なぜ米国にはTPPをめぐる公開討論が必要なのか

なぜ米国にはTPPをめぐる公開討論が必要なのか
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米国の貿易をめぐる議論は、残念な方向へ進んでいる。個々の論点を詳しく検討し、その是非を議論する代わりに、バラク・オバマ大統領の政権は、あらゆる貿易協定の交渉にファストトラック手続き(貿易促進権限、TPAとも呼ばれる)が必要だと強調する道を選んだ。政権はこの争いに勝つかもしれないが、その結果、実質的な損害が生じるおそれがある。

現在の争点は、複雑な12カ国間の自由貿易協定である環太平洋パートナーシップ(TPP)の具体的な内容だ。残念ながら、TPPの条項は秘密のままであり、一般の人々が閲覧したり議論したりすることはできない。(連邦議会議員は制限付きの条件下で技術文書を読むことができるが、その内容を詳しく説明することは認められていない。)

TPP協定のどの側面についてであれ、正当な懸念を示す人は、すぐに「保護主義者」のレッテルを貼られる。ホワイトハウスの主張はこうだ。TPPは米国の輸出障壁を引き下げ、それによって雇用と賃金を増やす。それ以外のことはすべて、この見方では、注意をそらすものにすぎない。

実際、TPPが輸出にもたらすものはほとんどない。理由は明白だ。米国はすでに、参加国のほぼすべてと標準的な関税引き下げ協定を結んでいる。
カナダ、メキシコ、米国間の貿易にかかる関税は、ほぼすべて長年にわたり撤廃されている。これは北米自由貿易協定の効果だった。オーストラリアおよびシンガポールとの自由貿易協定でも、米国製品がそれらの国で販売される際の関税は、ほぼすべて撤廃された。米国からの製品は1月1日以降、関税なしでチリに入っており、ペルーが課す関税の大半もすでに段階的に撤廃されている。

TPPによって、人口50万人未満のブルネイ・ダルサラームと、500万人未満のニュージーランドとの自由貿易協定が成立することになる。これらの国への輸出を促すことは確かに望ましいが、米国への経済的影響は、誤差の範囲を超えない可能性が高い。

残るのは、論点がより複雑な3つの大国だ。日本(人口約1億2,500万人)、マレーシア(約3,000万人)、ベトナム(9,000万人)である。
日本は、米国産の食肉を含む数百品目の農産物について、輸入関税の引き下げに抵抗している。さらに、たとえば米国製自動車の日本市場への輸出は、非関税障壁によって長らく妨げられてきた。TPPが自動車関連製品について日本市場を実際にどの程度開放するのかは、依然として不明だ。

また日本には、輸出を促進し輸入を抑えるために円相場を低く抑える通貨介入を行ってきた歴史があり、なかでも米国に重大な悪影響を及ぼしてきた。現在、日本はそのような通貨操作を行っていない。TPPは、日本にその慣行をやめるとの約束を求める好機となる。残念ながら、オバマ政権はこの道を進むことを拒んでいる。政権にとって、通貨操作は議題の対象外だ。

マレーシアについては、輸出部門における強制労働に関する重要な問題が明らかになっており、TPP協定に署名する前に、労働基準を完全に順守すべきだ。楽観できる材料もいくつかあるが、貿易協定の発効後に労働基準を改善するという約束は、ほとんど実行されない。

ベトナムでは、国有企業に与えられている多額の補助金を、測定可能な市場ベースの仕組みに移行させることが、妥当な目標となる。労働者の権利も重要な問題だ。TPP交渉はほとんど進展していないようだが、ここでも、重要な詳細や合意の可能性は極めて機密扱いのままだ。

貿易に加えて、TPPには投資に関する重要な条項も含まれており、そのなかで最も目立つのは、特許などの知的財産権に関するものだ。オバマ大統領はTPPを史上最も進歩的な貿易協定だと述べているが、下院歳入委員会の筆頭民主党議員で、文書に全面的にアクセスできるサンダー・レビンは異を唱える。たとえば、貧困国で低価格の医薬品を入手することが制限されると述べている。ノーベル平和賞を受賞した人道支援団体、国境なき医師団も同意見だ。(これらの問題や関連事項は、私も参加した最近の連邦議会議事堂での催しで取り上げられた。)

またTPPは、外国投資家に特別な地位を与え、受入国の規制をめぐって金銭的賠償を求める訴訟を起こせるようにする。国内企業と異なる保護を外国企業に与える理由は謎だ。外国人だけを対象に、通常の裁判制度の外に準司法的な手続きを設ければ、さまざまな問題が起こりうる。

レビンが最近、詳細で説得力のある演説で論じたように、米国ではTPP協定のこうした側面について、全面的かつ公開の議論を行うべきだ。盛り込まれる条項は米国と貿易相手国に重大な影響を及ぼす可能性があるため、慎重で公開された審議が必要だ。残念ながら、オバマ政権は実質的な論点についての公開討論を避け、合意されるTPPの内容が何であれ、ファストトラックのTPA手続きを使うことだけを主張している。

それは誤りだ。政権が貿易協定を成立させ、それが労働者の権利、医薬品へのアクセス、国の補助金、あるいはその他の点で失敗したら、それは貿易、米国の外国のパートナー、または米国経済にとって、どのような助けになるのだろうか。

本記事は、以下との協力により掲載されています: Project Syndicate。掲載は、世界経済フォーラムが本記事の見解を支持することを意味しません。

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著者:サイモン・ジョンソン。IMFの元チーフエコノミストで、MITスローンの教授、ピーターソン国際経済研究所の上級研究員であり、主要な経済学ブログ「The Baseline Scenario」の共同創設者。

画像:2009年3月6日、ブリティッシュコロンビア州バンクーバーのバラード入り江を出港するコンテナ船。ロイター/Andy Clark。

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