1月の身を切るような風がロンドン中心部に吹きつけ、通行人はコートに身を縮める。それでもホームレスのリアムは笑顔を絶やさず、人々に足を止めて話をしてもらおうとしている。
人を引きつける笑顔に加え、彼は好奇心も誘う。首から下げたあの奇妙な箱は何だろう?
「人々には、『こんにちは、この箱について話しませんか?』と声をかけます。箱があると、みんな足を止めてくれるんです」と、現在、夜間シェルターで寝泊まりしている34歳のリアムは話した。
人々はクレジットカードやデビットカードを彼の箱にかざし、非接触決済で3ポンド(約4ドル)を寄付できる。
2ポンドはリアムの賃金に充てられ、残りの1ポンドはホームレス支援の慈善団体2つに寄付される。寄付をすると、その週のニュースの出来事を描いた小さなアートカードがもらえる。
通勤から飲み会の支払いまで、非接触決済の利用が広がるなか、社会的企業TAP Londonはホームレスの人々に、慈善団体の募金活動を担う仕事を提供している。現金の受け渡しは一切ない。

ホームレス支援団体クライシスによると、イングランドではホームレスの人々が増加しており、2016年には、どの夜をとっても少なくとも4,100人が路上で寝ていた。
同時期に、非接触決済の利用は前年に比べて2倍以上に増えたと、業界団体の英国カード協会は述べている。
TAP Londonの販売員は全員ホームレスで、自分の体験を話すことで寄付を促せることも多い。
16歳のときに実家を追い出されて以来、リアムは過去18年間、路上生活をしたり抜け出したりしながら、コカインとアルコールへの依存に苦しんできた。リハビリを経て、現在は13カ月間、薬物や酒を断っている。
「政府は自分を助けるために何もしてくれないと不満を言いながら座っているより、何か違うことをしようとしているんです」と、フルネームを明かすことを断ったリアムは話した。
寄付するべきか、しないべきか?
この社会的企業のアイデアは、TAPの共同創業者ポリー・ギルバートがある晩、ホームレスの男性に食べ物を寄付しようとしたことから生まれた。男性は、差し出されたホットドッグを断り、その晩すでに5個もらっていたと説明した。
「私たち2人ともホームレス問題を気にかけていましたが、何をすればいいのか分からず、もどかしく感じていました」と、もう1人の共同創業者である28歳のケイティ・ウィットロックはトムソン・ロイター財団に語った。
路上の物乞いがホームレスを装って大金を稼いでいるという新聞報道や、寄付金が依存症を支えてしまうのではないかという懸念から、人々はお金を寄付すべきかどうか判断に迷っていると、ウィットロックは話した。
ギルバートとウィットロックは広告業界の仕事を辞め、非接触決済の選択肢やホームレス問題について1年間調査した。慈善団体や地方自治体と話し合い、11月にTAP Londonを立ち上げた。
販売員を探すため、ホームレス支援団体セント・マンゴズと協力しているほか、別の方法でも人材を見つけてきた。リアムは求人広告サイトのクレイグズリストに、自分は体力があり健康で、働く準備ができていると広告を出していた。
「雇用の機会をもっと増やす必要があります。ホームレスの人々が、自分の問題の解決に加われる機会はめったに与えられません」とウィットロックは話した。
TAPの販売員ヴィクトル(37歳)にとって、このような形で一般の人々にお金を求めることと、物乞いをすることには大きな違いがある。
「歩道で物乞いをしていると、惨めな気持ちになります。警察にも追われます。物乞いをしていて楽しい瞬間なんてありません。とても恥ずかしいことです」と彼は話した。
現在はロンドンの「生活賃金」である時給9.75ポンドを受け取っており、働いている人だけが利用できる夜間シェルターに滞在できている。
調子のいい日には、1時間に5人が足を止めて寄付する。ただし、販売員には寄付者を何人集めたかにかかわらず、時給が支払われる。
なぜホームレスになったのかと尋ねられることはあるのだろうか?
「あります。そう聞いてもらえるのは本当にうれしいです。会話が双方向に進むほうがいいですね」と、ファーストネームだけで紹介してほしいというヴィクトルは話した。
クラック・コカインへの依存が原因で仕事を失い、ホームレスになった。路上で意識を失っている間に、銀行カードとパスポートが入ったバッグを盗まれた。
「働くことで、再び社会とのつながりが生まれます。税金を納められることを、彼らはとても喜んでいます」とウィットロックは話した。「雇用契約があり、毎日行く場所もあります。」
箱が寄付を考えている人々の目を引く。
「彼の首に何が掛かっているのか、あれを見た瞬間に気になりました。箱が目に留まって、足を止めたんです。それに、彼は笑顔でした」と、リアムのためにカードをかざして寄付した27歳のサマンサ・マクリーンは話した。
「通り過ぎるとき、現金があれば寄付したいのに、本当に持っていないことが何度もあります。3ポンドなんて大した額ではありません。スターバックスのコーヒー1杯より安いんです」と彼女は話した。



