大学から始まり、農村部も取り込んだケララ州のスタートアップ・エコシステムは、世界で最も包摂的なものの一つです。
州内には6,500社を超える登録スタートアップがあり、大学に設置された530を超えるイノベーションセンターがそれらを支えています。
マンホール清掃ロボットから太陽光フェリーまで、ケララ州のイノベーションは現実の課題解決に重点を置いています。
10年前、ケララ州はスタートアップの拠点とは見なされていませんでした。観光、自然の美しさ、高い識字率で知られていました。しかしこの10年で、州は着実に、世界でも特に包摂性と大きなインパクトを備えたスタートアップ・エコシステムの一つを築き上げてきました。
これを可能にしたのは、政府の強力な支援、学生主導のイノベーション、農村部の包摂、そして高まりつつある持続可能性への注力です。今日、ケララ州には6,500社を超える登録スタートアップがあり、医療、教育、農業、気候変動、デジタルサービスなどの分野で現実の課題を解決しています。
州が世界の注目を集めたのは、典型的なシリコンバレー・モデルを踏襲したからではなく、アクセス、包摂、長期的な公共価値に重点を置いたからです。州はスタートアップに1,000万ドルを超える資金を提供し、そのうち800万ドルはベンチャーキャピタルファンドを通じたものです。また、スタートアップの初期資金調達を支援する、活動中のエンジェル投資ネットワークを5つ支援しています。
教室から始まったムーブメント
ケララ州のスタートアップの歩みは2014年、大学にイノベーションと起業家精神を導入するというシンプルな発想から始まりました。州政府はイノベーション・起業家精神育成センター(IEDC)を設立し、学生がアイデアを探究し、製品を開発し、事業を始めるための場を提供しました。
このネットワークはやがて530を超えるIEDCへと拡大し、インド最大の学生イノベーション・ネットワークとなりました。ケララ州のスタートアップ・コミュニティの基盤となり、州内各地の若者がイノベーターや課題解決者として第一歩を踏み出すのを支えています。
都市部だけに注力する多くのエコシステムとは異なり、ケララ州は農村部や都市近郊地域にも広がるモデルを築きました。LEAP Co-worksなどの取り組みは、コワーキングスペース、資金、メンターシップへのアクセスを提供し、小規模な町や村の若い起業家を支援してきました。その結果、スタートアップは州都だけでなく、州内に点在する小規模な地区、コミュニティスペース、大学からも生まれるようになりました。
誰もが利用できるインフラ
このムーブメントを支えるため、ケララ州は強固なインフラを整備しました。現在、州内には1万席を超えるコワーキングスペース、22の試作ラボ、複数のインキュベーターやアクセラレーターがあります。
大きな節目となったのは、MITのCenter for Bits and Atomsとの提携によりコーチに設置されたSuper FabLabの開設です。米国外で初、かつ最大のSuper FabLabであり、デジタル製造のための世界水準のツールを提供しています。これにより、創業初期のイノベーターは地域で試作品を作り、テストできます。
幅広いアクセスと分散化を組み合わせることで、イノベーションにおける都市部と農村部の格差を克服してきました。
機会を広げる政策
ケララ州の成長を牽引してきたのは、ケララ・スタートアップ・ミッションが実施する的確な政策であり、スタートアップが成長し、事業を拡大しやすくなっています。例えば直接調達政策により、スタートアップは政府部局と直接協働し、現実の課題に対する解決策を提供できるようになりました。
ケララ州は、持続可能性とインパクト重視の起業家精神を促進するスタートアップ政策を導入した、インドで最も早い州の一つです。
こうした取り組みにより、ケララ州は複数の評価を受けてきました。Global Startup Ecosystem Reportでは、手頃な価格で優秀なスタートアップ人材を確保できる地域としてアジア首位、世界4位にランクされ、さらにStartup Indiaから、2022年のインドで最も実績を上げた州のスタートアップ・エコシステムとしても認定されました。

確かなインパクト、実際の事例
ケララ州のスタートアップは、雇用を創出するだけではありません。重要な現実の課題を解決しています。
GenRoboticsはマンホールを清掃するロボットを開発し、手作業による汚物除去の廃絶に貢献するとともに、衛生作業員の生活向上を支援しています。
Navalt Solar Boatsはインド初の太陽光フェリーを開発し、燃料使用量をゼロにしました。現在、同社のクリーンテクノロジー船は日常の交通を支え、水路沿いの地域社会のコストと排出量を削減しています。
Zaara Biotechは学生起業家によって設立され、COP28で藻類を利用した脱炭素化プロジェクト「OBELIA」を発表しました。
世界に示すモデル
若年層の失業、農村部における機会の不足、気候変動といった課題に世界が直面するなか、ケララ州は政府が包摂的なイノベーション・システムを構築する方法を示す実践モデルを提供しています。この州のアプローチは、大規模なベンチャーキャピタルやテクノロジー大手ではなく、公共投資、草の根の人材、共通の利益を重視する政策を土台としています。
ケララ州は今、ディープテックとAI、気候関連スタートアップ、クリエイティブ産業、女性が主導するスタートアップに重点を置き、次の段階へと進んでいます。
目標は、イノベーションをさらに身近にし、未来に備えることです。新たなプログラムは、多様な背景を持つ創業者、農村部のイノベーター、環境配慮型スタートアップを支援し、誰も取り残されないようにしています。
ケララ州の物語は、単なる数字やランキングの話ではありません。政府が若者を信じ、草の根から生まれるアイデアに投資すると何が可能になるのかを示すものです。若いうちから取り組みを始め、地域の人材を支援し、持続可能性を中核原則とすることで、人々を第一に考えれば、どの地域もイノベーション拠点になり得ることを示してきました。
世界経済フォーラムは、リーダーが最先端技術を現実の課題と結び付けるためにどのように支援しているか
フロンティア技術・イノベーションセンターは、科学者、政策立案者、ビジネスリーダーを結び付け、新興技術とその現実社会への影響を理解する手助けをします。
協働と実験を促すことで、同センターはパートナーが研究から生まれたイノベーションを、世界共通の課題に取り組む実用的な応用へとつなげる支援をします。
学生イノベーターから草の根の創造者まで、気候分野の起業家から医療技術分野の創業者まで、ケララ州はイノベーションが地域に根差し、包摂的で、世界的にも意義を持ち得ることを示してきました。これは単なる開発の物語ではありません。イノベーションの時代における尊厳、公平、希望の設計図です。



