世界で最も急速に成長する経済国を支えるには、どれほどの費用がかかるのでしょうか。
アジア開発銀行(ADB)は、現在の成長率を維持するだけでも、アジア太平洋地域では2030年まで毎年1.7兆ドルのインフラ投資が必要だと推計しています。
今後13年間で26兆ドルを支出することは途方もない負担に思えるかもしれません。しかしそれは、包摂的な開発のあり方を捉え直すまたとない機会でもあります。
アジアには、アジアインフラ投資銀行(AIIB)をはじめとする新たな多国間機関が登場しています。世界銀行、欧州連合、アジア開発銀行(ADB)など、開発援助に長く携わってきた機関に加わる存在です。
新旧を問わず、こうした機関すべてに共通する課題は、未来のイノベーション主導型経済を支えるインフラを整備することです。
電力を供給する固定式の送電鉄塔や、新たな市場を開く交通網といった従来型のハードインフラに加え、ADBは「電気通信、水道、衛生インフラ」への需要も見込んでいます。
さらに、経済成長の障壁を取り除くだけでは済まない、新たな状況への対応も求められます。英国の最近の産業戦略レビューが指摘するように、世界経済で進む次の3つの大きな変化に対応するうえで、持続可能な開発が重要になっています。
- 気候変動の緩和目標を達成するための脱炭素化の必要性
- 第四次産業革命と、働き方の変化
- 人口構成の変化、とりわけ将来の生活水準を維持する力を問う高齢化
インフラ格差にどう取り組むにせよ、その世界的な影響を認識しなければなりません。
アジアの「虎」と呼ばれる経済圏で成長が鈍化すれば、世界中に影響が及びます。そのため、誰もが新たな多国間機関の成功に利害関係を持っています。この点について、AIIBの副総裁ダニー・アレクサンダー氏は次のように述べています。「アジアは世界経済で最も急速に成長している地域です。インフラはアジア諸国にとって重要なだけではありません。だからこそ、アジア以外の多くの国々もこの銀行に加盟しているのだと思います。」
アジアとその開発機関が先を行くために取り組める3つのステップを紹介します。
1)不平等や、他の産業革命を忘れない
世界的なインフラ格差を認識することは、電力とデジタル技術をもたらした第二次・第三次産業革命が、今なお世界の一部で進行中であることを認めることでもあります。
今も約13億人が電気を利用できず、世界人口の半数以上がインターネットにアクセスできません。第四次産業革命の可能性には期待が集まりますが、何百万人もの生活の質や経済的な展望を支える基礎的なインフラ、たとえば基本的な衛生設備や安全な水の供給をおろそかにしてはなりません。
世界銀行が2016年のデジタル・ディビデンド報告書で指摘するように、「最貧困層の世帯は、トイレや安全な水よりも携帯電話を利用できる可能性が高い」のです。これは、先進国が発展の過程で導入した固定電話回線や送電鉄塔などの中間技術を、発展途上国は飛び越えて、スマートフォンのような最新技術を直接導入できるという「リープフロッグ」論の限界を示しています。
報告書が示すように、新技術の普及の度合いと、教育、経済成長、社会全体にもたらす恩恵は、過去の産業革命で整備された旧来のインフラが利用できるかどうか、また地域社会がそのインフラを活用し、維持する準備ができているかどうかによって決まります。
たとえば、アジアが何百万人もの貧困脱却を実現してきた目覚ましい進歩(東アジアの極度の貧困率は1990年の60%から現在は5%未満)を続けたいなら、イノベーション主導型経済に向けて労働力を準備するだけでなく、より多くの女子に質の高い教育を提供できるよう、インフラ整備を計画しなければなりません。
特に中央アジアでは、教育達成度に大きな男女格差があります。世界経済フォーラムの予測によると、変化が現在のペースで進んだ場合、教育の男女格差を解消するまでに「87年」かかります。
こうした格差に対処するには、衛生設備、水道、トイレなど、女子が学校に通いやすくするための基礎インフラ整備プロジェクトが、デジタルリテラシーの向上を目指すプロジェクトと同じくらい重要です。
2)持続可能で包摂的な開発を実現するため、インフラ事業を地域に即したものにする
中国の新たな対外投資戦略、とりわけ国際生産協力イニシアチブは、「中国企業が現地企業と協力」し、「企業、地域社会、政府のリーダー」間の交流を促す有望な指針となっています。
こうした新たな協力型開発の枠組みを実施するうえで、市民社会組織は、大規模な開発銀行、民間部門の関係者、政府のリーダー、現地の地域社会をつなぐ重要な架け橋となります。
たとえばフィリピンでは、ロータリー・インターナショナルと米国際開発庁(USAID)による2件の助成事業が、複雑で分権化され、細分化された同国の上下水道・衛生部門の課題を克服するため、持続可能性指標の方法論を導入しました。この指標は、「持続可能性に影響を及ぼすことが知られている4つの主要因、すなわち制度的枠組み、管理慣行、財務状況、技術運用と支援」を考慮します。これらの事業では、将来のプロジェクトの持続可能性を確保する仕組みを整え、インフラ戦略の策定に携わるあらゆるレベルの関係者が対処できるよう、4つの主要因それぞれの弱点に関する知見を深めました。
地元のNGOの専門知識を活用し、地域住民に相談すれば、より持続可能なインフラ改善を促せます。水インフラの場合なら、フォローアップの研修や保守を行わずに新しい手押しポンプを設置するような、体系的な問題への場当たり的な応急措置に陥るのを防げます。
3)高齢化に備える
2030年までに、人口の5人に1人以上が65歳以上となる「超高齢国」は、世界で34か国に達します。
成長段階の異なるアジア諸国も高齢化が進む国々に含まれ、日本、シンガポール、韓国は「超高齢」、中国とタイは「高齢化」の段階にあります。これにより、国家インフラへの要求はさらに高まります。
政府は、高齢化によって予想される経済成長の鈍化に対抗するため、構造改革を実施できます。たとえば、リー・チャンヨン氏(国際通貨基金アジア太平洋局)は、移民制度の改革、定年年齢の引き上げ、労働市場への参加率の最大化など、一連の対策を提言しています。
65歳を超えた人々も、さまざまな形で活動的に生産性を発揮し続けることができます。ベルギーでは、政府が支援する非営利団体が、若い移民の失業を減らそうと試験的なプロジェクトを実施しています。この制度では、移民を、希望する職種で働いた経験のある地元の退職者と引き合わせます。退職者は若者に助言し、適した雇用主とのつながりを築きます。
また、ソーシャル・インパクト・ボンド・センターによると、財政面でも理にかなっています。「本来なら就職できなかった参加者の3分の1が就職した場合、政府は約200万ユーロの支出を節約できます。これは介入の初期費用の8倍を超える額です。」
地域のインフラ格差解消に必要な金額は膨大に見えるかもしれませんが、市民社会組織と民間部門双方のイノベーションや地域への理解を活かせば、その負担を軽減できます。インフラ格差への対処には、持続可能性、複数部門にまたがる地域主導の協力、そして成長経済と先進経済における第四次産業革命の影響や高齢化の現実に対する戦略的な対応が必要です。世界で最も急速に成長する国々を多く擁するアジアは、持続可能で包摂的なインフラを実現する最善のアイデアを試す重要な場となるでしょう。






