起業家精神は、停滞する世界経済において成長を実現する強力な道筋となる。
リスクを受け入れ、目的主導のイノベーションとエコシステムの支援を活用することで、起業家は現実社会の課題を解決するために必要なスキルを備えることができる。
インドやバングラデシュのような国々からは、多くの示唆が得られる。
一見すると、世界経済の見通しは芳しくないように思える。世界銀行は、2025~2026年の成長率を控えめな2.7%と予測している。これは、世界経済が加速するのではなく、ただ「前進している」にすぎないことを示唆している。
しかし、全体的な停滞の下には、より複雑な現実がある。インドやバングラデシュのような経済は、目覚ましいペースで成長している。こうした「進展の小さな領域」が伝える重要なメッセージは、成長は今なお十分に可能だということだ。不確実な世界で成長の可能性を生かし、さらなる成長を生み出して未来への備えを整えるには、どうすればよいのだろうか。私にとって、その答えは起業家精神にある。
複雑さが新たな常態に
ゲームのルールは変わった。かつては、ベストプラクティスに従い、効率を最適化する企業には明確な道筋があった。今日、私たちが向き合うのは、新たな分断線、地政学的緊張、寸断されたサプライチェーン、そして予測可能性の境界を曖昧にする同盟関係の変化に満ちた多極世界だ。
このような世界に、もはや唯一の「正しい」モデルはない。従来型の企業も業績を維持できるかもしれないが、許容できる誤差の幅は縮小している。不確実性が恒常的な要素になったためだ。従来どおりの事業運営はもはや通用しない。では、この新たな環境をどう乗り切ればよいのか。かつてのように「オペレーショナル・エクセレンス」を築くだけでは、到底対応できない。研究によると、このような環境では企業に大胆なリスクテイクと創造性が求められる。私の考えでは、起業家はこれに応えるうえで最も適した立場にある。
世界経済フォーラムは、フロンティア技術を現実社会の課題につなぐため、リーダーたちをどのように支援しているのか
フロンティア技術・イノベーションセンターは、科学者、政策立案者、ビジネスリーダーを結び付け、新興技術とその現実社会への影響を理解する手助けをしている。
協働と実験を可能にすることで、同センターはパートナーが研究から生まれたイノベーションを、共通の地球規模課題に取り組む実用的な応用へとつなげる支援をしている。
インパクトを収益につなぐ:企業に求められる新たな要件
今日、特に有望なモデルの一つは、収益の創出だけでなく、プラスのインパクトも生み出す企業の台頭だ。商業面と社会面の課題に同時に取り組むソリューションを設計する企業。「インパクトを収益につなぐ」モデルに取り組む企業である。例えば、小規模農家の収量向上を支援しながら資源使用を削減するためにAIを活用する、仮想の農業テクノロジー・プラットフォームを考えてみよう。あるいは、廃棄物を新製品の原材料に変えるサーキュラーエコノミーのスタートアップもある。これらは単なる情熱的なプロジェクトではなく、れっきとした事業だ。測定可能な価値を生み出し、現実社会の問題に取り組んでいる。
このモデルは、利益と目的のバランスを取り、ステークホルダー資本主義の原則に沿うものだ。ハーバード・ビジネス・レビューによると、この考え方を取り入れた大企業は、顧客の信頼、投資家の確信、従業員のエンゲージメントにおいて、長期的な成果を得られる可能性がある。目的を軸に率いる起業家は、よりレジリエントで適応力があり、拡張可能な事業を築くことになるだろう。
リスクは高まるが、機会も広がる
インフレ、資源の制約、激しさを増す気候関連事象は、企業が直面する深刻なリスクの一部だ。しかし、機会も残されている。従来型のインフラが不足していることもある多くの開発途上地域では、イノベーションへの需要がいっそう強い。東南アジアのクリーンエネルギー・スタートアップ、アフリカのフィンテック・プラットフォーム、ラテンアメリカのデジタルヘルス・ソリューションは、地域の課題にグローバルな視点で取り組んでいるため、勢いを増している。こうした機会をつかむのは、最も確立された企業ではなく、最も適応力のある企業だ。短期的な変動の先を見据え、長期的な価値創造に取り組む企業こそ、目的に沿った資本を呼び込み、使命感を持つ人材を確保し、未来への備えを整えた組織を築く。
国家戦略としての起業家精神
起業家精神といえば創業者やスタートアップを連想しがちだが、もっと広く一般に当てはまるものとして捉えることができる。研究によると、成長とレジリエンスを実現するには、あらゆる分野や組織で、機敏さ、当事者意識、好奇心を育むべきだという。先見性のある政府はさらに一歩踏み込み、包摂的な成長に向けた国家戦略として起業家精神を位置付けている。
インドでは「スタートアップ・インディア」が、規制面の支援、資金へのアクセス、世界市場への統合を提供し、イノベーションのための強固な政策枠組みを構築している。バングラデシュも、中小企業部門を強化し、都市部と農村部で女性主導の企業を支援することで、目覚ましい進展を遂げている。ここから得られる教訓は、起業家精神は孤立した環境ではなく、公共部門の支援に支えられたエコシステムの中で花開くということだ。支援には次のようなものが含まれる。
特に創業初期や使命主導の資金調達を含む、資本へのアクセス。
デジタルインフラと接続性。
企業を支える規制と官民連携。そして
技術的スキルと人間力の双方を重視した人材育成の仕組み。
起業家精神は誰にとっても必要
今日、起業家であることは肩書きを持つことではなく、心構えの問題だ。最も変革をもたらすイノベーションのいくつかは、大企業の「社内起業家」から生まれている。彼らは実験し、慣例に異議を唱え、新たなソリューションを生み出す権限を与えられている(思い浮かぶ好例は、Googleの「20%ルール」)。
これは、モビリティやエネルギーから医療や教育まで、変革に直面する業界にとって特に重要だ。気候変動への適応と新技術によって形作られる新たな経済に備えるには、機敏さを組織構造だけでなく、企業文化にも組み込まなければならない。
複雑さと不確実性に特徴づけられるこの時代には、起業家精神が大いに必要とされている。起業家は新たな成長の道筋を切り開く。前提に疑問を投げかけ、曖昧さの中を進み、迅速に行動する。だからこそ私は楽観的であり続ける。課題は小さくないが、それに伴う機会もまた、非常に大きい。この時代を受け入れ、収益とインパクト、レジリエンスと再創造のバランスを取る人々は、ただ生き残るだけではない。先導するのだ。
起業家精神は、望む未来を創るために、未来への備えを整える助けとなる。



