生涯にわたって学ぶことには道理がある。研究によれば、健康や経済状況、市民としての社会参加、家族の将来の展望に良い影響をもたらす。自立した生活を長く保ち、生活の質を高める。
企業にとっても、従業員の技能への投資には意義がある。柔軟性や創造性、問題解決力、チームワークを促し、従業員の主体性を高めることで、幸福度と生産性を向上させる。もちろん、これらは最新の産業革命がもたらす課題に企業が直面するなかで、まさに必要とされる資質だ。
政府にとっては、高齢期の学習を支援することで、急速に高齢化する人口における依存状態の始まりを遅らせることができる。また、不平等や排除の克服に重要な役割を果たし、世代間学習を促して、より強靱な家族や地域社会を築く。さらに広く言えば、学習はウェルビーイングの向上を促す。
当時、欧州委員会委員長だったジャック・ドロールは、1992年に生涯学習が経済的繁栄と社会的結束の双方に不可欠だと述べ、この点を要約した。
多国間機関が発表する報告書は次々と、生涯学習の価値を裏付けている。ユネスコが1972年に発表した『学習すること、それは生きること』から、2013年のOECD「国際成人力調査(PIAAC)」に至るまでだ。国連は、世界の開発ニーズに応えるうえで成人学習が重要であると認め、生涯学習を2015年の持続可能な開発目標の第4目標に盛り込んだ。「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する。」
今週発表された世界経済フォーラムの対話シリーズ論文、『第4次産業革命に向けた労働力のリスキリング加速』は、こうした証拠に新たな知見を加えるものだ。ロボット工学と人工知能の組み合わせが、工業国のブルーカラーの仕事に生産と貿易のグローバル化が及ぼしたのと同じ影響を、ホワイトカラーの仕事にも及ぼしかねない今、学習の重要性を強調している。また、とりわけ企業がこれらの課題にどう対応してきたかについて、豊富な肯定的証拠を示している。デジタル環境での問題解決力はますます重視されるようになり、各国の課題への対応力も明らかになる。
この図は、選定された経済圏における成人の問題解決力、適応力、および労働市場の変化による混乱にさらされる度合いを示している。

分析の底流には、仕事や社会全体に影響を及ぼす変化が重なり、世界の「勝者と敗者」の格差を拡大させ、社会の不平等をさらに深刻化させる現実的なリスクがあるとの認識がある。
学習の利点を示す肯定的な研究結果があり、政府間機関からも広く支持されているのだから、各国が生涯にわたる学習を促すために教育制度を再構築している証拠が広く見られるはずだ。しかし、先進国の大半では、初期教育を終えた後の学習は政府の政策や投資でほとんど重視されず、提供の規模や範囲は市場原理に委ねられている。
一方、研究によれば、成人後に学習に参加するかどうかを最もよく予測する要因は、幼少期に長期にわたって学習に参加した経験だ。職場では、研修費は最も技能の高い上級職員に集中している。職場の外でも、自ら進んで継続教育に投資するのは、学校や大学で順調に学んだ人々だ。オックスフォード大学のカレッジ長を務めたヘレナ・ケネディはかつてこう述べた。「最初に成功しなければ、その後も成功しない。」これは避けられないことではない。しかし、生涯学習を本当にすべての人のものにするには、政府が最初の機会で恩恵を最も受けられなかった人々を積極的に支援し、企業や市民社会と協力して、成人が学習を始めるよう後押ししなければならない。
工業化された国々以外でも、状況は同じように厳しい。教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)は、2015年以降、成人識字教育と生涯学習へのGPE資金を優先してこなかった。そのため、これらの責任は市民社会組織が担わなければならない。それでも世界には、基礎的な読み書き能力を持たない成人が8億人弱いる。
政府のレベルで理念と実践に隔たりが生じる理由の一つは、成人学習の恩恵が幅広い政府部門に及ぶことだ。例えば、学習者の健康、特に精神的健康の改善は医療予算に恩恵をもたらし、犯罪者の学習は再犯を減らして司法部門の利益になる。一方で、支出は教育予算の周辺部分から賄われる傾向があり、そこでは学校や大学のニーズが必然的に優先される。
第二の理由として、多くの国で成人の参加状況や学習成果に関するデータの改善が必要なことが挙げられる。行政の仕組みを通じて容易にデータを収集できる学校や大学とは異なり、成人学習は実態を把握しにくい。成人は正規・非正規の講座やインフォーマルな学習を通じて学ぶため、誰が恩恵を受けているのか、さらに重要なことに、誰が取り残されているのかを把握するのが難しい。それでも政府が投資の優先順位を決めるには、こうした情報が必要だ。
第三に、生まれてから生涯にわたる学習制度をつくるには、学習への投資を幼少期に集中させ、その時期に身につけた技能が一生続くと期待するモデルから脱却する必要がある。それに加えて、学校を終えた後の生涯学習に割り当てられる予算は少ないため、構造的な変化がほとんど見られないのも不思議ではない。
生涯学習は整然としたものではなく、強力な副次的効果を生み出す。学習の成果が別の場面にも波及するからだ。ある状況で身につけた技能や能力は、別の場面でも活用される。英国フォード・モーター社は、1980年代にその明確な例を示した。同社は賃金交渉の最終段階で、賃金総額の0.3%を、職場単位で管理職とブルーカラー・ホワイトカラー双方の労働組合が共同運営する制度に充てることに合意した。この制度は、社内研修以外での従業員の学習を支援するものだった。従業員は車の運転や壁の左官作業を学び、数学力を高め、スペイン語を学び、英国公開大学の学位課程を受講した。楽しみながら身につけた技能を職場に持ち帰った。会社では、欠勤率が下がり、新しい手順の導入時に起きる職務分担をめぐる紛争が減り、従業員の定着率が上がった。また、労使関係の悪さを象徴していた年2回の大規模賃上げストライキも終息した。楽しみのための学習への投資は収益の改善につながり、その後15年間に同社が英国の従業員を削減するなかでも、労働組合と経営陣はともに制度を維持した。
政府にできることを示す力強い例がシンガポールだ。中国の急速な発展により中継貿易経済が大きな課題に直面するなか、政府は国内の技能基盤を再構築する支援が必要だと認識し、既存の労働者のリスキリングを担う「Skills Future Singapore」を設立した。『第4次産業革命に向けた労働力のリスキリング加速』は、シンガポールの成人教育研究所の取り組みを取り上げている。同研究所は、成人に適した教育・学習スキルを教師や成人学習支援者に教えている。また、各分野の団体と連携して新たに求められる技能を特定し、企業には職場学習の現状を評価する診断ツールを提供するとともに、職場学習活動を効果的に構成する方法について助言している。
多くの場合、政府が効果的な生涯学習戦略を中央で組織するのは難しいが、責任を地方に委ねると、よりうまく進められる。都市や準地域のレベルでは、地域の協力が可能であることを示す確かな証拠がある。アイルランドのコーク、南アフリカのケープ地域、中国の上海の例は、学習都市が企業、労働組合、都市計画担当者、さまざまな市民社会組織を大学、学校、カレッジと結びつけ、資源を持ち寄って変化を生み出す方法を示している。
企業は、各分野の技能団体を通じた取り組みや、サプライチェーンを活用した技能水準の向上によって貢献する。市民社会組織は、十分に参加できていない地域社会の人々と関わる。教育機関は、職場実習を改善し、地域のニーズに合わせてカリキュラムを見直す。こうして、リスクを取り創造性を発揮することが支えられ、排除や不平等に対処する、より広範な学習文化が生まれうる。
同論文が 示すように、生涯学習の文化を築くには、現在の仕組みに多くの小さな調整を加える必要がある。こうした取り組みには、日々の活動の境界を越えて働く人々の協力と信頼が欠かせず、それには時間がかかることもある。しかし論文が明らかにしているように、技術、環境、人口動態の変化は加速している。迅速に対応しなければ、雇用、安全、地域社会の結束に深刻な影響が及びかねない。そのため、国際合意や企業のビジョン声明が掲げる立派な目標を、すべての成人に届く具体的な施策に変えるため、政府、企業、地域社会が取り組むことが急務だ。
それは実現するだろうか。現在の国際的な証拠には、楽観できる材料がほとんどない。しかし、新たな技術を生み出す創意工夫が私たちにあるのなら、十分な善意と決意によって、すべての成人が学習に参加し、その技術を最善かつ最も包摂的に活用する方法を学ぶ機会をつくる力も、同じように備わっているはずだ。そうではないだろうか?

