過去30年間、非熟練労働者が「取り残されている」という認識は、先進国経済における政治的な懸念となってきた。熟練労働者の賃金を非熟練労働者の賃金と比較した技能プレミアムの上昇や、非熟練労働者の失業率の高さを受け、研究者や政策立案者は、こうした状況の原因と、考えられる解決策を検討してきた。
図1.高技能層(高等教育以上)と低技能層(前期中等教育以下)の相対失業率

出典:ILOおよび著者による計算。
技能プレミアムの要因
要因を探るなかで、明白と思われる二つの現象が常に容疑者として挙げられてきた。技能偏向型の技術進歩とグローバル化は、いずれも豊かな国々で、非熟練労働者に対する熟練労働者の相対需要を高める。技術進歩による説明では、現代の技術は産業時代の技術よりも頭脳を使い、体力を使わずに操作できるため、ICT革命によって相対的な労働需要が熟練労働者に有利な方向へ傾いたとされる。言い換えれば、コンピューターと熟練労働者は互いをよく補完し、労働市場における非熟練労働者の余地はますます狭まっている。グローバル化の議論は通常、ヘクシャー=オリーン(HO)モデルで説明される。非熟練労働が豊富な国々(まず東アジアの新興工業経済地域とメキシコ、続いて中国とインド)が世界経済に統合されると、熟練労働を集約的に用いる豊かな(熟練労働が豊富な)世界の産業は拡大し、非熟練労働集約型産業は縮小する。その結果、非熟練労働への需要が減り、技能への需要が高まる。
経済学者の大半は、HOモデルの実証面での弱点もあり、従来はICTによる説明を支持する傾向にあった。HOモデルが自由貿易の拡大に直面した技能豊富な国について予測するように、産業構成の変化を通じて技能への相対需要が増え、技能プレミアムの上昇によって生産工程の技能集約度が低下するのではなく、実際にはあらゆる産業で技能集約度が一様に高まっている(Grilichesほか 、1994年)。さらに、技能集約度の上昇は技能豊富な国だけでなく、発展途上国でも起きている。HOモデルは、産業構成が技能集約型産業から離れることで、まさに逆の効果が生じると予測する。最後に、国や産業を集計単位とする研究では、貿易が技能需要の変化を引き起こすという因果関係を示す証拠は弱かった。
オフショアリングと技能の高度化:新たな証拠
国際貿易が個々の企業や労働者に及ぼす影響をはるかに正確に追跡できるミクロレベルのデータが広く利用可能になるにつれて、この従来の見方は近年になって変わり始めた。いくつかの実証研究(例えば、米国を対象としたAutor ほか 、2013年、ベルギーを対象としたMionとZhu、2013年)は、低賃金国、とりわけ中国からの輸入競争が豊かな国々の労働需要に大きな影響を及ぼし、主に非熟練労働者に打撃を与える一方で、熟練労働者には恩恵をもたらすことを示す説得力ある証拠を提示している。同様に、Hummels ほか (2014年)は、デンマーク企業のオフショアリング決定が非熟練労働者の賃金に及ぼす負の影響を見いだしている。一方、私たちは1996~2007年のフランスの製造企業によるオフショアリング行動を詳しく調べた(Carluccio ほか 、2015年)。オフショアリングと技能の高度化に強い関連があることを示唆する、いくつかの定型的事実を指摘する。フランスの各産業内では、生産に従事する熟練労働者と非熟練労働者の比率が企業によって大きく異なる。労働力が豊富な国から輸入する企業は、輸入しない企業と比べて国内生産の技能集約度がはるかに高い。また、1990年代半ば以降、こうした国々へのオフショアリングが増加する傾向は、輸入企業の技能集約度の急上昇と並行している。
図2.フランスの製造業輸入総額に占める労働力豊富な国からの輸入の割合と技能比率の対数

注:技能比率の対数は、フランス製造業における熟練労働者数と非熟練労働者数の比率として定義される。
図3.労働力豊富な国から輸入する企業、全企業、非輸入企業の技能比率の推移

これらの結果と以下で論じる証拠は、HOの力が産業間ではなく産業内で作用していることを示唆するが、こうした力がどのように現れるかを説明する理論モデルは、経済学者の間でまだ不足している。私たちは、オフショアリングの慣行が熟練労働者への相対需要に及ぼす影響を理解するため、このようなモデルを構築する。その直観はFeenstraとHanson(1997)のオフショアリングモデルに基づくが、異質な企業を扱う貿易研究の知見と組み合わせることで、企業レベルのデータで検証可能な新たな実証予測が導かれる。
伝統的なHO理論と同様、最終財の生産者は技能集約度の異なる中間投入財を使用し、国ごとに相対的な生産要素の賦存量が異なると仮定する。企業の生産性は一様ではなく、中間投入財のオフショアリングには投入財ごとに固定費用がかかる。したがって、技能が豊富な国の企業は、労働集約的な投入財を労働力が豊富な国へオフショアリングすることで得られるコスト低下と、その決定に伴う固定費用を比較検討しなければならない。
生産性の低い企業は、すべての投入財を国内で生産することになる。
こうした企業は収益が小さいため、オフショアリングによるコスト削減では、それに必要な投資を賄えない。
一方、十分に生産性の高い企業は、最も労働集約的な投入財を労働力が非常に豊富な国へオフショアリングする。
さらに生産性の高い企業は、労働力がそれほど豊富ではない国から、比較的技能集約度の高い投入財も輸入することで利益を得る。
こうした輸入は国内の非熟練労働者の雇用を代替し、国内生産の技能集約度を高める。そのため企業レベルでは、生産性と国内生産の技能集約度が正の相関を示し、産業内の技能集約度に内生的なばらつきが生じる。
計量経済分析は、これらの相関をすべて実証的に裏付けている。これらは明らかに、オフショアリングと、非熟練労働者に対する熟練労働者の需要の変化との直接的なつながりを示している。最後に、フランスの貿易相手国における外生的な供給ショックとEUの対外関税引き下げを利用し、労働力豊富な国からの輸入増加が、分析対象期間にフランス製造業の技能集約度を大幅に(約10パーセントポイント)高めたという因果関係の証拠を示す。企業内で観察された技能集約度の変化は、ほぼすべて、労働力豊富な国へのオフショアリングの拡大で説明できることが分かった。
結論
グローバル化が先進国の所得分配に実際に影響を与えていることを示す実証的証拠は、少なくとも製造業については、当初考えられていたよりもはるかに強い。実際、オフショアリングを通じて安価な投入財を利用することで得られる生産性向上の恩恵は、豊かな社会のさまざまな経済主体に平等に分配されていない。したがって、ここで論じた影響に、より効果的な再分配政策で対処しない限り、一部の集団が自由貿易に政治的に抵抗するのには明確な根拠がある。
著者注:ここで述べられた見解は著者のみによるものであり、Banque de FranceまたはEurosystemの見解を必ずしも反映するものではありません。
参考文献
Autor, D、D Dorn、G Hanson(2013年)、「中国症候群:中国からの輸入競争が地域労働市場に及ぼす影響」、 American Economic Review 103(6):2121–2168。
Berman, E、J Bound、Z Griliches(1994年)、「米国製造業における熟練労働への需要の変化:製造業者年次調査からの証拠」、 Quarterly Journal of Economics109、367-397。
Carluccio, J、A Cunat、H Fadinger、C Fons-Rosen(2015年)、「フランス製造業におけるオフショアリングと技能の高度化:ヘクシャー=オリーン=メルリッツの視点」、CEPRディスカッションペーパー10864。
Feenstra, R、G Hanson(1997年)、「海外直接投資と相対賃金:メキシコのマキラドーラからの証拠」、 Journal of International Economics、42 (3-4)、371-393。
Hummels, D、R Jorgensen、J R Munch、C Xiang(2014年)、「オフショアリングの賃金効果:デンマークの労働者・企業マッチデータからの証拠」、 American Economic Review、104(6)、1597-1629。
Mion, G、L Zhu(2013年)、「中国からの輸入競争と中国へのオフショアリング:企業にとって災いか、恩恵か?」 Journal of International Economics、89(1)、202-215。
本稿の掲載は、世界経済フォーラムがその見解を支持することを意味しません。
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著者:Juan CarluccioはBanque de Franceのリサーチエコノミストであり、University of Surreyの国際貿易担当シニア講師です。Alejandro CuñatはUniversity of Viennaの経済学教授で、CES-ifoおよびCeFiGのリサーチフェローです。Harald FadingerはUniversity of Mannheimの国際経済学准教授です。Christian Fons-RosenはUniversitat Pompeu Fabraの経済学助教です。
画像:サウスカロライナ州ウィンズボロのElement Electronicsで、組立ラインの作業員が32インチテレビの背面カバーを取り付けている。Walmartが2013年、今後10年間で米国製品を追加で2,500億ドル購入すると約束したとき、これはアメリカの製造業復活という構想を、言葉から現実へと動かすためにまさに必要なものに思われた。REUTERS/Chris Keane。

