2015年は、今後数年間にあらゆる産業と社会を変革すると見込まれるモノのインターネット(IoT)にとって、転換点となる年になりつつあります。世界経済はいま、インターネット経済から、最も適切には「デジタル消費者経済」と呼べるものへと移行するさなかにあります。この移行は、市場のあらゆるプレーヤーの競争環境を事実上、一変させるでしょう。世界のCEOの60%超が、競争圧力の高まりによって近い将来、自社の業界が大きく混乱する可能性があると述べています。
台頭しつつあるデジタル消費者経済では、センサーを組み込んだデジタル機器が広く普及し、消費者に力をもたらすことが特徴となります。こうした機器により、顧客は迅速な意思決定に必要な、状況に即したリアルタイム情報に、いつでもどこでもアクセスできます。また、消費者同士はソーシャルネットワークや知見の共有を通じて、極めて密接につながっています。さらに、消費者にサービスを提供する企業も消費者に関する情報を得て力をつけ、情報の連鎖が完成します。過去10年間に演算能力とセンサーのコストが急速に低下したことも、この変革をさらに促し、より多くの人々が参加できるものにしています。
私が「デジタル五大勢力」と呼ぶ五つの主要技術も成熟し、移行をさらに加速させています。それは、モビリティとパーベイシブ・コンピューティング、ビッグデータ、ソーシャルメディア、クラウド、そしてAI・ロボティクスです。これらの勢力は、さまざまな組み合わせで新たなアプリケーションを生み出すために、ますます活用されています。その結果、新たな「デジタル複合勢力」が登場しています。その筆頭がモノのインターネットであり、モビリティとパーベイシブ・コンピューティング、ビッグデータ、クラウド、そしてますます人工知能を組み合わせたものです。今後5年間(2020年まで)に、最大500億台の機器がIoTに接続される可能性があり、新たな経済機会と成長をもたらすでしょう。
大多数のビジネスリーダーは、迫り来るこの変化にどう対応すべきか、まだ確信を持てていません。 TCSの調査 によると、「デジタル・リイマジネーション」に着手している企業は、まだわずか8%です。これは、デジタル勢力を組み合わせて活用し、ビジネスモデル、製品・サービス、顧客セグメント、チャネル、ビジネスプロセス、職場という六つの側面のうち一つ以上に沿って、企業を再構想することを意味します。競争と戦略の基本原則は変わらないかもしれませんが、競争する企業は、自社の顧客との関わり方や顧客との関係という点で大きく変化するでしょう。最近、私たちは世界的な大手エンジンメーカーのためにIoTを活用し、センサーで収集したビッグデータからエンジンの故障を予測することで、新たなサービス収益源を創出しました。故障が事前に予測されると、車両の運行事業者には、最寄りのサービスセンターへの案内とともに通知が自動的に送られます。新たな整備収益を生み出すだけでなく、不便な故障を減らし、顧客体験の向上にも役立っています。私たちが協力した最近の ハーバード・ビジネス・レビューの報告書では、マイケル・ポーター教授が、競争環境の変化を踏まえて企業が検討すべき点を簡潔に示しています。
企業にとっての機会は無限に広がっていますが、新たなIoTネットワークに伴うリスクやサイバーセキュリティの必要性も高まっています。そのため、今年初めのダボスでのITガバナーズ会合で、私たちは2015~16年のIT業界における最優先事項として、二つの柱に合意しました。第一に、世界の状況を改善する「産業のデジタル変革(DTI)」の取り組みを推進すること。第二に、官民対話を通じてサイバーセキュリティを強化し、グローバルなインターネットガバナンスを進めることで、これを確かなものにすることです。何よりも、この新しい世界を受け入れるために、競争戦略、企業文化、考え方を変える必要があります。そこでは、デジタルであることが当たり前なのです。
著者:ナタラジャン・チャンドラセカラン、タタ・コンサルタンシー・サービシズ CEO兼マネージングディレクター、世界経済フォーラム ITガバナーズ運営委員会委員長
画像:2009年9月3日、ベルリンで開催された家電見本市「Internationale Funkausstellung(IFA)」で、女性がLEDテレビの展示を撮影している。ロイター/トビアス・シュワルツ

