世界金融危機を契機に、銀行業務が経済論議の中心に据えられた。Bernanke et al.(1999)およびKiyotaki and Moore(1997)の枠組みに基づき、担保付き債務のさまざまな形態がもたらす増幅効果を検討した研究がいくつも発表され、危機とその後の展開が分析された。銀行の重要な側面の一つ、すなわちバランスシートと資産価格、ひいてはマクロ経済や金融政策への影響は、近年、注目を集めている。とりわけAdrian et al.(2014)およびAdrian and Shin(2010)は、証券会社やブローカー・ディーラーのバランスシートにおける資産の増加が、資産価格とリスクプレミアムに影響すると指摘している。銀行のポートフォリオ決定はバランスシートを形作り、金融仲介とマクロ経済をつなぐ重要な要素となる。
流動性、銀行のポートフォリオ選択、タームスプレッド
銀行はバランスシートに多種多様な資産を保有し、長期的な設備投資の資金調達において重要な役割を果たす。最近の論文(Aksoy and Basso 2014)では、まず、市場が分断されている状況で、銀行がポートフォリオを決定する理論モデルを検討した。その決定は、実質的には長期信用資産(融資)と短期資産の選択である。銀行は、短期借入で調達した資金を用いて株式、短期融資、長期融資のポートフォリオを保有し、最終的には満期変換のリスクを負う。銀行が帳簿上の長期資産を維持するため、バランスシートに流動性を注入する必要が生じることがあると仮定する。これは満期ミスマッチのリスクを形式化したものである。
タームスプレッド、すなわち短期金利と長期金利の差を構成する重要な要素は、最終的にこの潜在的なエクスポージャーをヘッジするコストを示すものであり、将来の短期金利と満期リスクを負うことへのプレミアムによって決まることを示す。また、銀行の投資に伴うキャッシュフローのパターンは収益性、ひいてはバランスシートに影響し、ポートフォリオ決定から生じるリスクプレミアムを変化させることも示す。この仕組みを銀行の「ポートフォリオ・チャネル」と呼ぶ。
タームスプレッドは銀行の将来の収益性に関する期待に大きく左右される。期待利益が高い(低い)ほど、金利スプレッドは低く(高く)なる。ポートフォリオ・チャネルの重要性を理解するため、銀行レベルのデータを調べた。米国の大手金融機関22社を分析したところ、銀行の期待収益性が1パーセント上昇すると、タームスプレッドは13ベーシスポイント低下することが分かった。したがって、長期資産と短期資産のいずれを保有するかという銀行の資産ポートフォリオ決定は、長期的な企業活動に伴うリスクの価格と、金融仲介を通じたその資金調達のあり方に影響する。
タームスプレッドと経済へのフィードバック効果
経済全体の動向と銀行の期待収益性がタームスプレッドに影響する一方で、タームスプレッドも実物投資の資金調達を通じてマクロ経済に影響を及ぼす。モデルでは、経済状況の変化(将来利益の推移に反映される)が、銀行の資金調達コストのシャドー・バリュー(長期資産をバランスシートに保有する間に支払われる)と、その見返り(資産の満期時に実現する)との関係を変えるため、スプレッドの内生的な変動が生じる。タームスプレッドのこの「内生性」とマクロ経済へのフィードバック効果は、政策当局者が決定を下す際に重要な考慮事項となるはずだ。量的緩和(QE)や短期金利の変更を通じた政策行動は、銀行の利益見通しと長期投資への資金供給行動に影響するからである。
タームスプレッドと非伝統的金融政策
世界金融危機を受け、中央銀行は資産購入という形で迅速かつ大規模な対応を行った。私たちのモデルは、QEが経済に影響する新たな経路を提示する。非伝統的な政策は、将来起こり得る流動性不足から銀行を守り、将来のバランスシート制約を緩和する。その結果、銀行は満期変換リスクを負う意欲を高め、タームスプレッドは縮小する。流動性ショック後に銀行が長期資産を中央銀行に売却できるようにすると、タームスプレッドが大幅に低下することが分かった。これは主要経済圏のQE政策に関する複数の実証研究の結果と一致する。したがって、中央銀行は銀行のバランスシートを変化させることで実質産出に影響を及ぼすことができる。これは市場メカニズムを通じて実現し、中央銀行が銀行のバランスシートの状態について優れた情報を持つ必要はない。
証券化、ポートフォリオ選択、資産価格
最後に、シャドーバンクの資金調達とポートフォリオ決定の役割を検討し、銀行のポートフォリオ選択とマクロ経済のもう一つの重要なつながりを強調したい。世界金融危機に先立つ15年間に、証券化資産の量は著しく増加した。同じ期間に、他の部門や商業銀行と比べたシャドーバンク、証券会社、ブローカー・ディーラーの保有資産の割合も大幅に上昇した。Aksoy and Basso(2014b)では、金融仲介におけるこうした変化を検討し、新たな証券化資産の量の増加が債券および株式のプレミアム低下につながることを示す。
金融仲介機関のポートフォリオ選択を詳しく調べ、その決定における重要な側面の一つ、すなわち合成資産を創出して販売する能力を考慮することで、金融仲介と資産価格を結び付けるもう一つの潜在的な経路を特定できる。信用資産のプール化とトランシェ化によって、銀行が資産ポートフォリオを決める際に直面する流動性制約とリスク制約の両方が実質的に緩和されることを、理論的に示す。これによりレバレッジが高まり、資産需要が増加し、プレミアムが低下する。重要なのは、経済におけるリスクテイクへの対価が減少する一方で、資産の基礎的なペイオフ特性、すなわちリスクの大きさは変わらない点である。Rajan(2005)が指摘するように、プレミアムやボラティリティの低下は、リスクが存在しないことを意味するとは限らない。
リスクテイクと資産価格のボラティリティは、政策当局者の懸念の中心となっている。銀行の資金調達とポートフォリオ選択は、とりわけ証券化の慣行に過度に依存する時期に、金融仲介機関が資産価格の決定に果たす役割と、その実体経済へのフィードバック効果を理解するうえで重要となり得る。したがって、私たちの結果は、金融機関のポートフォリオ決定、特に多様な資産ポートフォリオを持つ機関の決定を分析し、監視することの重要性を示している。
参考文献
Adrian, T, E Etula, and T Muir(2014), “Financial Intermediaries and the Cross-Section of Asset Returns,” The Journal of Finance, 69(6), 2557-2596.
Adrian, T, and H S Shin(2010), “Financial Intermediaries and Monetary Economics”, in Friedman, B M and M Woodford (eds.), Handbook of Monetary Economics, ed. by , vol. 3, chap. 12, pp. 601-650. Elsevier.
Aksoy, Y and H S Basso(2014), “Liquidity, Term Spreads and Monetary Policy, The Economic Journal, 124(581), 1234-1278.
Aksoy, Y, and H S Basso(2014b), “Securitization and Asset Prices”, Birkbeck Working Papers in Economics and Finance, 1411.
Aksoy, Y, and H S Basso(2014b), “Securitization and Asset Prices”, Working paper.
Bernanke, B S, M Gertler, and S Gilchrist(1999), “The financial accelerator in a quantitative business cycle framework,” in Taylor, J B and M Woodford (eds.), Handbook of Macroeconomics, vol. 1, chap. 21, pp. 1341–1393. Elsevier.
Kiyotaki, N, and J Moore(1997), “Credit Cycles,” Journal of Political Economy, 105(2), 211-248.
Rajan, R G(2005), “Has financial development made the world riskier?,” Proceedings, (Aug), 313-369.
この記事は VoxEUとの共同で公開されています。公開は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しません。
アジェンダの最新情報を得るには、 週刊ニュースレターに登録してください。
著者:Yunus Aksoyはロンドン大学バークベック校の経済学准教授。Henrique Bassoはスペイン銀行調査部のエコノミスト。
画像:2010年10月21日、ロンドンの金融街カナリー・ワーフで、Bank Streetの標識と高層オフィスビルが写っている。REUTERS/Luke MacGregor。

