ラテンアメリカの労働市場は、文字どおり経済ニュースに追随していないようです。経済活動は過去3年間で大幅に減速し、最近では南米の一部の国が明確な景気後退に陥っています。それでも、労働市場は依然として驚くほど底堅く、とりわけ失業率はほとんどの国で過去最低水準近くにとどまっています(図1)。いったい何が起きているのでしょうか。この地域は重力の法則に逆らう方法を見つけたのでしょうか。
この一見した食い違いを分析するため、まず最近の労働市場の動向を詳しく検証します。次に、こうした動きが歴史的なパターンからどの程度逸脱しているのかを評価します。総じて、労働市場は見かけほど強くはなく、その動きは実際には経済活動の弱さと整合的であることが分かりました。
表面下で進むいくらかの弱まり
2014年の最初の3四半期における労働市場指標の推移を2011~13年の平均と比較すると、地域全体で状況が弱まっている兆しが見られます(図2)。2014年もほとんどの国で雇用は増加していました(左パネル)が、一般に数年前よりペースは緩やかでした(最近、雇用の伸びが強まったウルグアイは例外的です)。ブラジルでは雇用創出が完全に停滞しました。
歴史的に低い失業率でさえ、ここ数カ月のいくらかの軟化を覆い隠しています(中央パネル)。具体的には、2011~13年には地域のほとんどの国で失業率は低下傾向にありました。しかし今年は、状況がまちまちになっています。失業率が引き続き低下した国もいくつかあります(コロンビア、ブラジル、メキシコ、ペルー。ただし、一般にペースは鈍化)。一方、上昇し始めた国も複数あります(アルゼンチン、チリ、コスタリカ、エクアドル、ウルグアイ)。
ただし、労働市場の状況が最近弱まったからといって、すでに市場に余剰労働力があるとは限りません。ラテンアメリカのほとんどの国では、失業率は長期平均、または自然失業率の一般的な推計値(すなわち、インフレを加速させない失業率)を大きく下回っています。また、ほとんどの国で実質賃金の伸びは鈍化していますが、依然として明確なプラス圏にあります(右パネル)。
歴史的なパターンとそれほど異ならない
労働市場の状況が実際に弱まっていると分かったところで、現在の景気減速の規模を踏まえれば、さらに大幅な悪化を予想すべきだったのかが問題になります。
最近公表した 地域経済見通しアップデート では、ブラジル、チリ、コロンビア、ペルー、メキシコ、ウルグアイを対象にこの問いを検討しています。各国固有の生産と雇用の歴史的な関係(いわゆるオークンの法則の一形態)を調べたところ、2014年6月までの4四半期における雇用の伸びは、いずれの国でも予想を上回っていませんでした(図3左パネル)。実際、いくつかの国(ブラジルとメキシコ)では、雇用創出は経済活動から予測される水準を大幅に下回りました。
失業率が依然低いにもかかわらず、特定の国で過去1年間に見られた失業率の動態の変化も、おおむね生産の伸びで説明できます(右パネル)。顕著な例外はブラジルです。2014年6月時点の失業率は、経済の急減速を踏まえた予想より約1パーセントポイント低くなっていました。その理由は、労働参加率が予想外に大きく低下したこと(約1.5パーセントポイント)です。この労働参加率の低下が一時的なものだと判明すれば、今後、失業率はかなり速いペースで上昇する可能性があります。
見通しと政策の選択肢
より一般的には、労働市場の変化は通常、経済全体の動きに遅れて現れるため、雇用の伸びはしばらく低調にとどまる可能性が高く、生産の伸びが「黄金の10年」の高い水準にすぐ戻るとは見込まれていません。
この状況では、失業率はある程度上昇し、実質賃金の伸びもさらに鈍化する可能性があります。その結果、賃金所得全体の伸びが鈍ると、過去数年間に見られた貧困削減やその他の社会的成果を同じペースで維持することがますます難しくなります。
何ができるでしょうか。地域全体で最優先すべきことは、マクロ経済の安定を維持しながら経済成長を再び活性化させることです。ラテンアメリカのほとんどの国では経済の余剰能力が依然限られているため、需要側の景気刺激策を講じる余地は小さく、財政収支が弱い経済ではなおさらです。
その代わり、生産性を高め、民間投資にとってより良い環境を整える改革に重点を置くべきです。物的インフラ、教育制度、一般的なビジネス環境の改善が重要な優先課題です。こうした分野で的を絞った改革を進めることは、成長の回復だけでなく、中期的により多くの、より高賃金の雇用を生み出すうえでも、最も有望な道筋です。
以下は、 IMF Direct
著者:ベルトラン・グルスは、IMF西半球局の地域研究部門に所属するエコノミストで、ラテンアメリカとカリブ海地域に関する調査・分析を行っています。
画像:リオデジャネイロのボタフォゴ地区にある建物のガラス張りの外壁に、同市で有名な「コルコバードのキリスト像」が映っています。ロイター。 2011年2月25日。





