政府は債務を再編しなければならないことがある。そうしなければ、国の経済的・政治的安定が脅かされるおそれがある。しかし、ソブリン債務不履行を解決するための国際的な法の支配が存在しないため、世界はこうした債務再編に本来よりも高い代償を払っている。その結果、不必要な対立や、問題が生じた際の対応にかかる大きな遅れと費用を特徴とする、機能不全のソブリン債市場が生まれている。
このことは、何度も繰り返し目の当たりにしている。アルゼンチンでは、当局が少数の「投資家」(いわゆるハゲタカファンド)と争ったことで、圧倒的多数の債権者が自発的に合意していた債務再編全体が危機にさらされた。ギリシャでは、一時的な「支援」プログラムの「救済」資金の大半が既存債権者への支払いに充てられる一方、同国は緊縮政策を強いられ、その政策はGDPの25%減少に大きく寄与し、国民の暮らしを悪化させた。ウクライナでは、ソブリン債務危機がもたらしうる政治的影響は計り知れない。
したがって、債務を持続可能な水準まで減らすためにソブリン債務再編をどう管理するかという問題は、かつてないほど切迫している。現行制度は、市場の「美徳」を過度に信頼している。紛争は通常、公正な解決を保証する規則に基づいて処理されるのではなく、対等でない者同士の交渉によって解決され、富と権力を持つ側がしばしば他者に自らの意向を押しつける。その結果は概して不公平であるだけでなく、非効率でもある。
この制度はうまく機能していると主張する人々は、アルゼンチンのような事例を例外として扱う。大半の場合、制度はうまく機能していると彼らは言う。もちろん、彼らが言いたいのは、弱い立場の国々はたいてい屈服するということだ。しかし、その国民が払う代償は何だろうか。債務再編はどれほど機能しているのか。その国は持続可能な債務経路に乗せられたのか。現状維持を擁護する人々がこうした問いを投げかけないため、債務危機の後にまた別の危機が続くことがあまりにも多い。
2012年のギリシャの債務再編はその好例だ。同国は金融市場の「ルール」に従い、迅速に債務再編を完了させた。しかし、その合意は不適切で、経済の回復には役立たなかった。3年後、ギリシャは新たな債務再編を切実に必要としている。
債務危機に陥った債務者には再出発が必要だ。過度な制裁は、債務者が回復できず、債権者も回復によって可能となる返済能力の拡大から利益を得られない、双方に損失をもたらす状況を招く。
債務再編に関する法の支配がないと、再出発が遅れ、混乱につながりかねない。だからこそ、国内債務の再編を市場の力に委ねる政府はない。どの政府も、「契約上の救済措置」だけでは不十分だと結論づけている。その代わり、債権者と債務者の交渉に基本ルールを設け、効率性と公正性を促進するために、破産法を制定している。
複数の法域にまたがる問題、明示的な請求権者だけでなく暗黙の請求権者の存在、請求権者が執行できる資産の定義が曖昧であることなどに悩まされるソブリン債務再編は、国内の破産手続き以上に複雑だ。だからこそ、米財務省を含む一部の人々が、国際的な法の支配は不要だと主張するのを、私たちは信じがたいと感じる。
確かに、包括的な国際破産法典を制定するのは不可能かもしれない。しかし、多くの論点について合意に達することはできる。たとえば、新たな枠組みには、債務再編の実施中は訴訟手続きを停止する条項を盛り込み、ハゲタカファンドによる妨害行為の余地を狭めるべきだ。
また、延滞中の債務者への融資に関する規定も盛り込むべきだ。債務再編のさなかにある国に信用を供与する意思のある貸し手には、優先的な取り扱いが与えられる。そうすれば、そうした貸し手は、各国が最も必要とする時に新たな資金を提供する動機を得る。
いかなる国も基本的権利を放棄できないという合意も必要だ。人が自らを奴隷として売ることができないのと同様、主権免除を自発的に放棄することはできない。また、ある民主的政府が後継政府を拘束できる範囲にも制限を設けるべきだ。
これは、金融市場が近視眼的な政治家を誘導して、現在の予算制約を緩めさせたり、ウクライナの崩壊したヤヌコビッチ政権のような、あからさまに腐敗した政府に融資させたりする傾向があり、その代償を将来世代が負うことになるため、特に重要だ。こうした制約があれば、融資に際してより十分なデューデリジェンスを促し、ソブリン債市場の機能を改善できる。
こうした要素を含む「ソフトロー」の枠組みを、債務再編プロセスの仲介者兼監督者として機能する監督委員会を通じて実施すれば、今日の非効率や不公平の一部を解消できるだろう。しかし、この枠組みを合意に基づくものにするには、その実施を、市場の一方または他方と過度に結びついた機関に委ねるべきではない。
つまり、ソブリン債務再編の規制を国際通貨基金(IMF)に委ねることはできない。IMFは債権者との結びつきが強すぎるうえ、自らも債権者だからだ。利益相反の可能性を最小限に抑えるため、この枠組みは、より代表性が高く、この問題で主導的役割を担っている国連、あるいは、国際通貨・金融システムの改革に関する2009年のスティグリッツ報告書ですでに提案されているような、新たな世界的機関によって実施できる。
欧州の危機は、ソブリン債務危機を解決する国際的な法の支配がないために債権者と債務者の双方が被る大きなコストを示す、最新の例にすぎない。こうした危機は今後も起こり続ける。グローバル化をすべての国にとって機能するものにするには、ソブリン融資のルールを変えなければならない。私たちが提案する控えめな改革は、その出発点として適切だ。
本稿は プロジェクト・シンジケートとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが本稿の見解を支持することを意味するものではありません。
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著者:経済学のノーベル賞受賞者で、コロンビア大学教授のジョセフ・E・スティグリッツは、ビル・クリントン大統領の経済諮問委員会委員長を務め、世界銀行の上級副総裁兼チーフエコノミストを務めた。コロンビア大学ビジネススクールの経済・金融学部で博士研究員を務めるマーティン・グスマンは、コロンビア大学政策対話イニシアチブの債務再編・ソブリン破産タスクフォースの共同議長である。
画像:2014年11月16日、スペイン南部アンダルシア州の州都セビリア近郊で、米国の1ドル紙幣が風に舞う様子を捉えた写真イラスト。ロイター/マルセロ・デル・ポソ。

