多くのAI専門家は、45年以内に機械があらゆる作業で人間を上回る可能性があると予測しています。
変化する労働力と経済を支えるために、これらの技術をどのように形づくるべきかについて、現時点で合意はありません。
こうした課題について議論し、前向きなAIの未来像を共有してもらうため、150人を超える専門家に話を聞きました。
AIをめぐる現在の動向は、まさに目覚ましいものです。つい最近まで人類だけが担い、永続的に担うものと考えられていた作業を、システムや機械が引き受けるという話を、私たちは日々耳にします。たとえば、医療診断を行うこと、法的文書を作成すること、建物を設計すること、さらには音楽を作曲すること。
しかし、ここで懸念しているのは、さらに驚くべきこと、すなわち、ほぼあらゆる作業で人間を上回る高度な機械知能システムが実現する可能性です。これは空想科学ではありません。ある最近の調査では、一流のコンピューター科学者による推定の中央値は、この技術が45年以内に実現する確率を50%としました。
重要なのは、この調査で大きな見解の相違も明らかになったことです。高度な機械知能はすぐに実現すると見る人もいれば、実現するとしても、はるかに先だと見る人もいます。AIの未来を扱う最近の文献には、一般向けの論評から専門家による詳細な分析まで、こうした見解の違いが数多く見られます。
それでも、見解が分かれている中で一つ明らかなことがあります。このような事態が起こり得ると考えるなら、真剣に注意を向けるべきです。こうした技術の進歩が続けば、極めて大きな混乱を招くおそれがあります。近年の格差拡大を悪化させ、社会統合を促す力としての仕事を損ない、多くの人にとって目的や充実感の源を弱める可能性があります。
AIのビジョンを共有するために集まった専門家
2020年4月、世界経済フォーラムのグローバルAI評議会(GAIC)メンバーであるスチュアート・ラッセルとシャルル=エドゥアール・ブエが、「Positive AI Economic Futures」と呼ばれる意欲的な取り組みを開始しました。一連のワークショップとインタビューでは、さまざまな背景を持つ150人を超える専門家がオンラインで集まり、こうした課題に加え、人工知能に関する前向きなビジョンの可能性と政策立案者への影響について議論しました。
参加者には、マデリン・アシュビー(サイエンスフィクション作家、戦略的フォーサイトの専門家)、ケン・リュウ(ヒューゴー賞受賞のSF・ファンタジー作家)、経済学者のダロン・アセモグル(MIT)とアンナ・サロモンズ(ユトレヒト)など、多くの人々が含まれていました。以下は、フォーラムの報告書「Positive AI Economic Futures」でまとめられた、これらの対話の要約です。
未来において「仕事」とは何を意味するのか
この問いについて参加者の意見は分かれました。一方のグループは、従来の仕事という束縛から解放されれば、人々は新たな自由を活用して、探求や自己研鑽、ボランティア活動など、自分が満足できることに取り組めると考えました。この見方を支持する人々は、たいてい何らかの形のユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)を支持する一方で、現在の教育制度では、経済的な制約から自由に自分の人生を築くための準備がほとんどできていないことも認めていました。
ワークショップとインタビューでのもう一方のグループは、反対の考えを持っていました。従来の仕事は、依然として不可欠かもしれないというのです。彼らにとって、UBIは失敗を認めることを意味します。つまり、ほとんどの人は社会に経済的価値をもたらすものを何も提供できないという前提に立つものです。人々は食事や住居、娯楽を与えられ、その大半は機械が担うものの、それ以外は自分たちの裁量に任されることになります。
人々は、人と人との間で提供されるサービスに従事することになります。提供可能な、あるいは私たちが望む形で提供されるべきサービスのうち、人間だけが担うものです。これには、セラピー、個別指導、ライフコーチング、コミュニティづくりなどが含まれます。つまり、定型的な肉体労働や精神労働を提供できなくなったとしても、人間らしさは提供し続けられます。こうした仕事が実質的な価値を生み出すには、人間であることに今よりはるかに長ける必要があります。しかしこの分野は、教育制度も科学研究の基盤も著しく弱いことで知られています。
従来の仕事の終わりを良いことと考えるか悪いことと考えるかにかかわらず、人々が充実した人生を送れるようにするため、あるいは高付加価値の対人サービスを主軸とする経済を支えるため、教育と科学の方向性を抜本的に変える必要があるようです。また、AIによる自動化がもたらす経済的利益が社会で公正に分配されるようにする必要もあります。
前向きな未来を築くための6つのAIシナリオ
行動を妨げる最大の要因の一つは、現時点で、どのような未来を目指すべきかについて合意がないことです。望ましい未来についての議論がほとんどないことも、その一因かもしれません。ビジョンの欠如は問題です。高度な機械知能が実現すれば、前例のない技術変化と容赦ない経済の力に、私たちはたちまち圧倒されるおそれがあります。それでは、またとない大きな機会を無駄にしてしまうでしょう。
このため、SF作家から経済学者、AI専門家まで、ワークショップやインタビューに参加した人々は、人工知能が現在私たちが仕事と呼んでいることの大半を担えるようになった未来について、前向きなビジョンを描こうとしました。
これらのシナリオは、人類がたどり得る軌跡を示しています。ただし、いずれも確実に実現可能、あるいは望ましいとは言い切れません。ビジョンには重要な共通点や合意も見られる一方で、示唆に富む意見の対立も少なくありません。
1. 経済的繁栄の共有
技術進歩の経済的恩恵が世界中で広く共有されています。AIが生産性を大幅に高めたことで、世界経済の規模は10倍になっています。この繁栄を分かち合うことで、人々はより多くのことを行い、より大きな成果を上げられます。世界的な税制の導入から失業に対する保険の改善まで、さまざまな施策によってこのビジョンを追求できます。
2. 方向性を改めた企業
大企業は人類に役立つAIの開発に注力し、過度な経済力や政治力を持たずにそれを実現します。企業の所有構造を変え、独占禁止政策を更新することで、このビジョンを追求できます。
3. 柔軟な労働市場
人間の創造性と実践的な支援によって、人々は新たな役割を見つける時間を得られます。人々は技術変化に適応し、新たに生まれた職業に就きます。政策では、教育や再訓練の機会を充実させるとともに、自動化によって不利益を被る人々の社会的セーフティネットを強化することに重点が置かれます。
各国政府がAI技術を責任ある形で導入できるよう、フォーラムはどのように支援しているのでしょうか?
4. 人間中心のAI
社会は過度な自動化を避けることを選びます。企業のリーダーやコンピューター科学者、政策立案者は、労働者への需要を減らすのではなく増やす技術の開発を選びます。人間中心のAIを開発するインセンティブを強化し、必要に応じて自動化に課税します。
5. 充実感を得られる仕事
新たな仕事は、それまでの仕事よりも充実感を得られるものです。機械が危険で退屈な作業を担う一方、人々は人との交流がより多い、生産的で充実感があり、柔軟な仕事に移ります。これを実現する政策には、労働組合の強化や、企業の取締役会への労働者の参加拡大が含まれます。
6. 市民のエンパワーメントと人間の繁栄
仕事の必要性が低くなり、UBIによって基本的なニーズが満たされる世界では、意味のある無償の活動が、ますます人々の幸福の源となります。人々は探求や自己研鑽、ボランティア活動など、自分が満足できることに取り組めます。社会参加の拡大が支えられるでしょう。
この報告書は、私たちがどのような未来を望むのか、またそれを実現するためにどのような課題に立ち向かわなければならないのかについて、より広い議論を始めることを意図しています。技術の進歩が止まることなく続けば、子どもや孫たちが生きる世界は大きく変わるでしょう。こうした問いについて、さらに多くの議論や研究、政策への取り組みが必要です。今や、無視するにはあまりにも重要な課題なのです。



