2007年以降の期間を見れば、世界的ショックが英国経済にとって重要であることがよく分かる。この間、2007~09年の世界金融市場の緊張、2008~11年の世界商品価格の急落と急騰、そして2010年以降のユーロ圏危機といった世界的ショックが、英国のマクロ経済の動向を形作ってきた(Armstrong et al. 2014)。
最近のQuarterly Bulletinの記事(Chowla et al. 2014)では、世界的ショックが時間の経過とともに英国の産出に及ぼす相対的重要性を測るため、4種類の構造ベクトル自己回帰(VAR)モデルを推定した。いずれのモデルも、英国ブロックと世界ブロックという2つの「ブロック」に基づいている。この枠組みにより、次の3種類のショックと英国の産出への影響を特定できる。
世界需要ショック、
世界の供給・価格ショック、そして
世界金融ショック。
英国の1990年代初頭の景気後退は、外的要因よりも国内要因によって主に引き起こされたことが分かった。「大いなる安定」の時期には、世界的ショックは概して英国にプラスの影響を及ぼしていた。これは、世界的な信用環境の緩和とリスク認識の低さ、そして海外需要の堅調な伸びを反映している可能性がある。2007~2013年の世界的ショックの影響に焦点を当てると、英国のGDP成長率は主に世界的な動向によって形作られてきたことが分かる。景気後退の最も深刻な局面では、世界的ショックにより英国の年間GDP成長率は6パーセントポイント超押し下げられた(図表1)。その後の回復も世界的ショックによって抑制された。この結果は、世界経済の成長の鈍化と商品価格の高騰が、2010年半ば以降の英国GDPの予想外の弱さのかなりの部分を説明するとするHackworth et al.(2013)の知見と一致している。興味深いことに、2012年以降の英国の成長率の持ち直しのかなりの部分は、世界的ショックによる下押し圧力の弱まりによってもたらされたようだ。
図表1.世界的ショックが英国の経済活動に及ぼした過去の影響の推計

出所:Bloomberg、経済政策分析局(Bureau for Economic Policy Analysis)、IMF、OECD、ONS、Thomson Reuters DataStream、イングランド銀行の推計
(a)世界的ショックは、構造ベクトル自己回帰モデルの4つの仕様による推計値の平均。
(b)英国GDPの線は、1988~2007年の平均である3.1%に対する英国の成長率を示す。世界的ショックの寄与は、モデルと整合的なトレンド成長率に対するもの。
また、特定された世界的ショックによって、2013年末の英国のGDP水準が、危機前のトレンドが続いたとする単純な反実仮想の予測より約11%低かった理由を説明できることも分かった。
したがって、これらの結果は、英国の産出が危機前のトレンドを下回っている現在の不足分の約3分の2が、世界的ショックの結果として生じたことを示唆している。
図表2は、危機前のトレンドが続いたとする単純な反実仮想と比べた、2007~2013年の英国GDP水準の不足分に対する、世界需要、世界の供給・価格、世界金融の各ショックの個別寄与の推計を示す。モデルによれば、世界の供給・価格ショックと世界金融ショックという2つのショックが特に重要だった。世界需要ショックは金融危機の初期段階では影響を及ぼしたが、その影響はその後弱まっている。帯状部分の幅が示すように、ショックの「源」については大きな不確実性がある。仕様によっては世界金融ショックの役割が世界の供給・価格ショックより大きい一方、両者の影響は同程度だったとする仕様もある。
図表2.2007年以降、トレンド比で見た英国GDP水準に対する3種類の世界的ショックの影響の推計



出所:Bloomberg、経済政策分析局(Bureau for Economic Policy Analysis)、IMF、OECD、ONS、Thomson Reuters DataStream、イングランド銀行の推計
注:図は、英国GDP水準に対するショックの推定影響を示し、推定した4つのモデルそれぞれの線を示す。帯状部分はモデル間の影響の範囲を示す。1988~2007年に推計した危機前のトレンドは3.1%。モデル推計値はモデルと整合的なトレンド率に対するもの。
世界的ショックはどの経路を通じて英国に影響したのか?
世界的ショックが伝播するのは、英国と世界の他の地域との貿易その他のつながりを通じてである。2007年以降、特に重要だったと考えられる経路は3つある。
第一に、英国の輸出需要が弱まり、英国の輸入価格が上昇したことで、世界的ショックの影響の一部は貿易経路を通じて生じた。
第二に、世界的ショックは英国で信用供給を引き締め、資産価格の変動を拡大させた。これらが金融経路の主要なメカニズムである。
第三に、英国の経済的不確実性指標が他国の指標と密接に連動していることから、不確実性経路も世界的ショックの伝播に役割を果たしたことが示唆される。
イングランド銀行の主要な予測モデルCOMPASSによれば、世界貿易の崩壊はピーク時に英国の年間成長率を大きく押し下げた(図表3)。2013年末時点のGDP水準のトレンド比の不足分全体の約2%は、世界的ショックが貿易経路を通じて英国に伝わったことによる。これは明らかに無視できない規模だが、VAR推計で世界的ショックに帰属させられた英国GDPの弱さ全体の約5分の1にすぎない。したがって、2007年以降の世界的ショックの5分の4は、主として金融経路と不確実性を通じた、その他の「非貿易」経路によって英国経済に影響したと考えられる(表A)。
図表3.貿易経路を通じた世界的ショックの英国GDPへの推定影響

出所:IMF、OECD、ONS、Thomson Reuters Datastream、イングランド銀行の推計
注:緑色の棒はオレンジ色の線と青色の線の差であり、英国以外で発生したショックの貿易効果を捉えるCompassの推計値を示す。英国と他の経済圏に共通するその他のショックが英国GDPに及ぼす直接的な影響は捉えない一方、そうした共通ショックによる「二次的な」貿易波及効果は含む。
定性的な証拠と先行研究も、これらの知見を裏付けている。たとえば、世界金融危機の際、銀行経路が世界的ショックを英国経済に伝えるうえで重要な役割を果たしたことを示す強い証拠がある。Broadbent(2012)は、英国大手銀行の損失のかなりの部分が英国外のポートフォリオで生じたと指摘しており(図表4)、その結果、銀行が英国経済への貸出を制限した可能性が高い。さらに、2007~09年には、英国の非居住者銀行から英国への貸出が、居住者銀行による信用供与よりも急激に弱まった。Aiyar(2011)はまた、英国の銀行の対外資金調達が1%減少するごとに、国内貸出の流れが0.5%~0.6%縮小したと論じている。
2007年以降、英国と主要な貿易・金融相手国の不確実性指標が強く相関していることから(図表5)、これも世界的ショックが英国に伝わる経路だった可能性が示唆される。たとえば、2007年の米国サブプライム危機の開始と2010年以降のユーロ圏危機は、英国の家計や企業にとって、国内経済や自らの所得・収益見通しに関する不確実性を高めた可能性が高い。
図表4.英国資本の大手銀行におけるポートフォリオ別損失、2008~11年

図表5.各国の不確実性指標

出所:FSAの規制報告、公開財務諸表、イングランド銀行の推計
注:損失は、減損、償却、トレーディング勘定およびのれんの損失の合計と定義する。減損と償却はFSAの規制報告から取得。これらのデータは参考値である。のれんの減損はプロフォーマ方式で計算され、誤差を含む可能性がある。英国外の事業体には銀行その他の金融機関が含まれる。サンプルおよび定義の違いにより、公開財務諸表またはイングランド銀行のBank.statsで開示された数値と一致しない場合がある。図表の対象銀行はBarclays、Co-operative Bank、HSBC、Nationwide、Royal Bank of Scotland、Santander。
出所:Eurostat、ONS、Thomson Reuters Datastream、イングランド銀行の推計
注:英国、ユーロ圏、米国の不確実性指標には、為替レートと株価のオプション価格から算出したボラティリティ、サーベイによる信頼感指標、今後12か月の利益成長見通しのばらつきの指標が含まれる。英国の不確実性指標にはさらに、年間GDP成長率予測のばらつき、「経済的不確実性」に言及する報道記事から得た指標、英国産業連盟(Confederation of British Industry)の四半期産業動向調査およびサービス部門調査における企業の設備投資関連指標が含まれる。
結論
近年、世界経済は英国の産出とインフレに重要な影響を及ぼしてきた。モデルに基づく推計によれば、世界的ショックは2008~09年の英国の景気後退に非常に大きく寄与し、危機前のトレンドと比べた2007年以降の英国GDP水準の弱さの約3分の2を説明する。ただし、貿易経路を通じた伝播で説明できるのは、こうしたショックの英国への影響の約5分の1にすぎない。金融経路と不確実性のほうが重要だった可能性が高い。
参考文献
Armstrong A, F Caselli, J Chadha, W den Haan(2014)、「英国のマクロ経済学者、より高い成長の可能性を見いだす」、VoxEU.org、4月14日
Broadbent, B(2012)、「デレバレッジ」。
Chowla, S, Quaglietti, L, Rachel, L(2014)、「世界的ショックは英国経済にどのような影響を及ぼしてきたか?」、イングランド銀行Quarterly Bulletin、第54巻第2号、167~179ページ
Hackworth, C, Radia, A and Roberts, N(2013)、「2010年半ば以降のMPCの予測実績を理解する」、イングランド銀行Quarterly Bulletin、第53巻第4号、336~350ページ
共同掲載: VoxEU
著者:Shiv Chowlaは、イングランド銀行金融分析局の英国予測チームに所属するエコノミスト。Lucia Quagliettiは、イングランド銀行国際局の国際サーベイランス部門に所属するエコノミスト。Łukasz Rachelは、イングランド銀行国際局のシニア・エコノミスト。
画像:2007年2月14日、シンガポールの中心業務地区で建物のそばを歩く男性。REUTERS/Nicky Loh。



