従来、十分に代表されてこなかった集団の出身者は、職場でしばしばジレンマに直面する。文化、民族、人種、ジェンダーなど、自分の違いを認めて共有するべきか。それとも、より大きな社会的調和を生み出すために、それらを隠そうとするべきか。ウォートン校の経営学教授であるレイチェル・アーネットは、職場の包摂性を育むうえでアイデンティティが果たす役割と、それが職業上の昇進にどう寄与するかを研究している。真の変化を実現したいなら、管理職と従業員は多様性を抽象的に捉えるだけでは不十分だと考える理由について、彼女はKnowledge@Whartonの取材に答えた。
以下は、編集を加えた対談の記録である。
Knowledge@Wharton:研究の主なテーマは何ですか。
レイチェル・アーネット:私の研究では、多様な職場環境や状況にいる人々が、社会的アイデンティティの違いを表に出したり隠したりしながら、どのように包摂性を育むかを調べています。このテーマでは、いくつかの異なる領域に取り組んでいます。その一つは、文化や学歴など、どのような違いであれ、職場で自分の違いに注意を向けられることを人々がためらう理由です。違いを表に出すことを抽象的に考えると、人々はためらいを感じることが分かりました。しかし、職場での具体的なやりとりや、そうした違いに周囲がどう反応するかをより具体的に考えてもらうと、心を開いて自分らしく振る舞うことへの抵抗感は少し和らぎます。
また、こうした人々が文化の違いや特定の文化的伝統に込められた意味などについて、深く意義ある形で心を開くと、良い結果につながり、周囲の人がその人に対してより包摂的に振る舞うようになることを示す研究も行っています。相手も心を開くようになる、社会的に仲間として迎え入れる、さらには職業上の観点から昇進を後押ししようとする、といった変化です。
Knowledge@Wharton:この研究から企業や個人は何を学べますか。
アーネット:この研究は職場にさまざまな示唆を与えると思います。管理職は多様性が職場にとって望ましいという直感を持っていることが多いものの、それを従業員にどう説明すればよいか、必ずしも分かっていません。違いのある人々を採用したうえで、いわばるつぼのように共通点を重視するべきでしょうか。それとも、違いを認め、職場で生かすよう促すべきでしょうか。私の研究が目指すのは、後者のアプローチも実現可能だと管理職に伝えることです。従業員が自分の違いに前向きで意義ある形で注意を向けられるよう促せば、より包摂的な環境につながります。
「管理職は多様性が職場にとって望ましいという直感を持っていることが多いものの、それを従業員にどう説明すればよいか、必ずしも分かっていません。」
従業員にとっても、とても励みになることだと思います。自分の違いに注意を向けたいと思うなら、意義ある形でそうすることで良い結果が得られ、自信にもつながると示しているからです。また、その情報を受け取る側にとっても、大きな励みになると思います。私の研究によれば、職場で違いを指摘されることを私たちは恐れる一方、実際にそうなったときの不安は少し軽くなります。相手が意義ある形で心を開けば、その人との距離が縮まったと感じ、もっと包摂したいと思うようになります。違いについて抽象的に考えるときに人々が抱く懸念の多くを和らげ、現実には違いが良い結果をもたらし得ると示せると思います。
Knowledge@Wharton:管理職がこの考え方を全体的な戦略に取り入れたり、従業員同士の関わり方に反映させたりするには、どのような方法がありますか。
アーネット:違いを認め、それに注意を向けることには、二つの捉え方があります。一つは職業上の場面です。従業員が、互いから学ぶ機会として違いを捉えるよう促すことができます。誰もが、他の人が独自にもたらすものから学べることがある、という考え方です。違いを職業上の形で生かすことを後押しすると思います。多様性をそれ自体のために実現するのではなく、違いを学びの機会と捉えると、人々がより良い成果を上げ、職場でより協力して働くうえで、学びを重視するこのアプローチが非常に有効になり得ることを示す研究があります。
より包摂的な環境を全般的につくるという点では、それが人々の協働に間接的な効果をもたらすと思います。リーダーは、自分自身について、また自分を独自の存在にしているものについて話すことで、人々が違いを認め合えるよう促せるかもしれません。多くの企業がこれを始めているのを見てきました。リーダーがオンラインの場で、自分の個人的な背景について語るのです。そうすることで、「ここでは自分たちが何者なのかを率直に話し、自分らしくいられる」という雰囲気が生まれ、ほかの人も同じように話すよう促されます。そうした行動が、ほかの人にも同じリスクを取るよう促すのです。
Knowledge@Wharton:多くの企業は、多様性を推進し、従業員が自分のアイデンティティを認め合うことを望んでいると言います。しかし、それを実践することがしばしば課題になります。従業員が心から受け止め、実行に移せる形で、企業はどうすれば多様性を受け入れられるでしょうか。
アーネット:とても良い質問です。このことを考えるとき、どの従業員を念頭に置いているかによると思います。組織内で従来、十分に代表されてこなかった人々は、職場で違いが歓迎されるか、抑えられるかといったことを、自分が本当にその職場に属しているかどうかの手がかりとして見ています。従業員が特定の組織に加わるか検討する際、代表性が低く、違いが大きく軽視されているという兆候を目にすれば、別の組織に加わりたいと思うことが多いという研究があります。そうした人々を念頭に置くなら、違いを認めることをもう少し積極的に歓迎する雰囲気をつくるべきです。人数を確保するためだけにあなたを迎えるのではなく、あなたを迎え入れ、あなたならではの背景を持つ人としてこの場に属していると感じられるよう支援するのだと示すためです。そして、あなたが心地よいと感じる範囲で、自分らしくいられるようにするのです。
「従業員が自分の違いに前向きで意義ある形で注意を向けられるよう促せば、より包摂的な環境につながります。」
Knowledge@Wharton:職務内容の記述や面接の過程にも当てはまりますか。
アーネット:はい。これは、今後の私の研究課題の一つにつながります。周囲が安心できる形で、そうしたメッセージをどう伝えるかを理解したいのです。違いのある人はその違いを持ち寄るべきだと当然のように思われると、少し威圧的に感じる場合もあります。つまり、あなたは職場で唯一の黒人、ラテン系、アジア系の人として振る舞うのが仕事だ、ということです。その背景に根差した本物の経験を何か示せないなら、いったい何のために採用したのか、というわけです。組織に属せるかどうかが、管理職の定めたステレオタイプや「本物らしさ」の基準にその人が当てはまるかどうかに左右されるかのように、管理職に振る舞ってほしくはありません。従業員には、どの程度自分を表現したいかを自分で決められる余地を与えるべきです。それには、自分の文化的背景の一面について話すことが含まれるかもしれませんし、別のことかもしれません。どの程度心地よく感じるかは人それぞれです。大切なのは、そうするよう求めたり当然視したりすることではなく、望む人にその余地を与えることだと思います。
Knowledge@Wharton:こうした問題や、企業が発するメッセージについて考えるには、企業側に高い感度が求められるようですね。
アーネット:その通りです。これらの問題は非常に複雑です。だからこそ、多様性の取り組みにどう臨むのが最善かについて、多くの議論が交わされるのです。単純明快な問題なら、これほど多くの対話や議論は起きないでしょう。私が研究を通じて本当に目指していることの一つは、人々がある方法を取った場合と別の方法を取った場合に、実際に何が起きるのか、その微妙な違いを理解することです。私たちはどのようなささやかなシグナルを送っているのでしょうか。人々は社会環境の中で受け取った情報にどう反応するのでしょうか。歴史的に十分に代表されてこなかった人々も、歴史的に多数派だった人々も含め、関係するすべての人にとって機能する環境を、最終的にどうすればつくれるでしょうか。
Knowledge@Wharton:「多様性を推進している、多様性が大好きだ」と言う人は、自分の言葉と行動の食い違いという、かなり厳しい現実に向き合わなければならないかもしれません。
アーネット:リーダーも一般の従業員も、多くの人が直面する課題は、理想として抽象的に望んでいることと、日々の行動が示すこととの違いです。近い将来取り組む研究の一つは、自分の行動が人種や異なるジェンダー、性的指向を持つ人々に対して十分に配慮したものではなかったかもしれないという証拠に、人々がどう反応するかを調べることです。そうすれば、人々が防御的になったり、攻撃されていると感じたりせずに、自分の行動を変えられたかもしれないという可能性に少し心を開けるような、フィードバックの循環を生み出せます。
私の研究で実現したいのは、多様性を機能させる方法を人々が安心して試し、望むならどう改善できるかについてフィードバックも得られるような方法を見つけることです。
「リーダーは、自分自身について語ることで、人々が違いを認め合えるよう促せるかもしれません。」
Knowledge@Wharton:今後、ほかに検討している研究テーマはありますか。
アーネット:違いは素晴らしいのだから、思い切り表に出せば何もかもうまくいく、といった誤った安心感を人々に与えることだけは避けたいと思います。これまで見つけてきた効果がどのような条件のもとで成り立つのかを調べたいのです。たとえば、政治的な違いについて話すかどうかは、考えられるテーマの一つです。私の立場からすれば、あなたの政治的見解の違いが私の生活に影響を及ぼすかもしれません。今あなたが話しているのは、自分の背景の一面だけではなく、私や聞き手に影響を及ぼすことです。そのため、そうした会話には少し応じにくく感じるかもしれません。
もう一つ関心があるのは、歴史的に高い地位にあったアイデンティティを人々がどう扱うかです。たとえば、アイビーリーグで教育を受けたことや、より地位の高い雇用主のもとでインターンシップをしたことなどを、人々が隠す傾向について研究しています。人々がそれをするのは、周囲との社会的な調和を生み出そうとしているからです。組織内で従来、高い地位や権力を持ってきた人々にも、誰もが自分らしくありたいという共通の思いに気づいてもらうために、そうした傾向をどう生かせるかを調べたいと思います。誰もが、調和の取れた職場を保ちながら自分らしくいる方法について悩んでいます。この研究を通じて、組織のリーダーが、しばしば十分に代表されてこなかった集団の問題とされる課題に共感し、それが誰もが集団で解決に取り組める共通の課題だと理解できるようになるかもしれません。

