経済学におけるジェンダー格差は拡大している――その是正が必要な理由

An office pictured with the sun bouncing off the windows.
Northern European countries, which have achieved high levels of female representation at university as a whole, perform rather poorly and have a gender gap in graduation rates from economics undergraduate degrees.Image: Unsplash/ ActionVance
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  • 大学の学位取得を目指す割合は男性より女性のほうが高いにもかかわらず、経済学を専攻して卒業する女性の割合は、過去20年間で低下または横ばいとなっている。

  • 学部の経済学課程で女性の代表性が不足すると、気候変動など差し迫った課題に対する政策提言が偏る可能性がある。

  • 経済学は、社会経済的地位の低い学生やその他のマイノリティの間でも、人気が低下している

過去20年間にわたり、さまざまな国で経済学を専攻して卒業する女性の割合は低下または横ばいとなっている。米国では、Lundberg and Stearns(2019)によると、1998年から2017年まで、経済学専攻の上級生に占める女性の割合は30%から35%の間で推移した。私たちの最近の論文(Megalokonomou et al. 2021)では、2013~2018年の欧州諸国において、経済学の学部学生に占める女性の割合は平均38%だったことを示している。

Eurostatの、2014~2018年の卒業者総数を性別、学位、国別に示した詳細なデータを用いて、欧州各国における経済学の学部課程での女性の過少代表の違いを検証する。対象期間の大半についてデータが統一的に利用できる25か国1に焦点を当てる。

近年、大学の学位取得を目指す割合は男性より女性のほうが高いため、特定分野に在籍する女性の割合を、同じ国で大学を卒業する女性全体の割合と比較した国内の換算率を用いる(Avilova and Goldin 2018)。この換算率により、欧州の多くの国で大学に通う女性が男性より多いというだけで、特定分野で女性が過剰に代表されているように見える可能性を除外できる。

Eurostatデータセットの国際比較分析から、興味深い地理的パターンが明らかになった。東欧のいくつかの国では、大学卒業率の男女差を考慮しても、経済学を専攻して卒業する女性の割合が男性より高い(換算率が1を超える)。一方、大学全体で女性の比率が高い北欧諸国では成績が比較的振るわず、経済学の学部課程の卒業率に男女格差がある。

図1 欧州における経済学卒業者の女性対男性換算率、2015~2018年

東欧諸国では、経済学を専攻して卒業する女性の割合が男性より高いImage: VoxEU

注:女性数と男性数の比率をW/Mで表す。経済学卒業者のW/M換算率は、経済学を専攻して卒業する人のW/Mを、大学を卒業する人のW/Mで割って求める。この換算率は、大学全体の学生数が男女同数だった場合の女性対男性の比率を示す。

次に、経済学を最も近い代替分野である経営学、および歴史的に女性の過少代表がさらに顕著な学位分野群であるSTEMと比較する。具体的には、2013~2018年の対象国について、経済学、STEM、経営学の換算率の加重平均2(各国・各年の卒業者数で加重)を、大学卒業者全体の女性対男性比と比較する。

図2は、米国のデータと同様に、2013~2018年について次のことを示している。

  • 経済学における女性対男性の全体換算率は、時とともに横ばいまたは低下し、平均で約0.6となっている(英国を除く)。

  • 経済学とは異なり、最も近い代替分野である経営学の換算率は1.1であり、大学全体の男女比を調整すると、男性より多くの女性が卒業していることを示す。さらに、

  • STEMの平均換算率は0.35で経済学より低いが、対象期間中に緩やかな上昇を示している。

図2 欧州の経済学、STEM、経営学の卒業者における換算率

経済学における女性対男性の全体換算率は、時とともに横ばいまたは低下し、平均で約0.6となっている(英国を除く)Image: VoxEU

注:女性数と男性数の比率をW/Mで表す。たとえば経済学卒業者のW/M換算率は、経済学を専攻して卒業する人のW/Mを、大学を卒業する人のW/Mで割って求める。この換算率は、大学全体の学生数が男女同数だった場合の女性対男性の比率を示す。

学術職のキャリア段階が上がるにつれて、男女の不均衡は深刻になる(Hanspach et al. 2021)。最近の研究によると、米国では、論文数、被引用数、研究助成金を考慮しても、女性経済学者が准教授になる可能性は男性より15%低い(Auriol et al. 2019)。著者らは、統計学、物理科学、工学では同様の男女格差は見られないとしている。

欧州でも状況は大きく変わらない。この研究によると、研究職の初級ポストでは女性が40%を超えるが、正教授の段階では女性の割合は22%まで低下する。オーストラリアでは、Economic Society of Australiaがまとめたデータ(Cassells et al. 2021)によると、2016年に経済学教授に占める女性の割合はわずか12%だった。

経済学で過少代表となっているのは女性だけではない。社会経済的地位の低い学生やその他のマイノリティの間でも、経済学の人気は低下している。たとえばオーストラリアでは、高校で経済学を学ぶ、経済的に困窮した学生または地方出身の学生(大都市圏以外)の割合は、過去30年間で半減した(Reserve Bank of Australia 2020)。

女性経済学者が増えると、変化は生まれるのか?

経済学は、客観的な数学とデータ分析を用いる学問であり、ジェンダーは関係ないとされている。しかし、経済学者が検討する課題の選び方や政策提言において、女性は変化をもたらしうる。

たとえば、経済全体の行動やパフォーマンスを研究するマクロ経済学の分野では、男性が多数を占める。女性は、労働市場、健康、教育の経済学などの分野で専門家になる傾向がより強い(Chari and Goldsmith-Pinkham 2017)。

こうした専門分野における男女差は、学部段階ですでに現れる、分野ごとの学業成績の違いに起因する可能性がある(Beneito et al. 2021)。特に、マクロ経済学の授業では男子学生の成績が女子学生を上回る一方、消費者、政府、企業の個々の意思決定をより重視するミクロ経済学では逆の傾向が見られる。

政策提言にも、視点の男女差が表れている。2014年に欧州の大学に所属する経済学者1,058人を対象に行われた調査では、1を「強く賛成」、5を「強く反対」とする尺度で、女性と男性の見解の平均差は意見尺度でほぼ2ポイントだった(May et al. 2018)。女性経済学者は、政府の介入や環境規制を支持し、不平等を懸念する傾向がより強かった。

同様に、2018年に米国の経済学者を対象に行われた調査では、女性経済学者は、所得をより平等に分配すべきという意見に賛成する可能性が18%高く、政策が環境の質より経済成長を過度に優先しているという意見に賛成する可能性が16%高かった(May et al. 2014)。

なぜこの問題を重視すべきなのか?

経済学は、ビジネスから政府、医療、金融まで、幅広い職業や産業で大きな存在感を持つ。さらに重要なのは、市民や消費者としての私たち全員に影響する意思決定を担う人々の間にも広く浸透していることだ。したがって、女性経済学者が意思決定に関わることで、前述の米国や欧州の研究が示すように、政策の設計に影響を与えうる。

さらに、女性経済学者は、経済をめぐる議論に影響を与える革新的な視点をもたらすことができる。たとえば、Esther Duflo、Stephanie Kelton、Mariana Mazzucato、Carlota Perez、Kate Raworthは、「価値」「負債」「成長」「GDP」といった経済学の概念に関する従来の理解に疑問を投げかけ、再定義することで、経済学に変革をもたらしている。

女性経済学者の代表性が高まれば、気候変動などの差し迫った課題に対して、より均衡の取れた政策提言につながる可能性がある。環境政策に関する経済学者の見解はジェンダーによって異なる(May et al. 2021)。特に女性は、男性と比べて、環境への介入や保護をより支持し、社会的・環境的な影響に敏感で、環境保護のための行動を支持する傾向が強い。

COVID-19によって労働力におけるジェンダー格差が拡大したにもかかわらず、219か国で実施されたCOVID-19関連の財政、社会保障、労働市場対策2,280件のうち、女性の経済的安定を対象としたものはわずか13%だった(UNDP 2021)。女性経済学者がより多く政策立案者や意思決定委員会に助言していれば、女性にとって状況が改善していた可能性がある。

ジェンダーバランスの取れた職業にするには?

能力評価における無意識の偏見などの要因が、経済学界における女性の代表性の向上が停滞している一因となっている(Lundberg and Stearns 2019)。

2019年にオーストラリアのニューサウスウェールズ州で10~12年生の高校生4,698人を対象に行われた調査では、女性や社会経済的地位の低い家庭の学生は、自信が低いことが示された(Reserve Bank of Australia 2020)。両グループとも、「経済学で良い成績を取れると思う」「経済学でどれほどの力を発揮できるか、はっきり分かっている」と感じる傾向が低かった。

ギリシャの研究では、教師の偏見(男子生徒をより優遇する行動)が強まると、大学入試における男子生徒の成績にはプラス、女子生徒の成績にはマイナスの影響が生じることが示されている(Lavy and Megalokonomou 2019)。このことは、高校における教師の偏見に対処すれば、女子学生の経済学の成績を高め、高賃金の職業につながる高収益の大学課程への進学を促せる可能性を示唆している。

最後に、ロールモデルも変化をもたらしうる。米国では、同じ大学で経済学を専攻した、成功を収めた魅力的な女性と接する機会のあった女子大学生は、経済学を専攻する可能性がほぼ2倍高く、労働市場でより高い収入を得ている(Porter and Serra 2020)。

参考文献

Auriol, E, Friebel G, and S Wilhelm(2019)、「欧州経済学界の女性」、VoxEU.org、11月19日。

Avilova, T, and C Goldin(2018)、「経済学にUWEができることは何か?」、 AEA Papers and Proceedings 108: 186-90。

Beneito, P, J E Boscá, J Ferri and M García(2021)、「経済学の各分野におけるジェンダー不均衡:それはいつ始まるのか?」、Journal of Human Capital 15(3)。

Cassells, R, L Risse, D Wood and D Yengin(2021)、「経済学における多様性と包摂の推進:Australian Women in Economics Networkによるエビデンスの実践への活用」、2021年に開催された米国連邦準備制度理事会の「経済学、金融、中央銀行における多様性と包摂」会議で発表。

Chari, A, and P Goldsmith-Pinkham(2017)、「経済学におけるジェンダーの代表性の分野別・時系列の推移:NBER夏季研究所のエビデンス」、NBERワーキングペーパー w23953。

Hanspach, P, V Sondergeld and J Palka(2021)、「経済学界の上級職に就く女性は少ない」、VoxEU.org、8月17日。

Lavy, V, and R Megalokonomou(2019)、「教師の採点における偏見の持続性と長期的な結果への影響:大学入試と専攻分野の選択」、NBERワーキングペーパー 26021。

Lundberg, S, and J Stearns(2019)、「経済学界の女性:進展の停滞」、Journal of Economic Perspectives 33(1): 3-22。

May, A M, M G McGarvey and D Kucera(2018)、「ジェンダーと欧州の経済政策:現代の経済政策に関する欧州の経済学者の見解調査」、Kyklos 71(1): 162-83。

May, A M, M G McGarvey, C R Gustafson and T Mieno(2021)、「ジェンダー、環境問題と政策:男性・女性経済学者の見解の検討」、Ecological Economics 182: 106877。

May, A M, M G McGarvey and R Whaples(2014)、「男性と女性の経済学者の意見の相違は、せいぜいわずかなものなのか?:AEA会員と経済学・経済政策に関する見解の調査」、Contemporary Economic Policy 32(1): 111-32。

Megalokonomou, R, M Vidal-Fernandez and D Yengin(2021)、「欧州の経済学系学位課程における女性の過少代表:STEMおよび経営学との比較」、IZA Policy Paper 175。

Porter, C, and D Serra(2020)、「専攻選択におけるジェンダー差:女性のロールモデルの重要性」、 American Economic Journal: Applied Economics 12(3): 226-54。

Reserve Bank of Australia(2020)、「なぜ経済学を学ぶのか(あるいは学ばないのか)?高校生を対象とした調査」。

UNDP - United Nations Development Programme(2021)、「COVID-19対策本部に女性が不在であればジェンダー格差が続くとUNDPとUN Womenが指摘」、国連報告書、3月22日。

注記

1 このグループには、経済学の学部課程の規模が十分に大きく(毎年少なくとも50人が卒業)、Eurostatを通じて過去4年間のうち少なくとも3年間について、ISCEDの分野別詳細データを報告している国が含まれる。

2 女性数と男性数の比率をW/Mで表す。経済学卒業者のW/M換算率は、経済学を専攻して卒業する人のW/Mを、大学を卒業する人のW/Mで割って求める。この換算率は、大学全体の学生数が男女同数だった場合の女性対男性の比率を示す。

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