読み書きはどのように進化したのか?神経科学が手がかりを示す

A petroglyph is seen in San Francisco de Miculla valley in Tacna, southern Peru, September 13, 2006. The ancient engravings, representing deities and their daily activities, are done in calcareous stones or reddish silica of different sizes. REUTERS/Mariana Bazo (PERU) - GM1DTMLUVRAA
Mirror neurons are activated during activites like writing.Image: REUTERS/Mariana Bazo
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視覚情報を処理する脳の領域である視覚野は、読み書きが存在しない世界で何百万年もの歳月をかけて進化した。そのため、長い間謎とされてきたのは、こうした能力がどのようにして現れたのかということだ。およそ5,000年前、脳が突然、文字を理解する特別な能力を獲得したのである。この変化を理解する鍵は、人類がなぜ、どのようにして反復する印をつけ始めたのかを明らかにすることだと考える研究者もいる。

近年の大規模な脳画像研究では、人々が文章を読む際の視覚野を調べ、脳が単純なパターンをどのように知覚するかについて重要な知見が得られている。私の新しい論文は、『Journal of Archaeological Science Reports』に掲載され、こうした研究を分析し、人類が作った最古のパターンは象徴的なものではなく美的なものだったと論じるとともに、それが読み書きの進化に何を意味するのかを述べている。

考古学者たちは、初期人類に加え、ネアンデルタール人やホモ・エレクトスが刻んだ古代のパターンを、次々と発見している。こうした印は、何かを表す絵である最初の具象芸術より、数千年も前のものだ。

初期の刻印。上段、左から右:トリニールの貝殻、ブロンボス洞窟の刻線(2例)。中段:南アフリカのダチョウの卵殻。下段:ジブラルタルの岩肌にネアンデルタール人が刻んだもの。Image: 著者提供

初期の刻印。上段、左から右:トリニールの貝殻、ブロンボス洞窟の刻線(2例)。中段:南アフリカのダチョウの卵殻。下段:ジブラルタルの岩肌にネアンデルタール人が刻んだもの。著者提供

南アフリカでは、10万年前にさかのぼる刻線を含む、こうした模様が見つかっている。考古学者たちはさらに、貝殻に刻まれた模様をホモ・エレクトスが約54万年前に作ったことも明らかにした。これら初期の刻印に共通する興味深い特徴は、どれも格子や角、反復する線を含んでいることだ。

脳のパターン・フィルター

私は2000年に、初めて提唱したのは、「初期視覚野」――目からの視覚情報が最初に届く大脳皮質の部位――の情報処理の仕組みが、単純なパターンを刻む能力を生み出したという説だ。この領域には、輪郭や線、「T」字型の交差を符号化するニューロンがあることが分かっている。こうした形は単純化された形態であり、視覚野を選択的に活性化させる。

この能力がどのように生まれたかは想像しやすい。線や角、交差は自然環境に最も多く見られる特徴であり、物体の配置を把握するうえで重要な初期の手がかりとなる。それらを処理する脳の能力は他の霊長類にも共通するが、人間の脳はさらに、こうした手がかりに能動的に反応できる。その際に用いるのが「ゲシュタルト原理」だ。これは、刺激の中のパターンを心が自動的に知覚するための規則である。これにより脳は基本的な形を構成し、それを脳の高次視覚領域へ伝える。高次視覚領域はその形を処理し、実在する物体として認識できるようにする。

左右対称のアシュール石器Image: 著者提供

約70万年前以降のある時点で、幾何学への感受性とパターンを知覚する能力によって、人類は一定の対称性を備えた精巧な「アシュール石器」を作り始めた。幾何学について暗黙の知識がなければ、これは実現しなかった可能性が高い。

南アフリカ、クラシーズ川の黄土塊(約10万年前)。偶発的にできた筋を利用して、十字形を作った可能性がある。Image: d’Erricoほか、2012年。Journal of Archaeological Science。(Elsevierの許可を得て掲載)

その後、道具作りによって自然環境のパターンに対する感受性と偏りがさらに強まり、祖先たちは実際の道具以外の素材にもそのパターンを投影するようになった。例えば、岩や貝殻、黄土などの素材に、意図せず印をつけ始めた。

刻印から文字へ

やがて、こうした意図しないパターンを素材に意図的に写し取るようになり、刻まれた図案へ、さらに後には文字へと発展した。

では、これはどのようにして可能になったのか。神経科学の研究によると、文章を書くときには脳の運動前野が関わる。この領域は手作業の技能を司る。したがって私の理論では、物事を見分ける受動的な知覚が手先の器用さと結びつき始めたとき、読み書きが進化したと考える。

書くことや抽象的なパターンは、脳内のいわゆる「ミラーニューロン」も活性化させる。これらの脳細胞は、自分が行動するときだけでなく、他者の行動を観察するときにも発火するという特異な性質を持つ。その働きによって、あたかも自分が行動しているかのように他者に共感し、理解できる。また、パターンを見たり、書かれた文字を見たりするときにも発火する。そのため、偶然にできたものでも自然に生じたものでも、パターンに一体感を覚え、再現したいという気持ちが生まれることがある。こうした印が、読み書きへの最初の一歩となった。

こうした発展によって、脳は視覚野をまったく新しい目的に再利用できるようになった。最終的には、視覚野を活用する新たな脳内プロセスが生まれ、視覚性語形領域が形成され、時間をかけて徐々に発話に関わる領域とつながった可能性がある。

一方で、初期の刻印は美的なものではなく象徴的なものであり、そこに情報を符号化することから文字が進化したと考える研究者もいる。しかし私は、この説はますます可能性が低くなっていると考える。初期の刻印は、非常に長い期間にわたって互いによく似ている。もし象徴的なものなら、現代の文字体系と同じように、時空を超えてもっと大きな変化が見られるはずだ。しかし、そうはなっていない。

以上のことから、最古の刻印は、初期視覚野が基本的な形態を好む性質に由来する美的なものだった可能性が高い。始まりは、ホモ・エレクトスが生きていた約180万年前から50万年前にまでさかのぼるかもしれない。

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