欧州にとって「責任ある」財政政策とは何か?

欧州にとって「責任ある」財政政策とは何か?
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今日、欧州の財政政策がどのような方向を取るべきかをめぐって、多くの議論がある。一方では、公的債務残高がかつてないほど高く、長期的な財政調整が求められている。他方では、回復の鈍さへの懸念から、財政再建を減速させ、短期的な景気刺激策を講じるべきだとの声がある。こうした考慮事項のバランスを取るための明確な指針は存在しない。また、そのバランスは当然、各国の状況によって異なり得る。

欧州委員会は、投資の拡大および構造改革への新たな取り組みとともに、「財政責任」を成長戦略の主要な柱として採用した(European Commission 2014a)。財政責任とは、現在のジレンマに適切に対処することに関わる。欧州委員会は同時に、加盟国は「赤字と債務の水準を長期的に引き続き管理する必要がある」と強調する一方、財政再建は「成長に配慮した」ものであるべきだとしている。また欧州委員会は、ユーロ圏全体について、2015年の各国予算計画の分析から、おおむね中立的な財政スタンスが導かれると判断した(European Commission 2014b)。さらに、これがユーロ圏全体として適切なバランスを実現するとみなされる一方、各国間の財政政策の配分は最適とはいえないと判断されている。「一部の加盟国にはSGP(安定・成長協定)を順守するため努力を強化することが求められており、[それは]他の国で利用可能な財政余地を活用することによる、一定程度の財政支援を意味する」ためである。

こうした判断は、いくつもの分析上の問いを提起する。

  • 財政責任という概念をどう特徴づけるべきか?

  • 現時点で、ユーロ圏にとっておおむね中立的な財政スタンスが適切だという結論は、裏付けられるだろうか?

  • 地域全体としての評価と、必要な各国別の差別化を、どう整合的に行うべきか?

この議論の理論的背景は、長期停滞の可能性をめぐる議論によって揺さぶられている(Summers 2014)。経済学者は一般に、景気後退時に反循環的な政策手段を講じる余地を確保するためにも、債務を慎重な水準に保つことは賢明な長期目標だと考えてきた。深刻な意味での長期停滞は、この通念を覆す可能性がある(Eggertson and Mehrotra 2014)。望まれる民間投資が貯蓄に対して恒常的(または少なくとも持続的)に不足するなら、恒常的な財政支援によってこれに対処することができ、また、そうすべきだとの議論もある。その結果、公的債務残高が増え続ける可能性はあるが、安全資産を切望する貯蓄者が大勢いるため、資金調達をさほど懸念する必要はない。しかし、低金利が政策に及ぼす影響は、その根本原因によって異なる。慢性的な民間支出不足が一つの説明である一方、供給側の力がますます弱まっているという説明もある(Gordon 2014)。

灰色の現実を進む

モデルは特定のパラダイムに基づく様式化された記述を提示するが、現実には異なるモデルの特徴が組み合わさっている。この「灰色の現実」は重大な意味を持つ。第一に、私たちがどのような世界に生きているのかについて、明白なシグナルを得られる可能性は低い。せいぜい新たな情報を踏まえて、それぞれの「見方」に付与する主観的な妥当性を修正する程度である。しかし、経済の主要な特徴をめぐる根本的な不確実性は残らざるを得ない。これは、供給面と需要面の弱さが相互に作用する現在の欧州の苦境にも当てはまる。

政策の観点から見ると、不確実性は重大な意味を持つが、それが十分に認識されているとは限らない(Aikman et al. 2014)。重要な含意の一つは、頑健な政策戦略が必要だということだ。すなわち、特定の世界の状態において最適な戦略ではなく、妥当と考えられる幅広い世界の状態において、許容できる成果を上げる戦略である。

財政分野では、予算政策の策定をめぐる政治経済上の複雑さによって、頑健な戦略の重要性がさらに高まる。今日、財政政策の運営は、天候が変わる海上で迷った大型タンカーを操舵するようなものだ。さまざまな不確実性を認めながら、進路を保つ必要がある。また、短期と長期をどう整合させるかを深く考える必要もある(Borg 2014)。そのためには、一貫した指針となる「財政コンパス」に目を配ることが有用だ。

Carnot(2014)は、財政の持続可能性とマクロ経済の安定化の均衡を中核に据えた経験則を検討している。財政の持続可能性は、長期的な債務目標を基準とする。各予算期間について、このルールは財政ギャップと経済状況の総合指標との間でバランスを取る財政インパルスを示唆する。この「経験則」は、時間軸と地理的な範囲の両面で一貫している。さらに、欧州の議論にとって極めて重要な点として、国々の集団(例:ユーロ圏)の総体的な財政スタンスと、その集団に参加する各国の双方に対し、一貫した処方を導き出す。

北へ向かうか、南へ向かうか?

現在の財政マップ(図1)が示すように、ユーロ圏全体では、長期的に債務を円滑に削減するために必要な水準と比べ、なおGDP比約2%の財政ギャップが残っている(ただし、このギャップは過去数年ですでに大幅に縮小している)。一方、2009年の大不況ほど深刻ではないものの、経済状況は明らかに低迷したままであり、改善の兆しはある(European Commission 2015)。この平均像の周辺には、各国間で大きな差もある。特にドイツには「財政余地」がある。基礎的財政黒字が、債務を段階的に削減するために必要な水準を上回っているためだ。一方、他の大国には、程度の差はあるものの、かなり大きな財政ギャップがある。

図1。財政マップ:2015年の基礎的財政ギャップと経済状況

注:基礎的財政ギャップ(GDP比)は、長期的な持続可能性の課題を要約する。これは、実際の基礎的財政収支と、債務を緩やかな減少軌道に乗せる水準との差である。マイナスの符号は「財政余地」の存在を示す。経済状況スコアは、需給ギャップとその変化に基づき、景気循環の状況を要約する。スコアがゼロであれば、概ね中立的な状況を示す。詳細はCarnot(2014)を参照。
出典:European Commission winter forecast 2015、著者による計算。

これは現在の予算にどのような指針を示すのだろうか。経験則は、基礎的財政ギャップと景気循環の状況を要約した指標を組み合わせ、望ましい財政スタンスを決定する。テイラー・ルールがインフレ・ギャップと需給ギャップを組み合わせて政策金利を判断するのと同様である。ここで用いる具体的な定式化では、基礎的財政ギャップと経済スコアに等しい重みを与える。

次の結果が得られる(図2参照)。

  • ユーロ圏全体としては、中立に近い財政スタンスを取るべきである。これは、現時点では財政ギャップと経済見通しの寄与がおおむね相殺されることを反映している(これは、このルールの性質としてあらかじめ決まっていた結論では決してない。過去10年間、同じ経験則は状況に応じて、拡張と引き締めの双方を勧告していたはずだ)。

  • 広く共有されている見方を裏付けるように、この全体的なスタンスはユーロ圏内で差別化されるべきである。フランスとスペインでは、緩やかな財政再建が妥当とみられる(基礎的財政ギャップが依然として非常に大きいことを反映する)。イタリアは、比較的小さな財政ギャップと、依然として非常に低迷した経済環境(スペインの勢いがより強いのとは対照的)を踏まえると、その中間に位置する。

  • 一方、この経験則はドイツでの緩やかな財政刺激策とも整合する。強調すべきなのは、これはドイツの状況のみを反映するものであり、「他国のため」に実施するのではなく、主としてドイツの状況を均衡の取れた形で判断した結果として実施すべきだという点である。

図2。2015年の経験則に基づく財政スタンス(GDP比%)

注:望ましい財政スタンスは、Ft = ¼(Pt + St)として決定される。Pは基礎的財政ギャップ、Sは経済スコアである。この経験則では、望ましい財政スタンスへの寄与の可能性に関して、基礎的財政ギャップと経済状況に等しい重みを与える方式を用いる。
出典:European Commission winter forecast 2015、著者による計算。

これらのメッセージは、2015年の予算審査に関する欧州委員会の結論と一致している。実際、経験則として定式化されているように、適切な財政スタンスに関する欧州委員会の勧告は、回復がかなり脆弱であることによる景気循環の状況と、高い債務水準に伴う持続可能性への懸念を考慮している。

回復が力強さを増せば、残る基礎的財政ギャップが解消され、各国の財政状態が債務の安定的な削減に見合う水準に達するまで、経験則はユーロ圏と大半の国々における差別化された財政再建の再開を示すだろう。これは、EUの財政枠組みに沿って、各国の政府債務を長期的に慎重な水準に抑えるべきだという前提を反映している。

結論

不確実性が極めて高い現在の環境では、相反する考慮事項を明示的に認めつつ、責任ある一貫した時間軸の政策運営を導く簡潔な基準が、財政政策をめぐる議論に役立つだろう。分権化された財政政策の調整という追加的課題に直面する欧州では、特にそうである。実際、ECB総裁も強調したように、「ユーロ圏全体として、より成長に配慮した財政スタンスを実現するために、各国の異なる財政スタンス間の連携を強化する必要があり、その余地もある」(Draghi 2014)。

私たちの財政コンパスは、こうした考慮事項を検討するための手段となる。現時点では、ユーロ圏全体としておおむね中立的なスタンスを保ちながら、各国の財政政策を差別化することを示唆している。結果は一部のパラメーターに左右されるものの、示唆に富む。予算計画の評価の一環として欧州委員会が実施した最近の総体的な財政スタンスの判断を、分析面から裏付けている(European Commission 2014b)。加えて、財政政策の構成も考慮する必要がある。財政の変更は、公的支出の質や税制構造を改善する機会となるからだ。

参考文献

Aikman D、M Galesic、G Gigerenzer、S Kapadia、K Katsikopoulos、A Kothiyal、E Murphy、T Neumann(2014)「不確実性を真剣に受け止める:金融規制における単純さと複雑さの比較」、Bank of England Financial stability paper、第28号、5月。

Borg A(2014)「債務の影における財政政策:黒字ケインズ主義は今なお有効」、Akerlof G.、Blanchard O.、Romer D.、J. Stiglitz(編)所収: 私たちは何を学んだのか?危機後のマクロ経済政策、MIT Press、ケンブリッジ(マサチューセッツ州)。

Carnot N(2014)「財政政策の評価:経験則」、European economy economic paper、第526号、8月。

Draghi M(2014)「ユーロ圏の失業」、ジャクソンホールでの年次中央銀行シンポジウムにおける講演、8月22日。

Eggertsson, G B and N R Mehrotra(2014)「長期停滞のモデル」、NBER working paper、第20574号。

European Commission(2014a)「2015年年次成長調査、欧州委員会からのコミュニケーション」、COM(2014) 902、11月28日。

European Commission(2014b)「2015年予算計画案:全体評価、欧州委員会からのコミュニケーション」、COM(2014) 907、11月28日。

European Commission(2015)「European Economic Forecast Winter 2015」、 European Economy、第1号/2015年。

Gordon, R J(2014)「カメの歩み:長期停滞と逆風の出会い」、Teulings, C and R Baldwin(編)所収: 長期停滞:事実、原因、解決策、VoxEU.org eBook。

Summers L H(2014)「新たな『長期停滞』仮説についての考察」、VoxEU.org、2014年10月30日。

本記事は、 VoxEUとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味するものではありません。

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著者:Marco Butiは欧州委員会経済・金融総局の職員である。Nicolas Carnotは欧州委員会経済・金融総局の財政政策アドバイザーである。

画像:ブリュッセルの欧州委員会本部の外に掲げられた欧州連合の旗。REUTERS/Thierry Roge。

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