第二次世界大戦後、ドイツ初代首相を務めたコンラート・アデナウアーは、「昨日自分が言ったことを、なぜ気にかけなければならないのか」と言ったことで知られています。彼が言いたかったのは、出来事が時として、私たちの理解が追いつかない速さで展開するということです。そこで、2014年も暮れようとしている今、後知恵を踏まえて自問する価値があります。欧州中央銀行(ECB)は、その使命が求めるとおり、脅威に直面して物価の安定を保つため、十分迅速に対応してきたでしょうか。私の答えは、イエスです。
私たちは、金融政策が民間の借入コストに及ぼす効果が、従来期待していたものとは異なっていることに気づきました。銀行システムの貸出経路が機能不全に陥っていることは明らかであり、過度に厳しい借入条件が需要を抑制していました。これを受け、ECBはどの中央銀行も行うであろうことを正確に実行しました。すなわち、金融政策と借入コストの関係を回復させ、家計と企業が支払わなければならない平均金利を引き下げることを目指して行動したのです。
6月、私たちは、最長4年間にわたり、非常に低い固定金利で銀行に資金を供給する、的を絞った長期資金供給オペ(TLTRO)を導入しました。TLTROは、銀行が資金調達負担の軽減を借り手に波及させる可能性を最大限に高めるよう設計されました。資産担保証券とカバードボンドの買い入れプログラムは、銀行の資金調達コスト低下を顧客に伝える波及経路をさらに円滑にするために調整されました。
これらの措置を合わせると、銀行貸出が損なわれた根本原因に対処する強力な対応となり、実体経済への新たな信用供給を促します。また、暫定的な証拠からは、ユーロ圏経済に初期の具体的な効果をもたらしていることがうかがえます。
一方、インフレ率は低下傾向を続けています。11月、ユーロ圏の年間インフレ率は景気循環上の最低水準である0.3%に下がりました。これは主に、夏の終わり以降の原油価格の急落によるものです。しかし、(変動の大きいエネルギー価格と食料価格を除いた)基調インフレ率の低下も、総需要の弱さを示しています。実際、ECBスタッフによる最新の見通しでは、マクロ経済の先行きが大幅に下方修正されています。
原油価格の下落と、低インフレが長期化する見通しは、インフレ期待にも影響を与えたようです。最近の原油価格ショックの影響が大きいことを踏まえると、今後数カ月、インフレ率が一時的にマイナス圏に落ち込むリスクがあります。通常、どの中央銀行も、供給にとって好ましいショックを歓迎するでしょう。結局のところ、原油価格の低下は実質所得を押し上げ、将来の生産増加につながる可能性があるからです。しかし、私たちは喜んでばかりはいられないかもしれません。中期的な物価安定には、十分に安定したインフレ期待が不可欠であるため、金融政策は期待が不安定化するリスクに対応しなければならないのです。
そのため、ECB政策理事会は、長期にわたる低インフレに対処する必要がある場合、または金融緩和によってバランスシートが2012年初めの規模に近づかない場合には、権限の範囲内で追加の非伝統的手段を用いるという全会一致の決意を改めて表明しました。これは、来年初めに私たちの措置の対象範囲、ペース、構成を変更することを意味します。必要となれば追加措置を適時に実施できるよう、ECBと各国中央銀行のスタッフは技術的な準備を加速させています。
経済にさらなる景気刺激が必要だと判断した場合、ECBが資産を直接買い入れる対象を、他の資産クラスに広げることも選択肢の一つとなり得ます。ただし、資産買い入れ自体が目的ではないことを忘れてはなりません。これは金融政策の目標ではなく、手段です。
追加措置を選ぶうえで重要な基準となるのは、民間経済全体の資金調達環境にどの程度影響を及ぼすかです。たとえば、ユーロ圏の非金融法人(NFC)が発行する債券の買い入れは、企業の資金調達コストにある程度直接波及する可能性があります。しかし、他の資産クラスと比べると、NFC債券市場は比較的小規模です。
ユーロ圏の政府が発行する債券の買い入れを決める場合は、話が異なります。規模が一般に問題とならない唯一の市場だからです。この市場への介入は、ECBが長期にわたり緩和的な金融政策を維持する決意であることを、より強く示す可能性があります。
政府債券市場への介入がどれほど有効か、つまり家計や企業の借入コストをさらに引き下げられるかどうかは、銀行部門の状況にも左右されます。自己資本比率の上昇、不良債権へのエクスポージャーの低下、そしてバランスシートの透明性向上により、ECBの量的な働きかけが経済全体に波及する可能性は高まります。
だからこそ、ECBによる銀行のバランスシートの包括的審査の完了と、欧州全域を対象とする銀行監督の開始は、ユーロ圏の低迷する貸出を活性化させる助けとなります。特に、銀行のバランスシートの明確さと透明性が高まり、銀行部門の資本基盤が強化されることで、貸出を後押しする環境が整います。
しかし、政府債券の買い入れを決定する場合には、EU条約が定める制限を含め、ユーロ圏の制度上の特殊性も踏まえる必要があります。私たちはこうした制限を極めて重く受け止めています。
来年は困難で、不確実性に満ちた年となるでしょう。しかし、過去から学べることがあるとすれば、それは、私たちの使命を果たす能力が危うくなった場合、行動をためらわないということです。
本記事は、 Project Syndicateとの協力により掲載しています。掲載は、世界経済フォーラムが本記事の見解を支持することを意味するものではありません。
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著者:ピーター・プラートは、欧州中央銀行のチーフエコノミストであり、同銀行の執行役員会メンバーです。
画像:2014年8月7日、欧州中央銀行(ECB)本部の隣にある巨大なユーロのロゴ。REUTERS/Ralph Orlowski

