医療従事者たちが、臨時診療所に日陰をつくる大きなアカシアの木に近づくと、すでに50人を超える女性と30人の子どもが待っていた。
エチオピアとの国境に接するケニア北部の市場町モヤレから車で40分のヤバロ・ゴダ村では、月例健診を歓迎する地域住民の熱意のおかげで、車のクラクションをいつものように鳴らす必要はなかった。
マルサビット郡のこの半乾燥地帯には、広大な土地を家畜とともに移動する牧畜民の共同体が暮らしている。辺境にあるため、医療を提供するのは困難だ。
遊牧民の女性へのサービス向上を目指し、GPS(全地球測位システム)追跡装置を備えた太陽光発電のブレスレット約50個が、妊婦に配られた。
最も遠方に住む受給者は、モヤレ中心業務地区から約100km(62マイル)離れたラキにいる。そこには病院も学校もない。
巡回医療の試験事業が昨年2月に始まった際、10か所で妊婦168人が登録した。大半は地域の指導者が選んだ牧畜民の共同体だった。
医療チームは、医師、看護師、栄養士が薬を携えて訪問する日時を、地域ボランティアや村長に知らせる。
事業を始めたモヤレ郡病院の疫学者、ダハボ・アディ・ガルガロ氏によると、訪問のたびに医療を求める母親が約150人集まり、その中にはGPSブレスレットを着けた人も着けていない人もいた。
4月にヤバロを訪問した際、地域でGPSブレスレットを持つ女性7人のうち3人が姿を見せた。
追跡システムによると、ほかの2人は近くにいた一方、残る2人は国境を越えてエチオピアに入っていた。
「国際法のため、彼女たちを追跡して支援できるのは、戻ってきたときだけです」とガルガロ氏は語った。
血液と尿の採取や、性感染症を含む疾患の検査を行う5時間の診療の後、ガルガロ氏の検査で新たに妊娠が判明した女性が25人いた。
「訪問するたびに人数が増えています」と、疲れた様子も見せずに彼女は語った。

命を落とす女性たち
ガルガロ氏は、遊牧民の両親のもとマルサビットで生まれた。両親が頻繁に移動したため、小学校を6校経験した。彼女は成長するなかで、自分の共同体が直面する健康問題を痛感していた。
自宅出産が当たり前で、出産時の出血で命を落とす母親もいれば、栄養失調で赤ちゃんを失う母親もいた。
行動を起こそうと決意したガルガロ氏は、医療を職業に選んだ。
モヤレで疾病監視と検査室の調整役を務めるなか、地域の平均と比べて、出産時に亡くなる牧畜民の女性が多いことを示す証拠を見つけた。
「妊娠に関連して女性が亡くなっていることは知られていました。分かっていなかったのは、死亡の規模です」と、彼女はトムソン・ロイター財団に語った。
ガルガロ氏は2014年半ばから1年余りにわたり、オロミア語とボラナ語という現地の方言で、妊婦60人に妊婦健診について聞き取り調査を行った。
その後、2015年から2016年のデータを分析したところ、赤ちゃんの死亡全体の40%は妊婦健診を受けていなかった母親に起きており、健診を受けた母親ではその割合が大幅に低いことが分かった
ガルガロ氏の調査によると、妊婦のほぼ半数は妊婦健診の費用450ケニア・シリング(4.45ドル)を払えなかった。病院から遠く離れて暮らしているという人もいれば、健診の必要性を知らなかった人もいた。
「ここでは無知が蔓延し、識字率も低い。妊娠して何か月になるのか、私に尋ねに来た女性もいました」とガルガロ氏は語った。
その後、医療施設にたどり着けない女性たちが命を落とすのを防げないかと、彼女は考え始めた。
モヤレ郡病院の最高経営責任者(CEO)、クス・アブドゥバ氏によると、2014年のケニア人口・保健調査で、マルサビット郡は妊産婦と乳児の死亡率が全国で最も高い4郡の一つに位置づけられた。
その病院では、手術室のない小さな産科病棟で、月に200人の赤ちゃんが生まれる。
牧畜民は家畜のために水や牧草を求めて移動するため、現地で母親を追跡しケアするのが最善の解決策だと思われたと、モヤレのリプロダクティブ・ヘルス責任者アブディ・ファタハ・バシリ氏は語った。
安価でシンプル
そのためにガルガロ氏は、女性たちが身に着けられるGPSシステム入りブレスレットを考案した。
防水性があり、小型で、鮮やかなオレンジ色のビーズを使った文化になじむデザインだったため、女性たちも身に着けることに抵抗がなかったと彼女は付け加えた。
2017年、ガルガロ氏はアフリカ科学アカデミーから10万ドルの「グランド・チャレンジズ・アフリカ」助成金を獲得した。この助成金はビル&メリンダ・ゲイツ財団との提携によるもので、彼女の構想を実現するために使われた。
「このGPSの電源には太陽光が最適だったと断言できます」と、プログラムの技術を担当するデニス・カリキダネ氏は語った。
ブレスレットには小さな太陽光パネルが取り付けられ、手首に着けている間に光を吸収し、自動的に充電される。
電池で動く設計だったら、この装置を購入できる人はほとんどいなかったでしょう」とカリキダネ氏は付け加えた。
彼は訪問前日の朝に、母親一人ひとりの位置を記した一覧を印刷する。それをもとにチームは、どこに拠点を設けるのが最適かを判断できる。
GPSの電波が届きにくい場所では、女性たちがどこにいるのかを地域の人々に具体的に尋ねると、彼は付け加えた。
ガルガロ氏とチームは毎月、郡内各地に点在する10か所を訪問する。
医療従事者は、水場の近くを拠点に選ぶことが多い。共同体の人々は、ヤギ、牛、ラクダ、ロバ、羊に水を飲ませるため、通常は水場の近くにとどまる。

危ぶまれるサービスの継続
ガルガロ氏によると、チームは世界保健機関(WHO)が推奨する母親一人あたり4回の妊婦健診を超えて実施し、これまでに妊婦約270人を支援してきた。
「GPSを持つ人では、母親も乳児も死亡者はゼロです」と彼女は付け加え、ブレスレットを持つ人は自宅訪問も受けられると説明した。
出産後もブレスレットを着け続ける母親を医療従事者が追跡し、赤ちゃんが1歳になるまで予防接種を行うと、彼女は付け加えた。
成功を収めたものの、GPSシステムには改良が必要だとガルガロ氏は語った。より長い距離をカバーできるブレスレットを増やす必要があり、理想的には緊急時に備えて双方向で通信できる仕組みにしたいという。
9月に事業資金が尽きた後どうなるのか、彼女は心配している。
「遠隔地の村に住む人々の多くは、このサービスが今後も続くと信じています」と彼女は語り、新たな資金援助を見つけたいと付け加えた。
