今日、世界経済が根本的な変革を遂げるなか、世界中の労働者は大きな圧力にさらされている。とりわけ先進国では、低所得層に必要な支援を提供しつつ、成長を促し、ウェルビーイングを高めるために、社会政策を調整しなければならない。
その圧力は絶え間なく、避けがたいものとなっている。米国では、高校卒業資格しか持たない男性の実質報酬(インフレ調整後)が、1979年から2013年にかけて21%減少した。賃金保護がより手厚い欧州の多くの地域では、特に2008年のユーロ危機開始以降、失業率が急上昇している。ドイツと北欧の一部の国は例外だが、ドイツの労働市場にも、低賃金のミニジョブが大きな割合を占める分野がある。
こうした傾向の背景には、仕事の性質の変化がある。まず、世界各地で、とりわけ先進国において、サービス産業の比重が高まっている。1970年から2012年にかけて、OECD諸国のGDPに占めるサービス産業の割合は53%から71%へ上昇した。
新技術や「知能を備えた」機械は、製造業とサービス業の双方で多くの種類の労働者を職から押し出しているだけではない。個人が、組織化された企業の専属従業員としてではなく、緩やかなネットワークのなかで(主に低賃金のサービス業の)仕事を担う、新たなビジネスモデルの台頭も後押ししている。
たとえば、ライドシェアサービスのUberは、米国だけで現在16万2,000人のアクティブドライバーを抱え、従来のタクシーサービスに取って代わりつつある。スタートアップ企業のHandyは、さまざまな家事サービスを提供する独立請負業者と顧客をつなぐアプリで、同様の成功を収めたいと考えている。技術革新が急速に進み、バリューチェーンがグローバル化するなか、労働者は転職、転居、新たなスキルの習得などによって適応しなければならない。これは特に高齢の労働者には大きな負担となる課題だが、すべての人に新たな人生設計の方法を求めている。
一部の人々――人生の早い段階で価値が高く応用の利くスキルを身につけた人々や、相続した富によってすでに有利な立場にある人々など――は、この新しい経済のなかで成功を収められる。しかし、ほかの何百万人もの人々は、新しい時代への備えができていない。そして、こうした人々の不安の高まりが、アイデンティティ政治の台頭をあおっている。ポピュリストの指導者や運動は、変化という非人格的な力に直面するなかで、民族的または宗教的な連帯を訴えている。
中道左派政党はとりわけ困難な課題に直面している。低所得層の支持基盤が、反移民や排外主義を掲げる競争相手に引き寄せられているためだ。さらに、生産(財でもサービスでも)の分断化と財政圧力の強まりが重なり、市民をショックや不運から守る制度や政策を団体交渉によって築くという、これらの政党の従来の依存先を弱めている。
この課題に対する右派の対応――本質的には福祉国家の解体――では、大多数の市民が経済的ショックや構造変化にさらされ、孤立感や脆弱さが強まるだけだろう。これに対し、進歩派の対応には、新技術や新たな働き方と両立する強力な社会政策が必要であり、そこには保険と保護の両方が含まれる。具体的には、画一的な社会保障に代えて、各市民に生涯にわたる個別の支援・保障予算を設ける一方、受給資格のある人には、適応方法を決める際に主体性を示すことを求める。
こうした「市民口座」に支えられた社会という進歩派の構想と、市民個人が自らの退職口座を作り、学生ローンを組み、医療保険を自費で賄うべきだという保守派の考えとの主な違いは、公共部門の役割にある。公共部門は社会保障の財源に第一義的な責任を負うだけでなく、政府、雇用主、受給者の協力を形づくる公共政策を通じて、重複をなくし、効果と公平性を高める。
たとえば、生涯にわたる「家族口座」があれば、有給の産休・育休を可能にし、保育支援を提供し、病気の人や高齢者の介護のために仕事を離れる時間を確保できる。この口座は、共通の基本ルールと、所得に応じた国、雇用主、個人の金銭的負担を組み合わせる。「学習口座」は、生涯を通じた新しいスキルの習得や、他者へのスキル指導の機会を含め、教育支援の枠組みを定める。
こうした制度の基本的な形は、すでに多くの国に存在する。ノルウェーでは、全額賃金支給の育児休業を49週間、または賃金の80%支給で58週間取得できる。両親はそれぞれ、この枠の少なくとも10%を使わなければならないが、一部を繰り越して、子どもが就学するときに利用することもできる(その時期にも親の支援から大きな恩恵を受けられる)。もちろん、ノルウェーほど豊かな国は少ない。しかし、高齢者介護の支援も含め、この原則は30週間、40週間、または50週間の期間に適用できる。
フランスも現在、この方向へ進みつつあり、国民の連帯感を損なうことなく社会政策の合理化を目指す「個人活動口座」を創設している。
もちろん、このアプローチによって、各国が現在直面しているすべての課題が魔法のように解決するわけではない。政府が公共財への資金拠出を続けるなか、財政上の制約は残る。高所得者や高収益企業への適切な課税と、租税回避を減らすための強力かつ持続的な取り組みは、税収基盤を守るうえでいっそう重要になる。また、労働組合は今後も組合員の利益を守るために必要とされる。
それでも、今日の世界でますます重要になる個人の選好と責任の役割を踏まえた、新たな社会契約が必要だ。グローバル化と技術変革に直面して、すべての市民が孤立し見捨てられたと感じるのではなく、自らの力を発揮できると感じられるべきである。
このアプローチによって、社会民主主義はアイデンティティ政治や市場原理主義に阻まれるのではなく、再び進歩を推進できる。それは社会正義の実現に資するだけでなく、経済の成功に必要な、熟練し、幸福で、健康な労働力を維持するという目標にもかなう。
この記事は、 Project Syndicateとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味するものではありません。
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著者:Kemal Derviş。トルコの元経済担当大臣、元国連開発計画(UNDP)総裁で、ブルッキングス研究所副所長。
画像:45メートルの長さの壁に色とりどりの光線が照らされるなか、少年が壁に触れている。REUTERS/China Daily。


