちる際、粒子と丘の間の摩擦が環境に影響を残し、それを測定できる。粒子を底で止めるのと同じ摩擦が、通った跡も刻む。これによって重ね合わせが破壊され、粒子は一方のくぼみにしか存在できなくなる。
これまで研究者らは、この摩擦を利用して量子粒子を特定のくぼみに閉じ込めてきた。しかし今回、Devoretの研究室は新しい種類の摩擦を実証した。粒子が転がる速度を落とす一方で、どちら側を選んだかを示す跡は刻まない摩擦だ。これにより、粒子は左右両方のくぼみに同時に存在できる。
これらの「くぼみ」状態はそれぞれ安定しており、定常状態でもある。量子粒子はくぼみの中で動くことがあるが、小さな摂動によって外へ押し出されることはない。さらに、二つのくぼみ状態の重ね合わせも安定した定常状態となる。これは、量子情報の記憶に使う基盤となり得ることを意味する。
技術的には、これは二次元量子定常状態多様体と呼ばれる。DevoretとLeghtasは、次の段階はこの二次元多様体を四次元に拡張し、景観にさらに二つのくぼみを加えることだと指摘する。これにより、科学者らは量子情報を冗長に符号化し、多様体内で誤り訂正を行えるようになる。誤り訂正は、実用的な量子コンピューターを実現可能にするために開発が必要な主要要素の一つだ。
その他の著者は、イェール大学のSteven Touzard、Ioan Pop、Angela Kou、Brian Vlastakis、Andrei Petrenko、Katrina Sliwa、Anirudh Narla、Shyam Shankar、Michael Hatridge、Matthew Reagor、Luigi Frunzio、Robert Schoelkopf、Mazyar Mirrahimiである。MirrahimiはInstitut National de Recherche en Informatique et en Automatique Paris-Rocquencourtにも所属している。
本記事は、 Yale Newsとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しません。
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著者:Ike SwetlitzはYale Newsのライター。
画像:ノートパソコンを持つ男性にバイナリーコードが投影された様子を描いたイラスト。REUTERS/Kacper Pempel。

