西アフリカでエボラのパンデミックが発生してから1年以上が経ち、最も大きな被害を受けた国の一つであるリベリアは、 ウイルスの終息が宣言されました 。しかし、当初の世界的な対応は心もとないものでした。感染拡大を抑えるために必要な知識と技術があったにもかかわらず、支援は 当初、動きが鈍く 、効果も十分ではありませんでした。この状況は、パンデミックの歴史から得られる主要な教訓の一つを示しています。すなわち、パンデミックは健康格差の影響を強く受けるということです。
パンデミックとは、 広範囲に拡大し、国境を越える感染症の流行です。新興感染症を懸念する人々にとって、さまざまな点で世界はより安全になっています。科学、とりわけ分子生物学、情報技術、疫学の進歩により、新たな脅威を理解し、追跡し、管理するための前例のない手段が得られています。しかし、世界は同時により危険にもなっています。健康格差や環境の悪化といった要因も、感染症の出現と拡大をますます促しています。その一例が、 ヨーロッパにおける媒介動物由来感染症のリスク増大です。
懸念されるパンデミック
前世紀には、私たちが教訓を引き出せる豊かな経験が蓄積されました。インフルエンザ、HIV/エイズ、SARS、そして今のエボラによるパンデミックを経験してきました。それぞれから、より効果的な予防と制御に役立つ教訓を得られます。たとえば、エボラからは基本的な感染対策の重要性を、エイズからは影響を受ける地域社会と関わることの決定的な重要性を学べます。
ヒトに感染することが知られている病原体は1,400種以上あります。そのほぼすべてが流行を引き起こす可能性があります。また、2002~03年のSARSのように、種の壁を越えて新たなヒトのパンデミックを引き起こし得る動物の病気も文字どおり何百とあります。さらに、まったく新しい病原体を 合成する能力 も高まっています。しかし、個々の病気に焦点を当てるよりも、「パンデミックのシナリオ」(下表参照)について考えるほうが有益な場合が少なくありません。多様なパンデミックも、確立された挙動、起源、拡散能力などの機能的特徴に基づけば、比較的少数のシナリオに分類できます。
パンデミックのシナリオに加えて、深刻度も考慮する必要があります。感染症がもたらす健康への影響は、その病気の性質、とりわけ死亡リスク(症例致死率)に強く左右されます。この点は、2009年のインフルエンザ・パンデミックでも明らかでした。症例致死率は 季節性インフルエンザと同程度 でしたが、より若い年齢層に感染したため、失われた生存年数は増加しました。

具体的なパンデミック疾患またはパンデミックとなる可能性のある疾患の例を示すパンデミックのシナリオ。
マイケル・ベイカー、著者提供
パンデミックへの備え
歴史的な経験から、私たちにはほとんどのパンデミックを制御する科学的知識と技術があることが示唆されます。その手段には、効果的な監視と検査機関、連携した対応能力、効果的で広く利用可能な医療、そして必須のワクチン、医薬品その他の物資へのアクセスが含まれます。科学を使ったパンデミック制御の有効性はSARSで顕著に示され、 各国の公衆衛生機関 が特に重要だったと考えられます。いまだ制御できていない主要なパンデミックはインフルエンザ・パンデミックですが、公衆衛生対策で拡大を遅らせ、質の高い医療サービスで死亡率を下げることは可能です。
私たちにとって最も強力な手段の一つが、 国際保健規則 (IHR)です。SARSの発生と「鳥インフルエンザ」への懸念の高まりを受け、この画期的な協定は2005年、世界保健機関の全193加盟国によって国際法として締結されました。パンデミックなどの脅威に対処するための国際協力の青写真を示しています。重要な特徴の一つは、新興の脅威に対する合意済みのリスク評価手法を含む、効果的な 世界的な公衆衛生監視 のモデルを定めていることです。
しかし、こうした技術の進歩を誰もが利用できるわけではありません。エボラのパンデミックが示したように、必要とするすべての人々に、こうした流行を制御するための基本的な対策を適時かつ効果的に届けることは、いまだにできていません。
さらに必要なことは?
パンデミックのリスクを減らすには、発生時に効果的に対応する能力と、理想的には、そもそも発生を防ぐ能力の両方が必要です。IHRの潜在力が十分に発揮されていないことは明らかです。資源に乏しい多くの国は、この枠組みが示す監視・対応能力をまだ構築できていません。同様に、WHOにも、パンデミックを自力で管理する十分なインフラを持たない資源に乏しい国々の対応を全面的に支援するだけの資源と権限がないようです。
パンデミックのシナリオという考え方は、薬剤耐性の拡大など、注意を要するほかのパンデミックの脅威について、より統合的に考えるきっかけにもなります。このように考え方を統合することには利点があります。異なるパンデミックへの効果的な対応には、一般に非常によく似た能力が求められるためです。
パンデミックの経験から、共通の脅威は、共通の利害、そして願わくば人道的理想への決意を基盤として、国際社会を団結させ得ることが分かります。パンデミック予防に必要な能力構築は、ミレニアム開発目標に記されたような、より広範な開発ニーズとも重なります。
パンデミックの歴史から教訓を理解し、それを生かすことは、健康の公平性と環境の持続可能性を高めるという世界的な課題の解決に役立ちます。たとえば、持続可能な食料生産を支援する方法を見いだせば、野生動物の肉への依存を減らし、健康の公平性と持続可能性の目標を満たすとともに、エボラのような新興人獣共通感染症に対する脆弱性を低減できる可能性があります。こうした開発目標の達成 は容易ではありません。しかし、そこから得られる 健康安全保障の向上は、全体に大きな利益をもたらします。
この記事は当初、 The Conversationに掲載されました。 元の記事をお読みください。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しません。
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著者: マイケル・ベイカー は、 オタゴ大学の公衆衛生学教授です。
画像:ロクパ病院近くで、防護具を準備する医療従事者の姿が鏡に映っている。ロイター/クリストファー・ブラック。

