過去1世紀にわたり、機械は多くの作業で労働者に取って代わってきました。しかし全体としては、テクノロジーによって失われた雇用よりも多くの雇用が生み出されました(Frey and Rahbari 2016)。技術の進歩は生活水準を大きく変えました。平均寿命は延び、基礎的な医療と教育が広く普及し、ほとんどの人の所得が増加しました。それでも、ロボットによる失業への懸念が、仕事の未来をめぐる議論をしばしば支配しています。
世界銀行の2019年『世界開発報告』は、仕事の性質の変化をテーマに、何がどのように変わり、何をすべきかを分析しています(World Bank 2019)。報告書は、全体として、ロボットによる失業への懸念には根拠がないようだと論じています。むしろ、仕事の未来を動かすのは、自動化とイノベーションという相反する力、もう一つの「AI」です(図1)。
図1 将来、雇用のあり方を形作る自動化とイノベーションの力

技術の進歩により、企業は生産において労働力を機械に置き換える自動化を進めるとともに、産業分野、作業、製品の数を増やすイノベーションを起こせるようになります。イノベーションの速さによって、従来の定型的な仕事の減少を補う新たな雇用や作業が生まれるかどうかが決まります。
たとえば、欧州の最近のデータによると、テクノロジーは一部の労働者に取って代わる一方で、労働需要も高めています。全体として、定型業務を代替するテクノロジーによって、1999年から2016年までに欧州全域で2,300万件を超える雇用が生み出されたと推計されています(Gregory et al. 2016)。
報告書は、テクノロジーが生み出す、あるいは失わせる雇用数の予測にとどまらず、企業の性質の変化、それが労働者に求められるスキルや労働条件に及ぼす影響、そしてそれに応じて政府の政策をどう方向転換すべきかに焦点を当てています。
デジタル経済は企業の境界を広げ、企業のあり方に根本的な変化をもたらしました。事業を行ううえで、物理的にその場にいる必要はもはやありません。企業は海外からオンラインサービスを提供したり、ソフトウェアや知的財産などの無形資産から利益を得たりします。また、デジタルプラットフォームは他者の資本から収益を生み出します。デジタル経済の企業は、従業員や有形資産が少ないまま、地域のスタートアップから世界的な巨大企業へと、はるかに速く成長することがあります(図2)。
図2 近年の技術進歩が企業の成長を加速

政府にとって、デジタル経済で価値がどこに生み出されているかを特定し、企業の利益の一部を確保することは、特にユーザーデータに関して、必ずしも容易ではありません。こうした状況では、企業が優遇税制のある国に資産(ひいては利益)を置きやすくなっています。また、デジタル市場は競争の面でも新たなリスクをもたらします。
企業の性質の変化に伴い、労働者に求められるスキルも変化しています。テクノロジーに代替されうる、より高度でないスキルへの需要は低下しています。同時に、高度な認知スキル(Krueger and Kumar 2004)、社会行動スキル(Cunningham and Villaseñor 2016)、そして適応力の向上に結びつくスキルの組み合わせへの需要は高まっています(Hanushek et al. 2017)。
プラットフォーム型のマーケットプレイスの台頭も、いわゆる「ギグエコノミー」を通じて、人々の働き方や労働条件を変えています。個人や企業は、オンラインプラットフォームで商品やサービスを取引するために、ブロードバンド接続があれば十分です。この「大規模でも人員を要しない」形態は、工業化された国や工業地域に住んでいない何百万人もの人々に経済的機会をもたらします(Brynjolfsson et al. 2008)。
とはいえ、ギグエコノミーで働く人は、労働力全体に占める割合としては依然少数です。データは乏しく、存在する場合でも、その割合は低い水準にとどまっています。ドイツとオランダのデータによると、これらの国でギグエコノミーに従事している労働力はわずか0.4%です。報告書は、世界のフリーランサー人口は約8,400万人で、世界の労働力35億人の3%未満と推計しています。フリーランサーとして数えられる人が、通常の給与を得る仕事にも就いている場合があります。たとえば米国では、フリーランサー5,730万人の3分の2超が従来型の仕事も持ち、収入を補うためにフリーランスの仕事をしています(Upwork 2017)。最も妥当な推計では、世界全体で、労働力人口の0.5%未満がギグエコノミーに参加しています。
こうした仕事の性質の変化は先進国でより顕著で、特に欧州と北米では、テクノロジーの導入と普及が進み、労働市場もより発達しています。これに伴い、こうした地域ではギグエコノミーの拡大に警戒の声が高まっています。ギグエコノミーは、フォーマルな仕事とインフォーマルな仕事の境界を曖昧にするためです。どちらの場合も、労働者は一般に生産性の低い仕事に就いており、雇用主と従業員の役割や責任について、ほとんどの労働法で明確に定められていません。こうした労働者は、福利厚生を利用できないことがよくあります。年金も、医療保険や失業保険制度もなく、長期雇用契約に基づく労働者に提供される保護も受けられません。
労働者が将来の労働市場に適応できるよう、政府は生涯学習への投資を拡大し、その質も高める必要があります。幼児期の発達プログラムや学校教育から、高等教育、成人向け学習プログラムまでが対象です。しかし、社会保障制度を見直すことも同じく重要です。
社会保険制度や、最低賃金や退職手当などを定める規制による保護は、今もなお、正式な賃金雇用契約を最も一般的な根拠としています。ドイツのオットー・フォン・ビスマルク首相は、賃金に課す専用税を財源として、フォーマルセクターの労働者に給付を行う社会保険の創始者とされています。この制度は、安定した賃金雇用、雇用主と従業員の関係の明確な定義、そして定められた退職年齢を前提としています。しかし、仕事の性質の変化がこうした従来の規範を揺るがすなかで、この拠出型の仕組みは時代遅れになりつつあります。テクノロジーの進展により、労働者の給付を雇用主に求める形から、国に福祉給付を直接求める形へと需要が移っています。
拡大する労働市場のリスクから人々を守るため、直接的な社会扶助制度も見直す必要があります。現金給付が、現在および将来の世代の健康と教育にプラスの貢献をすることは、疑う余地がありません。現金給付はストレスや抑うつを軽減し、思考の余裕を広げ、親がより積極的に子育てに関わることを促します。これらはいずれも、より幸福で生産性の高い世帯につながります。しかし、社会扶助の利用率は一般に低いままです。EUでは、社会給付のうち請求されているのは約60%にすぎません(Eurofound 2015)。給付に関する情報不足、給付を受けることへの偏見、受給に必要な官僚的手続きが障壁となっています。
「ユニバーサル・ベーシックインカム」は流行の解決策ですが、実際にどのように機能するかについて、世界はほとんど何も分かっていません。研究によると、財政への影響は大きいと考えられます。貧困ギャップの平均水準に設定した成人向けユニバーサル・ベーシックインカムの費用は、低所得国ではGDPの9.6%、高中所得国では3.5%に上ります(図3)。欧州4か国を対象としたシミュレーションでは、既存の現金給付制度と同水準に設定した場合、ユニバーサル・ベーシックインカムの費用は、フィンランドでGDPの13.8%、フランスで10.1%、英国で8.9%、イタリアで3.3%となります(Browne and Immervoll 2017)。いずれの国でも、既存の手当を廃止するだけでは、ユニバーサル・ベーシックインカムの費用を相殺できない場合がありました。必要な現金を確保するには、ほかの施策を削減するか、増税する必要があります。
図3 国の所得水準が低いほど、ユニバーサル・ベーシックインカムの費用は増える


