世界はかつてないほど多くの人道上の課題に直面している。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の推計によると、2015年だけで、紛争や迫害により6,500万人を超える人々が故郷を追われた。同時に、ジュネーブ諸条約は無視され、民間人や援助活動従事者が暴力の標的となるケースが増えている。そして、広範なメディア報道やソーシャルメディアのおかげもあり、私たちがこれらの問題について、かつてないほど多くの情報を得て、認識を深めている。
製造、テクノロジー、エネルギー、サービスなど、多くの部門が進化し、第四次産業革命の可能性を実現しようと模索するなか、人道支援も変革しなければならない。私は、この変革を促すうえで重要な役割を果たす3つの行動を挙げた。教育などの分野で紛争の影響を軽減する革新的なテクノロジーの導入、新たな官民連携の構築、そして被災した地域社会のレジリエンスを高め、生計を改善する支援である。
世界のモバイル接続数は75億件を超え、固有の加入者数は37億人に上る。モバイルブロードバンドは、備えと対応の取り組みを支えるうえで、他のどのテクノロジーにもない役割を果たす可能性がある。
このような革新的なテクノロジーにより、必要な範囲への展開、効率性、データに基づく意思決定が可能になり、最善の人道支援を実現できる。例えば、西アフリカでのエボラ出血熱の流行やネパール地震の際に、携帯電話のデータを通じて人々の移動パターンを分析することへの関心が高まっている。しかし、人道支援の現場でデータ分析がどのように活用されるかは、まだ始まったばかりだと言えるだろう。また、モバイルネットワークは、より基礎的なレベルで、命を救う情報へのアクセスを促し、危機の影響を受けた人々と、政府や人道支援関係者を含む、必要不可欠な援助を提供する人々が、救援活動についてより円滑に意思疎通し、調整できるようにする。実際、あらゆる組織が、より効果的で効率的な人道支援を形づくるテクノロジーの利点を認識しつつある。課題は、どのデータを収集し、それをどう活用し、どのテクノロジーを使うべきかを、すべての組織が把握しているわけではないことだ。
2016年のインタビューで、国際救援委員会(IRC)の会長兼最高経営責任者(CEO)であるデビッド・ミリバンド氏は、独立した研究開発ラボを設立し、「アフリカの看護師向けの栄養失調測定装置から、難民キャンプの学校向けのコンピューター教育ソフトウェアまで」幅広いテクノロジーを開発していると明かした。私はイラクの教育現場でIRCと協働する機会を得て、学校における接続環境の利点を実際に目にしてきた。
災害時に、子どもたちが長期間にわたり教育を受けられない状況ほど、胸を痛めるものはない。シリアの戦争が長引くなか、すでに5年間も教育制度から離れている子どもたちがおり、その影響は今後の世代に、さらに深刻で長く続く結果をもたらす。モバイルネットワークは、コンテンツへの迅速なアクセスを可能にする。また、クラウドベースのICTプラットフォームと組み合わせれば、教師は包括的な研修教材を利用できる。さらに、連携する学校間で教師同士がつながり、指導方法や教材を共有する手段を提供するとともに、モニタリングと評価の能力も高められる。
人道危機への対応に必要な資源と、実際に資金が提供される額との隔たりが広がるなか、官民パートナーシップは、共通の目標に向けて異なる組織間の強固な連携を促す手段として成熟しつつある。官民パートナーシップが、IRC、世界食糧計画、赤十字のような組織にとって不可欠な資金の必要性を根本から補うことはできない。それでも民間部門には、さらに貢献できる余地があり、実際に貢献する意思もある。民間部門の関与には、慈善活動や寄付、従業員のボランティア活動、政策課題への発言、そしてエリクソンが「Technology for Good」と呼ぶ取り組みなど、さまざまな形がある。いずれの場合も、緊急事態に伴う高額な費用と大きな損失に対応し、人道上の課題に取り組むために、将来、パートナーシップはさらに不可欠になる。官民パートナーシップでは、それぞれの当事者が中核となる強みに注力できる。
最前線で活動する組織は、秩序が失われたとき、それを取り戻すために驚くべき成果を上げている。今日、私たちが提供する接続環境は食料、住居、水と同じくらい重要だと認識している。今後もパートナーとともに進化し、戦略面でも現場での活動面でも支援を続けていく。
業界全体の取り組みも、官民パートナーシップにおいて役割を果たし得る。その一例が、GSMAが2015年3月のモバイル・ワールド・コングレスで発足させた「人道支援接続憲章」だ。この憲章は、国連人道問題調整事務所(UN OCHA)、国連緊急通信クラスター、国際赤十字・赤新月社連盟の支持を得ている。危機発生時の通信と情報へのアクセスを強化し、命が失われるのを防ぎ、人道支援に積極的に貢献することを目的に策定された。
最後に、生計の改善と被災した人々に関して、難民として過ごす期間は平均17年であり、難民や避難民の約59%が都市部に暮らしている点に留意することが重要だ。こうした大規模な移動人口の存在は、難民が遠隔地のキャンプで何にもアクセスできずに過ごしているという見方に反している。実際、ほとんどの難民が携帯電話を持っている。生き延びるための不可欠な道具と見なされているからだ。携帯電話によって、避難を余儀なくされた人々は次のことができる。
家族や大切な人と再び連絡を取る。
市場にアクセスし、生計を立てるための人脈を築く。
安全を高める(特に女性や少女)。
現金を送金したり、受け取ったりする。

世界経済フォーラムの人道支援に関するグローバル・フューチャー・カウンシルのメンバーとして、同じ志を持つ組織とともに、より効果的な解決策を見いだせることを誇りに思う。私は民間部門のテクノロジーという視点からこのテーマに取り組んでいるが、変革を主導し、連携を改善するという共通の使命を官民のパートナーが分かち合う必要がある。それにより、危機的状況でさらに何百万人もの命を救える可能性がある。私たちは皆、真の変化をもたらすために必要なスキル、ノウハウ、資源を持っている。

