2007~2009年の大不況からの回復が遅々として進まないことを受け、先進国のGDPの長期成長率は、過去数十年間の平均を下回っているのではないかという疑問が生じている。この問題は、Robert GordonとLawrence Summersがよく知られた形で提起した(Teulings and Baldwin 2014)。
実際、長期成長率の低下を示す証拠は蓄積しつつある。広く用いられている構造変化検定を適用すると、米国のGDP成長率の平均値が変化したことを示す証拠が積み上がり、最近では5%水準で有意になったことが示唆される(図1)。Bai and Perron(1998)の検定を用いれば、変化が起きた可能性が最も高い時期を特定でき、その時期は2000年代初頭と判明した。
図1. Nyblom検定およびBai-Perron検定のリアルタイム検定統計量

注:実線の灰色と青色の線は、新たな国民経済計算データの各版が公表されるたびに、Nyblom(1989)およびBai and Perron(1998)の検定を逐次リアルタイムで再適用して得られた検定統計量の値を示す。いずれの場合も、標本は1960年に始まり、2000年初頭以降に公表される新しいデータごとに検定を再適用している。点線は検定の5%臨界値、破線は10%臨界値を示す。
長期成長率の予測は重要である。
Orphanides(2003)は、経済の長期成長に関するリアルタイムでの誤認が、金融政策上の誤りに大きな影響を及ぼし得ることを強調した。
産出量の長期成長率に関する前提をわずかに変えるだけでも、財政の持続可能性の算定に大きな影響が及ぶ可能性がある。
これらの点は、現在の長期成長率を適時に、かつ正確に評価することの重要性を示している。
この点で図1は、従来型の検定をリアルタイムで適用する戦略が、リアルタイムの意思決定には適切でないことも示している。実際、GDP成長率の平均値の変化は、大幅に遅れて検出されることがある。たとえば、Bai and Perron(1998)の検定では、2000年代初頭の構造変化を5%の有意水準で検出できるのは2014年夏まで待たねばならず、ほぼ15年の遅れが生じる。
リアルタイムで長期成長を追跡する
Evans(2005)およびGiannone et al.(2008)による画期的な研究以来、動学的因子モデル(DFM)はGDPを追跡する標準的な手法となっている。これらのモデルは大量の情報を取り込み、高頻度データを活用して、経済活動の短期的な動向を推定できる。[1]
最近の論文(Antolin-Diaz et al. 2015)では、実質産出成長率の平均と分散が緩やかに変化することを許容することで、この枠組みを拡張した。多数の経済活動指標を取り込むことで、動学的因子モデルはリアルタイムの環境下で、マクロ経済データにおける循環的な共動を精密に推定できる。拡張モデルはこの能力を活用し、GDPの長期成長率の変化をリアルタイムで追跡して、景気循環による変化と区別する。
米国のデータに適用すると、このモデルは、GDPの長期成長率が2000年代に大きく低下し、現在は約2.25%で、戦後平均をほぼ1パーセントポイント下回ると結論づける。結果は、明確な構造変化よりも緩やかな低下と整合的である(図2、パネルa)。
図2. 米国の長期成長率推定値:1960~2014年(年率成長率%)
(a)長期成長率の事後推定値とCBOの潜在成長率推定値

(b)長期成長率のフィルター推定値とSPF調査

注:パネル(a)は、長期GDP成長率の事後中央値(赤の実線)と、68%および90%の事後信用区間(青の破線)を示す。灰色の丸印はCBOによる潜在成長率の推定値である。網掛け部分はNBERの景気後退期を示す。パネル(b)では、灰色の実線が、2014年半ば時点で入手可能な国民経済計算データの版を用いた長期GDP成長率のフィルター推定値を示す。青色のひし形は、今後10年間の平均GDP成長率について、Livingston Survey of Professional Forecastersがリアルタイムで示した平均予測を表す。
改訂データを用いた標本内の結果は、政策担当者がリアルタイムで直面する不確実性を過小評価することが多いため、リアルタイムのデータ各版を使って分析を繰り返す。2011年夏までには、長期成長率の大幅な低下が緩慢な回復の背景にあるとモデルは結論づけていたはずであり、構造変化検定が決定的な結果を示すよりかなり早かった。さらに、長期成長率の変動を明示的に考慮すると、米国GDPの点予測と密度予測の双方における「ナウキャスト」の精度が大幅に向上する。
長期成長率の減速の背景にあるものは何か?
次に、GDP成長率の長期的な変動をもたらす要因を切り分けるため、モデルを拡張する。この枠組みでは、総労働時間に関する情報を加えることで、長期成長率を労働生産性と労働投入の要素に分解できる。
この分解分析の結果は、米国のGDP成長率が最近弱まった主な要因は労働生産性の減速であることを示しており、Fernald(2014)の分析と一致する。
図3. 米国の長期産出成長率の分解

注:図は、長期GDP成長率の事後中央値(赤)と、68%および90%の事後信用区間(青の破線)、ならびに長期労働生産性成長率と長期総労働時間成長率それぞれの事後中央値(青の実線と灰色の破線)を示す。
モデルを他の先進国にも適用すると、労働生産性の弱まりが世界的な現象であることを示す証拠が得られる。
図4. その他の先進国における分解
(a)長期労働生産性

(b)長期労働投入

注:パネル(a)は先進国全体の長期労働生産性の事後中央値を示す。パネル(b)は、対応する長期総労働時間の推定値を示す。両パネルの「ユーロ圏」は、ドイツ、イタリア、フランスの加重平均を表す。
さらに、この分解分析の結果は、動学的因子モデルを用いて労働時間と産出量の景気循環変動を取り除いた後、2000年代初頭以降に先進国で観察されるGDPの長期成長率の低下は、モデルによれば長期生産性成長率の低下だけで全て説明できることを示している。最後に、G7諸国では長期生産性成長率が国ごとの差を縮める傾向にある点も興味深い。最新の推定値は、0.5~1%という低い成長率への収束を示唆している。[2]
結論
最新の計量経済学的手法を用いて、近年の世界的な成長の弱さの主因は労働生産性の減速であることを示す証拠を提示する。これは、米国以外の国についてもFernald(2014)の見方を裏付ける。
労働投入と労働生産性の長期的な変動はデータの重要な特徴であり、動学的因子モデルの枠組みで適切にモデル化できることを示した。私たちの計量経済学的枠組みは、経済の根本的な構造について特定の立場を取らない。原理的には、こうした低頻度の変動は需要要因と供給要因の双方から影響を受ける可能性がある。この二つを切り分けることは、今後の研究に有望な道筋を示す。
本記事は、 Vox EUとの共同で掲載している。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しない。
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著者:Juan Antolin-DiazはFulcrum Asset Managementのマクロ経済学者。Thomas DrechselはLSEの博士課程学生。Ivan Petrellaはイングランド銀行のシニア・リサーチ・エコノミスト、ロンドン大学バークベック校の講師、CEPRのアフィリエイトである。
画像:東京の証券会社の外にある株価掲示板を見る男性。REUTERS/Toru Hanai



