TradeTechは、世界の商品交換の効率化を目指す。
政策立案者は、こうした技術の法整備にあたり、国際的な協調とTradeTechへの平等なアクセスを考慮すべきである。
イノベーションを促進し、リスクを軽減するため、TradeTechの開発と関連する政策立案は、複数のステークホルダーが緊密に連携して進める必要がある。
TradeTechとは、端的に言えば、貿易を促進する技術のことで、2つの段階に分けて捉えることができる。第1段階は、社内のシステムやプロセスをアナログからデジタルに変えること。第2段階では、新たな技術と接続性の向上により、貿易プロセスを最適化し、異なる関係者間で同期させることが可能になる。経済、社会、環境の価値を高める革新的なソリューションを生み出し、その可能性を最大限に発揮するには、効率向上の効果を引き出すとともに、雇用の喪失や環境への悪影響といったリスクを軽減できるよう、世界的に協調して取り組む必要がある。
政策立案者が、誰もが平等にアクセスできるようにすることも極めて重要である。大企業にとってもTradeTechの導入は課題であり、多くの零細企業や中小企業はアクセス手段がないため、取り残されるリスクがある。もう一つの重要な検討事項は、技術の発展が通常、法律の整備よりも速く進むなか、規制するかどうか、またどのように規制するかである。政策立案者が規制の必要性を判断し、必要な場合は市場の分断を避けるため各国が協調して対応する方法を検討する前に、新たなソリューションの影響を理解する必要がある。
こうしたあらゆる側面について適切な政策判断を下すには、TradeTechの動向を継続的に監視し、国内外の専門家と定期的に協議することが欠かせない。これを実現するための枠組みを以下に示す。
1. 多様で複雑な状況を理解する
技術は急速に登場し発展するため、政策判断もソリューションと歩調を合わせて進化させる必要がある。TradeTechの一例として、最近導入された電子船荷証券(eBL)がある。通常は紙で作成される船舶積荷目録を電子化したものだ。この技術が世界貿易に役立つには、国際協力と各国政策の調和を基盤とする必要がある。国際貿易を促進する技術主導型ソリューションのもう一つの例が、オンライン取引プラットフォームである。こうしたプラットフォームは、新たな販売・調達チャネルを中小企業(SME)に開き、特にCOVID-19パンデミック中には世界規模の電子商取引を可能にした。オンラインプラットフォームは、SMEがデジタル企業へと成長するための重要な道筋である。
初期段階にあるイノベーションには、社会にもたらし得る価値を徐々に明らかにしながら成長する余地が必要である。一方、成熟したソリューションには、意図しない結果を避け、包摂性を確保するために規制が必要となる場合がある。政策を技術の進化に合わせ続けるには、柔軟なアプローチが求められる。世界経済フォーラムと世界貿易機関が新たに共同発表した、『TradeTechの可能性:貿易のデジタル化を活用する政策アプローチ』では、国内および国際レベルで既に存在する規制や新たに生まれつつある規制の事例を挙げ、各国間で一貫性を確保する必要性を強調している。同時に、地域ごとの信念、価値観、社会経済構造の違いから、政策立案者が用いる視点は法域によって異なる。この複雑な状況に対応するには、体系的で協調的かつ包摂的な政策立案のアプローチが必要である。
2. 政策アプローチを体系化する枠組みを適用する
TradeTech政策立案四象限は、上述の考慮事項を踏まえ、2つの軸で構成されている。横軸は発展段階で、ソリューションが初期段階にあるのか、成熟段階に達しているのかを示す。縦軸は影響範囲で、イノベーションが国内または国際的な関心事かを示す。

この4象限モデルは、適切な政策対応を明確にすることを目的としている。例えば、新たなソリューションを世界規模に展開し、影響を及ぼせるよう準備するために規制を策定する場合はA2にあたる。あるいは成熟に近づいているソリューションはB1の範囲に移り、国益を守るため、導入を促し利用を管理する国内政策が必要となる可能性を示す。
3. 実際のユースケースに基づいて政策を策定する
この枠組みには、さまざまなソリューションやユースケースの例を当てはめることができる。一例がデータ共有プラットフォームである。近年のサプライチェーンの混乱を受け、供給・需要ネットワーク全体の可視性と状況認識の向上が求められている。そのためには、情報共有コミュニティをデジタルでつなぐ必要がある。データ共有プラットフォームは一般に、地域の関係者を結びつける成熟した技術(B1)、または地域コミュニティを世界的な枠組みに統合する技術(B2)と位置づけられる。

現在、紙をデジタル手段に置き換える電子文書の普及拡大に多くの注目が集まっている。例えば、ブロックチェーン技術を活用したものがある。電子文書の用途には、先に挙げた電子船荷証券(eBL)や、船員の能力を証明するデジタル証明書などの資源関連の電子証明書、船舶の状態を示す書類などのインフラ関連文書がある。電子文書が世界的に法的に認められれば、普及が大幅に加速し、世界中でコスト、遅延、煩雑な手続きを削減できる(B2)。専門家は、eBLの世界的な普及だけで、経済全体に約40億ドルの節約効果があると推計している。倉庫証券(A1)や、貿易金融で一般的な手段である信用状(A2)など、電子化できる可能性のある文書はほかにも数多くある。
世界のデジタル化と相互接続が進むにつれ、サイバー攻撃から守るソリューションの必要性も高まっている。Hellmann、Toll、TNT、APM Terminalsなどの企業に悪影響を及ぼした近年のさまざまな攻撃は、悪意あるソフトウェアの急速な進化に対応するため、定義上、絶えず進化し自己刷新するサイバーセキュリティソリューションの導入を促進する必要があることを示している(A2)。
近年、米国と中国の間で貿易・技術をめぐる緊張が高まり、規制変更に関する企業のコンプライアンスリスクが増大している。こうしたリスクは、規制技術(RegTech)の活用によって軽減できる。新たな輸出管理主導型RegTechには、極めて小さな部品やサブコンポーネントの中に配置できる微細な追跡技術が用いられ、それらはさらに大型機械の一部に組み込まれる。こうした新技術を使えば、世界中で規制対象技術の「最終用途」と「最終使用者」を追跡できる(A2)。
4. 国内外のレベルでステークホルダーと協調する
四象限における技術主導型ソリューションの位置づけを理解することが、適切かつ効果的な政策対応を策定する土台となる。
初期段階のソリューションについて、政府は関係するステークホルダーと定期的に協議し、技術や用途にどの程度の機会と脅威があるかを把握するとともに、イノベーションと導入を促す政策から、安全性と包摂性を確保する政策へ切り替える時期を見極めるため、常に情報を得るべきである。成熟した技術や用途については、政策立案者は関係するステークホルダーの支援を得て策定した政策によってリスクを軽減できる。効果的な国内政策を策定するには、エコシステム内のステークホルダー間の協調が必要である。
一方、国外で生まれたソリューションや世界的な展開を見込む国内の開発については、政府は国際的な関与と連携を求めるべきである。概念実証を追跡し、迅速な適応の基盤となる試験導入の機会を見極めるためであり、さらに重要なのは、できるだけ多くの企業がTradeTechの恩恵を受けられるようにすることである。
規制しないことも政策対応の一つである。規制が必要かどうかは、政府のイノベーションチームが主導する複数のステークホルダーから成る専門家グループとの協議を通じて判断すべきである。拙劣な政策は、国の競争力を損なったり、国内で開発された技術や用途が世界市場への参加から排除されたりするおそれがある。世界市場では、国際的な連携、基準、互換性が一般的な前提条件となっている。こうした点を見極めるには、該当分野の専門家に相談し、国際条約を締結する必要がある。
TradeTech政策立案四象限は、世界経済フォーラムや世界貿易機関などの国際機関の提言を踏まえ、国内および国境を越えた対話の共通枠組みを導入することで、調和と一貫性に向けた国際的な規制協力を促す。この協力の精神のもと、民間セクターも重要な役割を担い、政府の政策立案を支援すべきである。関与しなければ、自らの発展の可能性と成長を制限する予期せぬ事態や政策選択に直面しかねない。それはイノベーターにとっても社会全体にとっても望ましくない。

