月へのアポロ11号のミッションは、わずか8日間で終わりました。月面に恒久的な基地を建設する、あるいは火星やその先にまで拠点を広げるとすれば、将来の宇宙飛行士は地球からの絶え間ない支援なしに、宇宙で何日も、何か月も、場合によっては何年も過ごさなければなりません。必要なものをどうやってすべて調達するかが問題です。月面の長期滞在施設を建設し、維持するための機材や物資をすべてロケットで運ぶのは、非常に高くつきます。
そこで役立つ可能性があるのが3Dプリンティングです。原材料から、月面コロニーに必要なものを宇宙飛行士が製作できるようになります。宇宙での3Dプリンティングをめぐる期待の多くは、月の岩石から建物を建設することに向けられてきました。しかし私の研究によると、月の砂塵を使って月面の製造ラボに材料を供給し、さまざまな機器の交換部品を生産するほうが、実際には現実的かもしれません。
積層造形として技術的に知られる3Dプリンティングは、デジタル設計から、ほぼあらゆる形状や幾何学的な複雑さを持つ物理的な製品を作り出せる、高度な技術群です。この技術ではすでに、金属、セラミックス、プラスチックなど、幅広い材料から物を作ることができ、その一部は宇宙仕様の機器の製造に使えます。

3Dプリンティングには、人の関与を最小限に抑えて稼働できるという利点もあります。印刷を設定して、完成品ができるのを待つだけです。そのため、遠隔操作も可能です。理論上は、人間の乗組員に先立って3Dプリンターを月に送れば(ほかの宇宙の目的地でも同様です)、宇宙飛行士が到着する前から構造物の製造を始められます。
もちろん、大きな課題もあります。3Dプリンティングは主に地球での使用を想定して開発され、設計どおりに動作するには、重力や温度が一定の範囲にあることを前提としています。これまで使われている材料は、月や火星の表面にある物質に比べて、はるかに単純なものです。
月の砂塵を使ったプリント
月はレゴリスに覆われています。レゴリスは、何百万年にもわたって隕石が月面に衝突して形成された、さらさらとした粉状の物質です。こうした衝突によって、岩盤の表層は徐々に、粒径が数ミリ未満の粒子からなる土壌のような物質へと変化しました。理論上はレゴリスを積層造形に使えますが、3Dプリント住宅や、レンガやセメントのようなより基本的な部品を作るには、液体バインダーなど、レゴリスに混ぜる追加の材料が必要です。それらは地球から持ち込まなければなりません。
同僚たちと私は、レゴリスだけを使ってさまざまな工学部品を3Dプリントする方法を研究してきました。私たちの手法では、レーザーを使い、ごく少量のエネルギーを熱に変えてレゴリスの粒子を溶かし、結合させて、薄くても固い材料の層を作ります。この工程を何度も繰り返し、層を順に重ねていくことで、最終的に立体物を作ることができます。

各層の厚さは1mm未満なので、壁や完全なシェルターのような大きな構造物を作るには、現実的でないほど時間がかかります。それよりも、塵や水のフィルターのように、通常は1ミクロン(0.001 mm)未満の穴が必要な、小型で精密に設計された細部まで作り込まれた物の製造に向いています。3Dプリンティングは、重要な部品が損傷したり摩耗したりして、地球から補給船で新品が届くより早く交換する必要がある場合に、特に有用です。
この3Dプリンティングを宇宙で実現する方法を探るため、私たちは材料と工程の両方を詳しく調査し、月面の環境条件がそれらにどのような影響を与える可能性が高いかを理解しようとしてきました。本物のレゴリスをすぐに入手できなかったため、化学組成と鉱物組成の全体的な特徴を模した材料を使いました。これは隕石の衝突とはまったく異なる条件で形成されたものですが、レーザーとの相互作用を調べ、その知見から本物のレゴリスがどのように反応するかを推定するには十分に複雑です。
材料と3Dプリンティング工程との相互作用をさらに理解し、制約を克服するための新しい技術的解決策を開発する必要があります。現段階では、どのような問題が起こり得るのかさえ、予測するのは困難です。しかし、次の有望な一歩は、本物のレゴリスを使って3Dプリンティングを試験することでしょう。地球上にあるサンプルはごく限られていますが、人類が月面活動の新時代を迎えようとしている今、近いうちに十分な量を入手できるようになるかもしれません。


