2014年初め以降、中国の中央銀行である中国人民銀行(PBC)は、 金融政策のスタンスを緩和するため、政策手段をいくつも用いてきた。基準銀行金利の引き下げ、住宅ローン条件の緩和、時代遅れの貸出・預金比率規制の見直し、一部の預金準備率の選択的引き下げ、各種の新たなファシリティを通じた銀行システムへの流動性供給などである。こうした一連の措置により、2014年の大半にわたり、10年物国債利回りと短期銀行間金利はいずれも低下した(図参照)。
しかし、11月の利下げを受けて、中国の10年物国債利回りは一時、3.6%から3.8%へ上昇した(図参照)。一方、銀行間金利は変動を続けた。さらに不可解なことに、昨年11月の利下げ直後、 PBCはウェブサイト上の声明で 、同行幹部も相次いで、この政策措置が金融政策スタンスの転換を意味するものではないと繰り返し否定した。今日、先進国の多くの中央銀行は、政策金利の将来の見通しを公表することで、「フォワードガイダンス」を用い、金融政策が市場の利回り曲線全体に及ぼす影響を強化・増幅している。これに対し、PBCは、最新の利下げを金融緩和と解釈しないよう市場に警告する、混乱を招く「バックワードガイダンス」を発して、自らの措置の効果を弱めようとしたように見える。
図:中国の国債利回りと株価指数
注:SHCOMPは上海総合株価指数を指す
この不可解な金融緩和と強硬な発言が入り交じる状況を十分に理解するには、おそらく時間がかかるだろう。PBCが、金融の不均衡を悪化させずに経済成長の下振れリスクを和らげたいと考えているのなら、最善の策は、適時かつ節度ある緩和を行う一方で、利回り曲線の長期部分に働きかけるために強い発信をすることだろう。結局のところ、消費と投資の判断にとって最も重要なのはこの部分である。しかし、PBCのこうした「バックワードガイダンス」は、今後さらなる金融緩和が行われるとの期待を打ち消すことを狙っているように見える。結果として利回り曲線が上昇し、中国の金融環境が引き締まる可能性がある。
現時点では、PBCがなぜこのように混乱を招くシグナルを発しているのか、その動機を推測するほかない。ここでは、相互に関連し、網羅的ではないものの、考えられる動機を三つ挙げる。
第一の動機として、利下げが実体経済に恩恵をもたらす前に資産価格バブルを煽ることへの懸念から、PBCが金融刺激策はあったとしても最小限かつ一時的なものだと伝えようとしている可能性がある。この見方では、PBCの「バックワードガイダンス」は、実質的には偽装されたフォワードガイダンスである。PBCが金融安定にどれほどの比重を置いているかは定かでないが、 インフレと成長に置かれる比重の方が大きいことは、かなり確かだ。そして、どちらも明らかに意味のある金融緩和を求めている。また、資産価格経路は金融政策の通常の波及メカニズムの一部であり、住宅市場が弱い状況では特にそうである。ここ数カ月で中国の株価が約50%急騰したこと(図参照)は、PBCにとって正当な懸念となり得る。しかし、上海株式市場の平均評価額は過去および予想利益に対する株価収益率で約10倍と、管理可能な水準に見える。また、株式市場の活況は、難しい債務削減の過程を後押しする可能性もある。
第二の動機は、中国の地方政府債務の高水準に伴うモラルハザードのリスクに対するPBCの懸念かもしれない。地方政府の幹部には、銀行とシャドーバンクの双方から借り入れて自らの肝いりの投資事業に資金を充て、その後始末の難しい債務を後任者に残す強い誘因がある。しかし、こうした懸念は私にはあまり説得力がない。第一に、これは金融政策の方向が引き締めであれ緩和であれ、地方政府の財政規律に関わる問題である。第二に、地方政府にはすでに、より厳しい予算制約が段階的に課されている。これは事実上、相当規模の財政引き締めを意味するため、地方政府の借り入れ減少がもたらし得る景気抑制効果を部分的に相殺する、妥当な金融緩和が必要となる。
第三の動機は、新たな金融政策の枠組みが形成され、金利環境がより自由化するなかで、市場に政策スタンスを適切に伝えることの難しさである。PBCは従来、M2の伸びを主な目標としつつ、貸出金利と預金金利の基準金利も設定していた。近年、PBCは市場金利に影響を及ぼすため、短期流動性オペ(SLO)、常設貸出ファシリティ(SLF)、中期貸出ファシリティ(MLF)、担保付補完貸出(PSL)など、いくつかの新たな政策手段を導入した。PBCは、依然として部分的に規制されている貸出・預金基準金利よりも、こうした市場金利に注目するよう市場を促したいのかもしれない。この考えにはある程度の理はあるが、より緩和的な政策スタンスが明らかに必要とされ、望まれているときに、相反するシグナルを発することを正当化するものではない。
いずれにせよ、私の考えでは、現時点でPBCが取るべき最善の道は、国内金利の低下と安定、そしてより管理色の薄い通貨を目指し、適切で緩和的な金融政策を自信を持って進めることだ。ゼロ金利制約に直面する一部の主要中央銀行では、フォワードガイダンスによって利回り曲線の先々の部分をさらに押し下げられるのと同様に、PBCが明確で確固とした政策シグナルを発すれば、中国の利回り曲線を平坦化し、安定させる助けにもなり得る。それはひいては、経済成長を下支えし、デフレリスクを未然に防ぎ、構造調整を促進し、金融自由化を支えるだろう。最低限、PBCは自らの新たな政策措置が持つシグナル効果を弱めることを避けるべきだ。
この記事は当初、 Bruegel Blog に掲載されたものです。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しません。
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著者:グオナン・マー博士は、Bruegelの客員研究員。
画像:2013年7月4日、上海の浦東金融地区で、上海タワー(右、建設中)、金茂大厦(中央)、上海環球金融中心(左)の近くを男性がエスカレーターで移動している。ロイター/Carlos Barria。


