女性と男性の労働参加率の格差が根強く続いており、経済に大きなコストをもたらしている。本稿は、生産過程において女性と男性が互いを補完するため、ジェンダー多様性による経済的恩恵は先行研究が示唆するよりも大きい可能性が高いと論じる。ジェンダー間の補完性は、女性の労働参加を妨げる障壁がもたらす厚生コストにも重要な影響を及ぼす。ジェンダー平等を実現すべき根拠は、いっそう説得力を増し、緊急性も高まっている。
過去20年間、文化的な意識、保育政策、テクノロジーの変化がジェンダー格差の縮小に寄与してきたものの、女性の労働参加率は依然として低すぎる。先進国にも中所得国にも、ジェンダー格差を7パーセントポイント未満に縮小できた国はない。女性と男性の間で公平性を欠く状況が続くことは、経済に大きなコストをもたらしている。
障壁がもたらすより大きなコスト
本分析は、豊富なミクロ経済学的証拠に裏付けられた、女性と男性は職場に異なる技能や視点をもたらし、リスクや協調に対する姿勢も異なるという観察から出発する(Lagarde 2014)。女性は、悪い結果への恐れがより強いことを反映して、リスクをより避ける傾向があり(Croson and Gneezy 2009)、競争もより避けることが分かっている(Harbaugh et al. 2002)。ジェンダーによる違いは、仕事の性質(Brussevich et al. 2018)、利害の大きさ、時間的なプレッシャーとも関連付けられている。女性を採用すると、企業内の差別が減り、すでにその企業で働く女性の生産性が高まる可能性がある。さらに、企業の取締役会のジェンダー構成が業績に影響することも、研究で示されている。Deszö and Ross(2012)は、戦略の基盤をイノベーションに置く企業では、ジェンダー包摂性が企業価値にプラスの影響を与えると示している。また、Christiansenほか(2016)は、企業の取締役会における女性の代表性が与える影響は、サービス業、高度技術製造業、知識集約型サービス業の企業でより大きいと示している。銀行監督機関の取締役会におけるジェンダー多様性も、金融の安定性向上と関連している(Sahay and Čihák 2018)。意外なことに、先行研究はこうしたミクロ経済学的証拠が持つマクロ経済的な意味を検討してこなかった。
教科書的な新古典派成長モデルでは、労働力は男性労働者と女性労働者の人数の合計である。この合計の中で男性を女性に置き換えても労働力の規模は変わらないため、そもそもジェンダー多様性による恩恵は生じない。この仮定は妥当だろうか。これは検証が必要な実証的な問いである。
補完性を示す証拠
マクロ経済、セクター別、企業レベルのデータによる証拠は、生産過程において女性と男性が互いを補完していることを示している(Ostry et al. 2018)。補完性の程度を測るため、生産関数における女性と男性の代替弾力性(ES)を推計する。ESは、女性労働の限界生産性(男性労働の限界生産性に対する比率)が上昇したとき、企業が女性労働をどれだけ利用するか(男性労働の利用量に対する比率)の変化を測る指標である。ESがゼロの場合、財の生産には各ジェンダーの労働が一定の割合で必要となるため、男性労働を女性労働で代替することはできない。ESが無限大に近づくと、男性労働と女性労働の区別がなくなり、ジェンダー多様性による恩恵は生じない。ESが中間的な値であれば、最終産出物を生み出すうえで女性と男性の労働が互いを補完することを意味する。
推計値は、マクロデータでは1未満、セクターデータでは1から2の間、企業レベルのデータでは2から3の間に集中している(図1)。女性労働者と男性労働者の間に補完性はないという仮定は、データによって明確に否定される。男性に比べて女性労働者が当初少ない場合、女性の生産性が男性より大幅に低くない限り、女性の雇用を増やす効果は、男性労働者を同数増やす効果を上回る。したがって、補完性を考慮しないモデルは、ジェンダー多様性が成長に与える影響を過小評価し、成長の一部を、その真の原因である過去の女性労働参加率の上昇ではなく、全要素生産性に誤って帰属させている。
図1 代替弾力性の推計値の範囲

女性の労働参加を妨げる障壁の縮小は男性にも恩恵をもたらす
実証分析から得られる重要な含意の一つは、ジェンダー間の労働参加率の格差が縮小すれば、男性の賃金が上昇する可能性が高いことである。女性の労働参加率(FLFP)の上昇は、男性賃金に相反する二つの影響を及ぼす。一つ目は補完性効果で、生産性を高め、それによって男性賃金も上昇させる。二つ目は資本集約度効果で、労働供給全体の増加に伴って賃金を低下させる。ESが推計上のしきい値である約2.5を下回る場合(本分析の推計値もそうである)、一つ目の効果が優勢となり、FLFPの上昇は男性の実質賃金を押し上げる傾向にある。このことは、生産的な労働参加を妨げる女性への障壁を取り除く取り組みへの支持を強めるはずであり、重要である。
GDPの増加幅はさらに大きい
二つ目の含意は、ジェンダー間の補完性を考慮しないモデルに基づく従来の想定より、ジェンダー格差の解消によるGDPの増加幅は大きい可能性が高いということだ。図2に示すように、図1に示したESの推計範囲からは、当初のFLFPの水準に応じて、労働参加率(LFP)のジェンダー格差を解消すればGDPが大幅に増加し得ることが分かる。較正演習によれば、サンプルのうちジェンダー不平等が大きい方から半数の国々では、ジェンダー格差の解消によってGDPが平均35%増加する可能性がある。この増加分の5分の4は労働力への労働者の追加によるものだが、実に5分の1はジェンダー多様性が生産性に及ぼす効果による。
図2 労働参加率のジェンダー格差解消によるGDPの増加

厚生面での考慮
ジェンダー間の補完性、すなわちジェンダー多様性が追加的な恩恵をもたらすという知見は、FLFPに対するさまざまな障壁がもたらす厚生コストを評価するモデルにも取り入れることができる。このモデルでは、家庭内で消費される財と市場で販売される財の生産を分け、GDPの増加と厚生の向上を区別する。また、各セクターで雇用される女性の数は、差別、文化的な違い、社会規範などを捉える障壁の存在(労働需要、労働供給、あるいはその両方に影響し得る)と、セクター間に生産性の潜在的な差があるかどうかの両方によって決まる。サービス業は一般に比較的ジェンダー平等が進んだセクターであるため、経済発展に伴う構造転換の過程を阻む障壁がある場合に、このモデルを用いてFLFPへの障壁のコストを定量化できる。
国レベルで適用したこのモデルによれば、観測される国ごとのFLFPの差を説明できるのは、FLFPに対する大きな障壁だけである。具体的には、障壁は、欧州・中央アジアの平均的な国では女性労働に対する4%の税に相当すると推計される一方、中東・北アフリカ(MENA)の平均的な国では53%の税率に相当するまで上昇する(図3参照)。したがって、既存の障壁を取り除けば、雇用の平等、所得、厚生の大幅な向上が見込まれる。例えば、MENA地域と南アジア地域では、厚生の向上幅が20%を超える可能性が高い。厚生の向上幅に地域差が生じるのは、FLFPに対する障壁の推計値と当初の所得水準が異なるためである(生産と消費の増加がもたらす厚生の向上幅は、貧しい国ほど大きい)。
図3 女性の労働参加を妨げる障壁の撤廃による厚生とGDPの向上

要点
これらの懸念はすべて新しいものではないが、緊急性が改めて高まっている。IMFは長年にわたり、不平等がもたらす経済的コストと、その解決策となり得る手段を明らかにする政策分析の最前線に立ってきた(Ostry et al. 2014、2019)。女性と男性の間で公平性を欠く状況が、大きな経済的コストをもたらすことは分かっている。今明らかになりつつあるのは、そのコストが従来の想定をさらに上回るということだ。全体像が見えてきた今、より大きなジェンダー平等を実現すべき根拠は、いっそう説得力を増し、緊急性も高まっている。

