シンガポールに移るほんの数週間前まで、その場所のことをほとんど聞いたこともなかったのに、どうして移住する勇気があったのかと、よく尋ねられます。(弁解させてもらえば、それは1990年代初頭のことで、シンガポールは西欧では今ほど知られていませんでした。)あるいは、シンガポールに残ると決めたばかりなのに、なぜモスクワへの移住を決めたのかと不思議がられます。コンサルティング業界で大きな成功を収めたキャリアから企業内の職務へ移り、さらに10年以上たって再びコンサルティングに戻ったことも、同僚たちを大いに驚かせました。
それぞれの転機を選んだ個人的・職業的な動機は異なりましたが、決断の仕方はいつも同じでした。私は簡単な二つの質問を自分に投げかけました。起こりうる最善のことは何だろう? そして、最悪のことは何だろう? 誰かにこの助言をもらったわけではありませんが、経験を通じて、難しい決断をするにはこれが最善の方法だと学びました。
これまで何千人もの女性をコーチし、助言し、励ましてきた経験から、女性は二つ目の質問への答えにこそ意識を向ける必要があると学びました。私たちは通常、チャンスの利点を思い描き、それを受け入れることはできますが、全体として、潜在的な不利益を正確に見極めるのにはずっと苦労します。女性はあまりにも頻繁に、リスクのある選択や型破りな転機を避けてしまいます。しかし、私自身のキャリアや、共に働いてきた数十人の女性経営幹部のキャリアが示すように、リスクを取ることは成功に欠かせません。大切なのは、適切なリスクを取ることです。
適切なリスクをどう見極めればよいのでしょうか。ある機会の潜在的な利点が明確で魅力的なら、自分に問いかけるべき本当の質問は一つだけです。最悪の場合、何が起こりうるだろう?
たとえば、20代半ばのころ、米国で2年間働いた後にヨーロッパへ赴任させてもらう契約を会社と交渉していました。しかし、ついに連絡が来ると、アジアへ行くことになったと告げられました。正確にはシンガポールです。当時、シンガポールについて知っていたのは、フィラデルフィアから本当に、本当に遠いことと、一年中とても暑いことの二つだけでした(長い巻き毛の私は、毎日ひどい髪型になると分かっていました)。そんな「詳しい」知識しかないのに、どうして引き受ける気になったのでしょうか。
答えは簡単です。最悪の場合、シンガポールが嫌になるか、仕事に失敗するかのどちらかで、その場合は半年以内に米国へ戻り、両親の家の地下室で暮らすことになると考えました。それは望んだ結果だったでしょうか。もちろん違います。大学を卒業してすぐ経済的に自立できたことを、とても誇りに思っていました。それでも、その状況を受け入れられるでしょうか。必要なら誇りを脇に置いてやっていける、と決めました。そこで恋人、車、ペットを手放し、地球の反対側へ移りました。
その一つの決断をきっかけに、10年間にわたる旅が始まりました。シンガポール、モスクワ、ロンドンを拠点に世界各地で暮らし、働き、ほかにも約50か国を訪れました。間違いなく、人生で最も素晴らしい時期のいくつかであり、後に企業内で働きたいと思ったとき、ユニリーバとクラフトの両社で私が際立つ存在となった理由でもありました。
ですから、皆さんへの助言は簡単です。リスクを取りましょう。大きなリスクを取りましょう。ただし、失敗した場合に起こりうる最悪の結果をはっきりと見極め、それを受け入れてやっていけると十分に思える場合に限ります。そうすれば、行動しなかったことを後悔して振り返る必要は決してないと約束できます。



