一見すると、その数字は驚異的に思える。世界の携帯電話普及率は96%だ。人口の47%が1日1.25ドル未満で暮らすサハラ以南のアフリカでは、2019年末までにモバイルデータ利用が20倍に増えると、 エリクソンのモバイル通信調査は予測している。2019年末までにサハラ以南のアフリカで携帯電話契約数は9億3,000万件に達し、住民1人につきほぼ1件になると見込まれている。インドでは市民の28%が携帯電話を使い、ユーザー1人当たりの平均保有台数は2.54台だ。
しかし、こうした膨大な数字は誤解を招くことがある。携帯電話は、世界各地で経済的機会や公衆衛生を改善する万能薬と見なされがちだ。しかし実際には、まだ長い道のりがある。
モバイル技術の限界
24の発展途上国・新興国を対象にした ピュー・リサーチ・センターの調査 によると、携帯電話で支払いを行ったり受け取ったりする人が多数を占めていた国は、ケニア(68%)とウガンダ(50%)の2カ国だけだった。報告書は「支払いを行う、または受け取ることは、携帯電話の利用目的の中で最も少ないものの一つ」と記している。調査対象となった2万4,263人のうち、この目的でモバイル機器を使うと答えたのはわずか11%だった。同様に、健康や医薬品に関する情報を得るために携帯電話を使う回答者も、わずか15%にとどまる。
携帯電話の普及率は高い一方、インターネットの利用率は低い。世界人口のうちインターネットにアクセスできるのはわずか40%だ。インターネット利用と経済成長には関連があることが研究で示されているため、これは重要だ。たとえば2010年のある報告書によると、1人当たりGDPが10%増加すると、1人当たりのインターネット利用者数は21.5%増加することと関連している。
数年前、私はケニア第2の規模を持つスラムに住んでいた青年、 スティーブン・オンディエキについて書いた。近隣の人々が1日1ドル未満を稼ぐ中、スティーブンはコンピューター修理店を営み、1日8ドルを稼いでいた。コンピューター修理の準備となる講座を受けられたのは、信頼性が高く手頃な価格のブロードバンド接続があったからであり、それがなければスティーブンの成功はあり得なかっただろう。スティーブンや発展途上国のほかの人々にとって、ブロードバンド接続は経済的・社会的発展を促す強力な触媒だ。
それほど「世界規模」ではないウェブ
世界では42億人がオンラインではない。国際電気通信連合(ITU)の2013年版『 情報社会の測定報告書』によると、発展途上国でオンラインの人はわずか31%で、世界の後発開発途上国49カ国では10%未満だ。 インターネットアクセスへの比較的手頃な橋渡しとなることが多いスマートフォンも、新興国ではまだ珍しい。ウガンダでは18~29歳の59%が携帯電話を所有しているが、スマートフォンを所有するのはわずか7%だ。
障害となっているものは何か。世界の多くの地域では、高速ブロードバンドへのアクセスは単純に高価すぎる。競争の不足、貧弱なインフラ、広範な貧困、規制上の障壁など、さまざまな要因が原因となり得る。
基本的な携帯電話はブロードバンドアクセスの不足をある程度補えるが、限界がある。ネルソン・マンデラは「教育は、世界を変えるために使える最も強力な武器だ」と述べた。しかし、教育のためのモバイル利用(mラーニング)はまだ始まったばかりで、読み書きのような基礎に焦点を当てている。たとえば非営利団体のWorldreaderは、圧縮技術を使って低帯域幅のネットワークでも高速通信を実現し、モバイル機器で書籍を無料配信している。このサービスは発展途上地域全域で利用でき、サハラ以南のアフリカとインドで利用が多い。
確かに、モバイルは強力だ。しかし、世界各地で需要の高い職種――その多くはITスキルを必要とする――を埋めるために必要な、堅実で専門的な訓練を提供し、失業中の若者7,500万人に仕事をもたらせるだろうか。
モバイルとインターネットの革命を始める
これは、モバイル技術を使って素晴らしい成果を上げている世界中の問題解決者たちを否定する意図ではない。ケニアでモバイル決済の利用率が高いのは、当初はモバイル小口融資の返済を容易にするために設計され、その後、より幅広い用途に拡張されたシステム、SafaricomのM-PESAによるところが大きい。ケニアでは1,700万人以上がM-PESAを利用し、同国のGNPのおよそ25%がこのシステムを通じて流れている。もう一つの例として、Living Goodsの零細起業家たちは携帯電話を使い、地域で低価格の健康・衛生用品を販売している。彼らは生計を立てながら、公衆衛生の向上にも貢献している。
しかし実際には、携帯電話の利用は広く普及しているものの、経済成長や個人の生計を実現する万能の解決策ではない。私たちは皆、二つの方向で協力しなければならない。1)急増するモバイル普及を生かし、健康、金融包摂、技能開発を促進する真に変革的なモバイルツールを開発・発展させること。2)世界中のすべての人々の高速ブロードバンドへのアクセスを改善すること。
ここでいう「私たち」とは、企業、政府、非営利団体、学術界を指す。たとえばWorldreaderは、オーストラリアのアプリ開発会社biNuと提携し、スマートフォンに似た利用体験を低価格帯の携帯電話に届けた。AppLabインキュベーターを通じて、NGOのGrameen Foundationは、通信事業者のMTN UgandaやフィリピンのCARD Bankなどの民間企業と提携し、貧困世帯向けのモバイル金融商品を開発、提供、試験している。アフリカの人里離れた農村地域では、CiscoがUSAID、地元のインターネットサービスプロバイダー、NetHopeなど複数のNGOと提携し、世界最大の難民キャンプである ケニアのダダーブに高速インターネットアクセスをもたらした。このネットワークのおかげで、人道支援団体は通信費を節約し、キャンプの住民により良いサービスを提供できている。また、難民はキャンプ内にある5つのコミュニティセンターのいずれかで、オンラインの教育・職業訓練を受けている。
一人の生計が変われば、家族全体、そして地域全体に影響を及ぼすことがある。効果的なものが定着すれば、世界を変えることができる。モバイル機器であれデスクトップコンピューターであれ、接続性と創造性がすべてを可能にする。
著者:テ・ユー、Ciscoコーポレートアフェアーズ担当上級副社長
画像:2014年8月22日、ナイジェリア南西部オショグボで、ヨルバ宗教の信者による行列を窓辺に集まって見守る人々。オスン川の女神を祝う祭りの一環。ロイター/アキントゥンデ・アキンレイ



