経済学者の間では、金融包摂(金融サービスの利用可能性とアクセスの拡大)と経済発展との結びつきに、ますます注目が集まっています。 新たな論文では、金融包摂が国の経済にどのような影響を与えるのか、また、それを促進するうえでどのような政策が最も効果的なのかを詳しく検討します。
本論文で開発した新たな枠組みにより、金融包摂を妨げる要因を特定し、それらを取り除くことが国の産出量や不平等の水準にどのような影響を及ぼすかを把握できます。金融包摂を妨げているものについて知れば知るほど、それを促進する政策を設計しやすくなるからです。
金融包摂の不足は、所得格差の持続と成長の鈍化につながることが分かりました。
金融包摂が重要な理由
世界では、金融へのアクセスに大きな格差があります。発展途上国の企業では半数強(58%)が銀行融資を利用できる一方、低所得国ではその割合はわずか5分の1です(図1)。企業、特に中小企業は、高い費用、移動距離、煩雑な書類手続きなど、金融へのアクセスをさらに妨げる障壁に直面し続けています。融資の制限、高い担保要件、高金利も、企業の成長を阻んでいます。

このことが意味するのは、最近の研究(および 全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパー)で詳述したとおり、個人は起業するために限られた貯蓄に頼らざるを得ないということです。創業後も、立ち上げたばかりの企業は投資資金の需要を満たすため、自己資金に依存する傾向があります。その結果、企業の規模、革新する能力、生産性が制約されます。
各国の事例を検討
金融包摂を拡大する最善の方法を検討するため、私たちはこの枠組みを3つの低所得国、ケニア、モザンビーク、ウガンダに適用しました。また、3つの新興市場国、エジプト、マレーシア、フィリピンにも適用しました。分かったことは次のとおりです。
– 金融包摂を妨げる制約を切り分けることが重要です。 これらの国々で金融包摂を妨げる主な制約を特定し、それらを緩和する政策が産出量と不平等に及ぼす影響を評価しました。金融包摂政策の効果は、国ごとの特性に大きく左右されることが分かりました。
たとえばウガンダでは、同国で最も強い制約となっている担保要件を緩和すると、産出量が最も大きく反応します。これに対し、マレーシアでは金融サービスを利用する際の高い参加費用が大きな障害となっています。したがって、金融包摂を妨げている具体的な要因を理解することが、政策助言を各国に合わせるうえで不可欠です。
– 金融包摂が直ちに平等の拡大をもたらすとは限りません。 金融包摂は間違いなく産出量を増加させる一方、相対的な尺度(所得のばらつき)で測った不平等への影響はさまざまであることが分かりました。たとえば、金融サービスへのアクセス費用が低下すると、これまで金融システムから排除されていた企業が融資を受けられるようになり、労働者の賃金も上昇するため、所得格差が縮小します。
しかし、担保要件の緩和は、当初は不平等を拡大させる可能性があります。裕福な企業は、より少ない担保で融資を受けて投資できるようになると、借入を増やし、生産や利益を拡大できます。一方、銀行が担保要件を引き下げるにつれ、金融包摂は最終的に比較的貧しい主体にもより大きな恩恵をもたらすようになり、不平等は縮小します。
– 分配上の影響は大きくなる可能性があります。 金融包摂の拡大がもたらす影響は均等とは限りません。金融へのアクセスを拡大する最も効果的な政策、すなわち金融システムへの参加費用を引き下げる政策は、貧困層に恩恵をもたらす一方、高金利や賃金上昇の結果、裕福な企業はある程度の損失を被る可能性があることが、私たちの分析で示されました。
これに対し、担保要件の緩和など、金融の深度を高める政策は、生産性の高い企業に恩恵をもたらすことが分かりました。しかし、こうした政策は、金融包摂政策が実施されているかどうかにかかわらず、生産性の低い企業や信用需要の低い企業にも損失をもたらす可能性があります。
政策への示唆
ここで取り上げた6つの事例研究が示すように、金融包摂の拡大に万能な政策処方箋はありません。まず重要なのは、適切な法的・規制的・制度的枠組みと、それを支える情報環境を整えることです。
政府は、財産権や債権者の権利を保護する法律を導入し、それらが適切に執行されるようにすることで、金融包摂の障害を取り除く中心的な役割を担います。また、情報開示と透明性に関する基準を定め、信用情報の共有システムや担保登録制度を推進することもできます。さらに根本的には、消費者を教育し、保護する役割もあります。
政府は、煩雑な書類要件の免除、コルレス銀行業務の容認、政府支払いにおける銀行口座への電子決済の導入などの政策も検討できます。これらはいずれも、企業の金融へのアクセス拡大に役立ちます。こうした政策措置を進めることで、政府は金融包摂の拡大、不平等の縮小、成長の促進に向けて大きく前進できます。
今後の展開
金融包摂の重要性への認識が高まるなか、私たちはこの枠組みを他の新興市場国や低所得国にも適用する機会を増やしています。コロンビア、コスタリカ、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、インド、ニカラグア、ナイジェリア、パラグアイ、パナマ、ペルー、ウルグアイ、中央アフリカ諸国経済共同体、コンゴ民主共和国、ナイジェリア、ザンビアを含む20を超える国・地域の研究が完了、または進行中です。
本記事は IMF Directとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味するものではありません。
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著者:デビッド・マーストンは現在、IMFのリスク管理ユニット長を務めています。エラ・ダブラ=ノリスは、IMFの戦略・政策・審査局の副局長です。D・フィリズ・ウンサルは、IMFの戦略・政策・審査局のエコノミストです。
画像:シンガポールの中央ビジネス地区で建物の前を歩く男性。ロイター/ニッキー・ロー。


