「危険な思考」が成功の秘訣となる理由

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ビジネスの世界では、現状を打破しようとするスタートアップが数多く現れるなか、もはや無難なやり方では成果を上げられない。しかし、コンフォートゾーンから踏み出すことに慣れていない人にとって、革新的な思考は難しい場合がある。Free Range Studiosの創業者兼CEO、ジョナ・サックスは、先駆者として一歩先へ踏み出し、成功を収めた人々の示唆に富むストーリーをまとめた。彼はKnowledge@Whartonの番組に出演し、SiriusXMチャンネル111のWharton Business Radioで、自著について語った。『Unsafe Thinking: How to be Nimble and Bold When You Need it Most(危険な思考:いざというときに機敏かつ大胆になる方法)』。

Knowledge@Wharton:「危険な思考」とは何ですか。

ジョナ・サックス:私は昔から起業家でした。23歳のときにクリエイティブ・エージェンシーを立ち上げました。若いころは直感を頼りに多くの仕事を手がけました。インターネットがコミュニケーションツールとして登場し始めた時期にその場にいたことで、事業は大きく成長しました。

しかし、インターネット上のストーリーテリングの分野である程度の専門家になると、生まれつき備わっていて自然に使えていたと思っていた能力のいくつかが、急に失われ始めたことに気づきました。専門性が高まるにつれて、問いより答えを多く持つようになり、考え方もますます固定化していきました。事業が成長するにつれ、ルールを増やし、予測可能性を高めようともしていました。

事業は順調でしたが、創造性やイノベーションが失われつつあるのが見えてきました。いったん失われ始めた創造性を伸ばしたり、身につけたりできるのか調べ始めました。その科学的な側面を掘り下げ、尊敬するイノベーターたちに話を聞きました。創造性は生まれつき備わっているだけのものではなく、私たちを取り巻く環境や、私たちが使うメッセージによって形づくられるものだとわかりました。

以前の私の考え方は、列車を定刻どおり走らせ、事業を続けていくことでした。もっと大きく、型にはまらないものへと飛び込む必要がありました。そして、いざというときに事業を救ったり、立ち上げたりするための方法があるとわかったのです。

Knowledge@Wharton:「危険」という言葉を聞くと、少し身を引く人が多いでしょう。しかし、危険な思考はイノベーションと結びついています。

サックス:今日、本当に危険なのは安全志向の思考です。過去のパターンを繰り返し、予測可能なものに頼り、異なる状況で他者にうまくいったとわかっていることを行い、大きなイノベーションより小幅な変化を常に優先していたら、いずれ失敗します。私たちを取り巻く環境は非常に速く変化しています。思考や行動のパターンが環境の変化に合わせて変わらなければ、時代に即した存在であり続けることはできません。

今日、本当に危険なのは安全志向の思考です。

ジョナ・サックス

特にプレッシャーのもとでは、ある程度の不安や恐怖を感じるのは自然なことです。しかし、そこから抜け出せたイノベーターたちは、その恐怖や不安を創造性の燃料として捉え直すことを学んでいました。アイデアを考えて不安にならないなら、それはおそらく画期的なものではないと気づいていました。そして、不快さや不安を感じる方向へ踏み出した人生の瞬間こそ、あらゆるブレークスルーが生まれた場だったのです。常に突飛なことをすべきだと言っているのではありません。しかし、ときには自分を居心地の悪い状態に置かなければ、創造性の限界を押し広げることはできません。

Knowledge@Wharton:企業レベルでは、無難なやり方が収益を損なうことがあります。個人レベルでは、従業員が社内で昇進していく道を妨げることがあります。

サックス:もはや、成功へ続く明快でわかりやすい道筋はありません。「山登りヒューリスティック」と呼ばれる思考パターンがあります。山頂に向かって、その時点で最も明白な次の一歩を常に踏み出せば、いずれ頂上にたどり着くという考え方です。直感的には納得できます。しかし、それに従うと、何度も平凡な結果に行き着きます。新しいことを試し、実験し、通常どおり事業を進めながら新しいアイデアを育てていかなければ、やがてその通常運転が私たちを平凡さの中間地点へ連れていきます。事業を続けるために必要なことをしながら、同時に別の機会に賭け、事業運営に一定の賢明なリスクを加えるにはどうすればよいか。これは今、私たち全員が直面している課題です。幸い、実践する方法はあります。

Knowledge@Wharton:デジタル化はこのプロセスにどのような影響を与えていますか。

サックス:デジタル化は確かに、破壊的変化のペースを加速させています。また、誰も思いついていないアイデアを一つ見つけ、それを展開して安泰でいることも、ずっと難しくしています。今この瞬間にも、何か新しいものを生み出そうとしている人が世界中に10億人います。あなたがアイデアを思いつけば、同じアイデアを持つ人がほかにも何千人といるのです。

競争優位性とは、何かを見つけて無期限に活用することではありません。自ら生み出すアイデアに機敏に対応し、市場から良い反応を得て、周囲の世界の変化に合わせて絶えず適応することが競争優位性です。以前のモデルは、ある一つのことの専門家になり、できるだけ長くそれに乗り続けることでした。今では、専門性は思考の罠だという理解が広がりつつあります。世界を見るレンズを絶えず更新し続ける人が、最先端にとどまれるのです。

Knowledge@Wharton:デジタル化は企業のリーダーシップをどのように変えていると思いますか。特に、この本のために話を聞いた企業について教えてください。

サックス:良い意味で「危険」な企業には、皮肉な特徴があるとわかりました。創造性の高い企業というと、自由奔放で、統制が取れず、組織体制もあまりないイメージがあります。興味深いことに、私が調べたなかで最もうまく実践していた企業は、人々が危険を冒せるよう、安全な環境を整えていました。

昨年のUberに見られたような、開拓時代の西部のような環境は、チームの創造性を引き出すものではありません。人々が人間として守られ、理解され、尊重され、チーム内に多様な認知的視点があり、それが受け入れられ称賛されるとき、チームは十分に安心して現場に出てぶつかり合い、失敗しても首を切られないとわかったうえでリスクを取れるようになります。謙虚なリーダー、結果だけでなくプロセスも評価するリーダー、ルールを破る人を称賛する方法を見つけるリーダー。こうしたチームが危険を冒せるようになるのです。

本のなかでも特に気に入っている話の一つとして、ゴールデンステート・ウォリアーズのヘッドコーチ、スティーブ・カーに話を聞きました。選手時代の彼は、自分はNBAにふさわしくない、ほかの選手ほど大きくも強くもない自分がそこにいてはいけないのではないかと恐れていたそうです。大きなスリーポイントシュートを打たざるを得なくなって初めて、その恐怖を乗り越えました。

ウォリアーズの指揮を執るようになったとき、彼は、実力を発揮できていない優秀なチームにプレッシャーをかけるのではなく、まずロッカールームで選手たちに、100%守られ、安心できると感じてもらうことを決めました。そうすれば、コートに出たときにもっと実験的なプレーができます。それは大きな成果を上げました。どのリーダーもこの教訓を生かし、イノベーションが生まれる場をつくるために、安心して挑戦できる場を設けられると思います。

昨年のUberに見られたような、開拓時代の西部のような環境は、チームの創造性を引き出すものではありません。

ジョナ・サックス

Knowledge@Wharton:ここ数年のウォリアーズの成功の多くは、カーがチームのリーダーとして行ってきたことに由来すると言えます。当然、選手たちにも役割がありますが、選手が成功できる環境を整えるコーチの重要性は、十分に認識されていないかもしれません。

サックス:そのとおりです。彼が行ったことの一つは、スター選手から注目をそらし、チーム全体に焦点を当てたことです。素晴らしい選手たちがそろっていましたが、試合あたりのパス数はリーグでもかなり少ない水準でした。彼はそれを選手たちに指摘し、こう言いました。「当面は得点、アシスト、リバウンドを数えるのはやめよう。ロッカールームに入って、チームで何本パスを出したかを数えよう。十分なパス数に達するまでは、成功できない。」

彼は新しい指標を測り始めました。これまで誰も測ってこなかったものを測るという小さな変化ですが、これは一つの比喩だと思います。創造性やイノベーションを称賛し、リスクを取ることを評価すると口にするだけでは足りません。それらを測定して報いる必要があります。そうすれば、仕事で前進するにはそれが大切だと人々に伝わります。

創造的な企業には、社内の明文化されたルールや暗黙のルールを破る人がいることがよくあります。本当に創造的な企業は、うまくいったときにそれを黙認して見て見ぬふりをするだけではありません。少しルールを曲げて回避策を見つけ、仕事の効率を高めている、既成のやり方に従わない人たちの成功談を実際に語り、称賛します。皆がルールを破り始めることを恐れているわけではありません。むしろ、創造的な行動を促す方法なのです。

Knowledge@Wharton: CVSがたばこ製品の販売を中止する決断をしたことについて書かれていました。利益を失う可能性があるため、創造的で危険を伴う思考が必要な決断でした。

サックス:私たちはこうしたことを、起業家精神や個人の行動という観点から考えがちです。創造性と聞くと、発明家を思い浮かべます。しかし、CVSのような大規模で官僚的、保守的な組織で、これがどう機能するのかを考えるのは難しいことです。

CVSの副社長であるヘレナ・フォークスは、組織の中核的な目的を考えるチームに加わっていました。そこで出たのは、特に心を動かすものではない、率直な答えでした。「地域社会に健康を届ける必要がある」。しかし、同社は毎年20億ドル相当のたばこを販売しており、それでは地域社会に健康を届けているとは言えないという矛盾を、彼女は認識していました。

ときには自分を居心地の悪い状態に置かなければ、創造性の限界を押し広げることはできません。

ジョナ・サックス

私たちは皆、事業のなかに断絶がある状況に慣れてしまっています。もっとよくできることがあるとわかっていても、「ビジネスとはそういうものだ」「変える方法はない」と考えてしまいます。彼女はがんを克服した経験があり、何かできることがあるはずだと考えていました。心に訴えるだけでは足りず、実現するには説得力のある事業上の根拠を示す必要があるとわかっていました。

彼女は自分に、非常に変わった問いを投げかけました。「たばこを売らないことで、もっと利益を上げられるだろうか」。この問いを立てたことで、社内に埋もれていた、かなり明白な情報が次々と表に出てきました。ブランド価値の向上や、医療保険制度改革法(Affordable Care Act)に基づく提携を通じて、新たな事業機会が数多く生まれる可能性がありました。しかし、企業の常識に疑問を呈したい人がいなかったため、それらは見過ごされていました。彼女はチームをつくり、上司を説得して試みを進めました。そして承認の直前に、小売部門の責任者に任命されました。つまり今度は、自分自身の損益計算書(P&L)から20億ドルを差し引くことになります。それが本当の試練でした。大きく後退することを受け入れられるのか。彼女は実行し、最初の1年で失った20億ドルを補うため、110億ドルの新規事業契約を獲得しました。

彼女のアイデア自体に、驚くほどの独創性があったわけではありません。社内を覆っていた常識的な思考の呪縛を解き、新しい問いを投げかける力が、CVSと同社がサービスを提供する地域社会に大きな成果をもたらしたのです。

Knowledge@Wharton:利益の出る事業パターンが定着すると、CVSのような大きな転換を実行するのは、多くの経営幹部にとって難しいことです。

サックス:AmazonやGoogleのような企業を見てください。消費者向けに製品を投入するたびに、「なぜこれをやるのか」「これはいったい何を意味するのか」「これは何なのか」という問いが生まれます。こうした企業は需要さえ先取りしています。多くの製品を育てながら、ビジネスに立ち止まることはないと認識しているからです。立ち止まるわけにはいきません。

たとえば、これをBlockbusterのような企業と比べてみましょう。ストリーミング動画に市場を奪われることに気づいていなかったわけではありません。しかし、話し合うたびに小幅な解決策を見つけたり、「もう少しこのまま持ちこたえられる」と言える理由を探したりしました。そうした企業は現実が見えなくなります。Nokiaは最初、折りたたみ式携帯電話を笑い、両手が必要な電話など誰も欲しがらないと言いました。次にスマートフォンを笑い、ポケットにコンピューターを入れて持ち歩きたい人はいないと言いました。

お金を稼ぐ自分たちのやり方に執着するあまり、周囲の世界が文字どおり見えなくなります。変化をかわすべき脅威ではなく成長の機会と捉える企業は、今も繁栄しており、これからも繁栄し続けるでしょう。

Knowledge@Wharton:BlackBerryもその例に挙げられますか。従来の携帯電話のスタイルから離れることに、とても慎重でした。ユーザーがそのスタイルを好んでいたからです。

サックス:そうですね。ある集団の人々が気に入っていて、変えてほしくないと思っているものを持つと、そこに罠が生まれます。BlackBerryのキーボードには、人々が本当に残したいと思い、愛着を持っていたものがあり、会社もそれに執着していました。しかし、ファンの集団も社内の人々も、客観的な現実をあなたに教えてくれることはありません。

本で述べていることの一つは、創造的なチームにとって、友人やファンだけでなく、批判する人や反対する人たちと協力することがいかに重要かということです。真の認知的多様性は、私が「敵とともに創る」と呼ぶところから生まれます。自分たちの四つの壁の外へ出て、最も反対する人々を招く意欲と勇気があれば、創造的な目標を見つけられるでしょう。

Knowledge@Wharton:トランプ大統領のように、政治の世界にも危険な思考が見られると思いますか。

サックス:私は2016年の選挙期間中にこの本を書いていました。そのため、いろいろと考えさせられました。トランプ大統領は政治選挙の運営に関する多くの常識を覆し、人々が予想しなかった形でルールを破り、それによって多くの競争優位性を見いだしました。ある意味で、彼の選挙運動やホワイトハウスの運営方法は非常に危険であり、もはや通用しない暗黙の前提から離れることで何が可能になるのかを示す例です。

しかし、本には同じくらい重要な部分があり、彼はそれを体現していないと思います。私たちは誰でも、使わなくなっている脳の働きを多く持っています。行動の仕方を一つか二つに絞り、それに固執するようになります。分析を得意とする人もいれば、直感を頼りにする人もいます。素早く動く人もいれば、じっくり考える人もいますが、ほかの能力を衰えさせてしまいます。この本は、自分があまり慣れていない思考法へ踏み出すことを勧めています。認知能力をどのように補い、世界をより明確に見られるようにするか、ということです。

トランプ氏は直感や勘に強く頼っており、変化する環境にうまく適応できないように感じます。私が思うに、自己を省みる姿勢の欠如が、最終的に彼を窮地に追い込んでいます。自己省察があれば、危険な思考をより幅広いものにできたでしょう。最近は、手早く目を引く解決策が好まれる傾向がありますが、国が本当に必要としていることをもっと深く考える必要があります。政治の世界で危険を冒すとは、政治的な境界を越え、現状よりも踏み込んだ解決策を見つけることなのかもしれません。

Knowledge@Wharton:イノベーションのために全員が円滑に協力することを企業は望みますが、摩擦や社内政治が妨げになります。それは危険な思考にどのような影響を与えますか。

「あなたがアイデアを思いつけば、同じアイデアを持つ人がほかにも何千人といるのです。」

サックス:イノベーションを起こし、価値あるものを生み出すには他者と協力する必要がある一方、他者は創造性を損ない、常識的な考え方に向かわせることが何度も示されているという、皮肉な問題があります。グループになると、集団思考によって創造する力が鈍りがちです。

自由に動き、率直に意見を言うことが許されない組織にいる「危険な思考」をする人にとっては問題です。しかし本では、「ルールを破りたい。ここで突飛なことをしたい」と正面から言わなくてもよい方法を数多く紹介しています。そう言えば、すぐに却下されてしまうでしょう。たとえば、会議やブレインストーミングの進め方を見直し、アイデアを出す段階にもっと時間をかけ、実行段階の時間を少し減らすことで、より多くのアイデアを表に出せます。本には、集団の合意を崩すために使えるアイデアが満載です。

また、やや保守的な企業にいる創造的な人々が、同じ状況にある別の企業の人々を見つけ、より多くの時間を一緒に過ごすようになっていることにも気づきました。社外でイノベーションを高めるサイドプロジェクトに取り組み、アイデアを育ててから社内に持ち帰るのです。創造性が完全に抑え込まれてしまう企業にいるなら、それは大きな問題です。しかし、リーダーでなくても、姿勢だけでなくプロセスを変えることで、危険な思考を社内に広げる方法はたくさんあると思います。

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