金融と成長は密接に結びついている。少なくとも過去20年間、経済が繁栄するには、厚みと広がりのある金融システムが必要だと分かっていた(Levine 1997)。しかし、新興市場経済について当てはまることが、先進国でも当てはまるとは限らない。つまり、金融は諸刃の剣になり得る。信用供与が比較的低い場合や、雇用に占める金融セクターの割合が小さい場合、債務の増加は成長を後押しする。しかし、それを超えると成長の足かせになる。政府、企業、家計のいずれかの債務がGDPの100%を超えると、国の生産性の伸びが鈍化するという証拠が現在、相当数示されている(Reinhart and Rogoff 2010、Cecchetti et al. 2011、Cecchetti and Kharroubi 2012を参照)。
金融の成長と実体経済の成長の関係
最近の論文(Cecchetti and Kharroubi 2015)では、金融の成長と実体経済の成長との関係の研究へと焦点を広げた。より具体的には、金融システムの規模の変化が全要素生産性の伸びに及ぼす影響を検討した。金融の水準と成長との関係では、金融は一定の水準までは有益だが、今回の結果は明確である。金融セクターの成長が速いほど、全要素生産性の伸びにとって望ましくない。30年間にわたる20カ国のパネルデータを用い、生産性と金融セクターの成長の間に、頑健で経済的に意味のある負の相関があることを確認した。また、因果関係は金融セクターの成長から実体経済の成長へと向かう可能性が高いことも分かった。
グラフ1は、縦軸に就業者1人当たり実質GDPの成長率、横軸に金融セクターの成長を示す2つの指標、すなわち民間信用の対GDP比の伸び(左パネル)と、金融仲介業に従事する雇用者が総雇用に占める割合の伸び(右パネル)を取っている。1980年から2010年までの先進国20カ国のデータを用いた。いずれの場合も、データは5年間の平均値とし、各国平均からの乖離として測定した。図は、金融セクターの成長と生産性の伸びの間に明確な負の関係があることを示している。散布図に引いた線の傾きは負であり、その係数はどちらの場合も1%水準で有意にゼロを下回る。
グラフから受ける印象が、実際にデータに示される関係を正確に反映しているか確かめるため、金融セクターの成長をさまざまな指標で検討し、初期条件、インフレ、政府の規模、貿易開放度、人口増加、対GDP投資比率、金融危機の発生などを統制する単純な成長回帰を推計した。結論はかなり頑健であり、金融セクターの成長と実質成長の間には明確な負の関係がある。
グラフ1。金融セクターの成長と生産性の伸び

各グラフは、1980年から2010年までのオーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、スイス、ドイツ、デンマーク、スペイン、フィンランド、フランス、英国、ギリシャ、アイルランド、イタリア、日本、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スウェーデン、米国について、各国平均からの乖離率を重複しない5年間の平均で示す。右パネルでは、期間初めの労働者1人当たり実質GDPを統制している。
具体的な事例を見れば、影響の大きさを把握できる。アイルランドとスペインを考えてみよう。まずアイルランドでは、2005年から2010年にかけて、アイルランドの民間信用の対GDP比は2倍を超え、年率16.9%で増加した。対照的に、1995年から2000年までの5年間の平均年率は、より緩やかな7.7%だった。ここでは報告していない推計によれば、この9.2パーセントポイントの差により、2005~2010年の生産性の伸びは、1995~2000年と比べて年0.8パーセントポイント鈍化したことになる。これは、この期間に生産性の伸びが2.9パーセントポイント(年率3.3%から年率0.4%へ)低下した分の約30%に相当する。
次にスペインを見ると、1990年から1995年にかけて、信用の対GDP比はほぼ横ばい(年率-0.22%)だった一方、スペインの生産性は年率1.7%で伸びていた。それから15年後の2005年から2010年には、信用の対GDP比は年率8.1%で増加したが、生産性の伸びは年率わずか1%だった。推計によると、信用の対GDP比が8.1パーセントポイント上昇せず一定だったなら、2005~2010年のスペインの生産性の伸びは、1990~1995年と同じ年率1.7%だっただろう。
金融が害をもたらす理由
この経験則の背後には何があるのだろうか。経済の運営に不可欠だと分かっている金融が、害を及ぼす仕組みは何か。私たちの仮説では、金融は比較的生産性の低い産業を優遇する傾向がある。そうした産業は通常、担保に差し入れやすい資産を保有しているためだ。そのため金融が成長すると、経済の産業構成が変化し、総計の全要素生産性が低下する。こう考える背景には、生産工程で有形資本を用いる、またはより有形の産出物を生み出すプロジェクトのほうが、外部資金を得やすいという見方がある。企業の資産や産出物が有形であるほど、融資の担保に差し入れやすい。
この予測をデータで検証するため、15の先進国における33の製造業を調べた。金融セクターの成長による打撃を受けやすい部門を特定するには、資産または産出物の担保差し入れが難しい部門を探す必要がある。資産については、資産の有形性に関する情報から直接測定できる。産出物については、研究開発集約度を代理指標として用いる。
結果は明確である。金融セクターの成長が速いと、資産の有形性が低い産業、または研究開発集約度が高い産業では、生産性の伸びが相対的に大きく鈍化する傾向がある。
推計の定量的な含意として、金融ブームを経験している国にある資産の有形性が高い産業の生産性は、そうしたブームを経験していない国にある資産の有形性が低い産業より、年率2.5~3%速く伸びる傾向があることが分かった。これはかなり大きな効果であり、とりわけ労働生産性の伸びの無条件の標本平均と変動性が、それぞれ2.1%と4.3%であることと比べると大きい。
金融ブームは一般に、成長を促進するものではない。また、その影響が分布にもたらす性質は憂慮すべきものだ。信用ブームは、通常、成長の原動力と考えられている産業、すなわち資産の有形性が低いか、研究開発集約度が高い産業に害を及ぼす。この証拠と、金融危機時の近年の経験を踏まえ、現代の経済システムにおける金融と実体経済の成長との関係を再評価する必要が差し迫っていると結論づける。
免責事項:ここに示された見解は執筆者のものであり、必ずしもBISの見解を示すものではない。
参考文献
Cecchetti, S and E Kharroubi (2012): 「金融が成長に及ぼす影響の再評価」, BIS Working Papers, no 381.
Cecchetti, S and E Kharroubi (2015): 「金融セクターの成長はなぜ実質経済成長を押しのけるのか?」, CEPR Discussion Paper 10642.
Cecchetti, S, M Mohanty and F Zampolli (2011), 「長期的な最大成長の達成における債務の実質的影響」, カンザスシティ連邦準備銀行ジャクソンホール・シンポジウム議事録:145-196.
Levine, R (1997), 「金融発展と経済成長:見解と課題」, Journal of Economic Literature 35: 688–726.
Reinhart, C and K Rogoff (2010), 「債務時代の成長」, American Economic Review Papers & Proceedings 100: 573–8.
この記事は、 VoxEUとの共同で掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味するものではありません。
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著者: Stephen Cecchetti はブランダイス国際ビジネススクールの国際経済学教授。 Enisse Kharroubi は国際決済銀行の金融・経済局金融政策部門の上級エコノミスト。
画像:2007年2月14日、シンガポールの中央ビジネス地区でビルの前を歩く男性。REUTERS/Nicky Loh。


