今後数十年で、世界の経済生産と市場成長の大半は新興市場からもたらされるでしょう。すでに、7大新興市場の合計は、G7諸国全体を上回る世界の生産を生み出しています。とはいえ、集計された統計の裏側を見ると、こうした新興かつ活力ある市場には、不平等やボトルネック、制度の欠如が蔓延しています。
新興市場それぞれの社会は、多くの経済的課題に直面しています。その大半は、包摂的な成長の欠如によって急成長の可能性が損なわれていることに関係しています。今後数年間、新興市場を主要な成長源と見込むグローバル企業にとって、これは無視できない緊張関係です。
包摂的成長への投資不足は、成長そのものへの課題となり得ます。新たに経済大国となりつつある国々の市民の大半は、先進国では当然と考えられる製品や基本的なサービスを利用できません。
例を挙げましょう。インドでは、トイレを利用できる人より携帯電話を持つ人のほうが多く、ブラジルは淡水資源が豊富な国であるにもかかわらず、多くの人が深刻な水不足に直面しています。また、銀行口座を持つインドネシア人はわずか20%です。
2025年までに30兆ドル規模となる新興市場
一方、新興市場の年間消費額は、 2025年までに30兆ドルに達すると予測されています。つまり、これらの国々で不利な立場に置かれた人々を包摂するよう設計されたビジネス革新に、グローバル企業が戦略的に投資する緊急性が高まっています。そうしなければ、新興市場の消費者がもたらす数兆ドル相当の価値の大部分は、実現されないままにとどまるでしょう。
グローバル企業のCEOが懸念すべき理由はいくつもあります。まず、潜在的な消費者が十分に中間層へと引き上げられず、サプライチェーンや流通のボトルネックによって商品やサービスを届ける能力が制限されるため、成長の持続可能性には限界が生じます。
経済的不平等の深刻化による政治的・社会的混乱のリスクも大きくなっています。ブラジルからトルコ、タイに至る近年の抗議活動は、こうした懸念の深刻さを示しています。市場の隙間は、現地事情に精通した低コストの地場企業に参入機会を与えます。こうした企業は低価格帯を先取りするだけでなく、経験を積んで高価格帯へ進出する可能性もあります。
「包摂的イノベーション」を実現するには、考え方と現場での事業運営手法を根本的に変える必要があります。経営幹部は、前世紀を想定した戦略講座で教えられた中核的な経営原則の一部を脇に置かなければならないかもしれません。
一般的なビジネススクールの戦略論を超えて
一般的なビジネススクールでは、戦略とは、どこで事業を行うか、どう勝つか、どのように組織するかという選択を行うことだと考えます。これまで経営の合言葉は次のとおりでした。
1. 最も魅力的な市場を選び、どこで事業を行うかを決める。手を広げすぎない。市場を細分化し、最も収益性の高いセグメントに資源を集中させる。
2. 最も魅力的なセグメントを見極め、業界の他の参加者との交渉で市場支配力をてことして活用し、最高の利益率を引き出すことで、勝ち方を決める。
3. 会社の活動を中核的な能力に集中させ、組織のあり方を決める。
包摂的イノベーションの戦略を策定するには、こうした原則から大きく離れる必要があります。経営者が行うべき調整をいくつか考えてみましょう。
第一に、魅力に乏しい市場で事業を行う意欲が必要です。採算の取れない消費者にサービスを提供するモデルを開発しなければなりません。「ピラミッドの底辺に眠る富」が期待されているとしても、経営者の在任期間の大半において、こうしたセグメントの収益は、会社のより高収益な事業セグメントに見合うものにはならないでしょう。見通せる限り、最良のシナリオでも低利益率のセグメントにとどまります。
第二に、包摂を実現するには、交渉力の最適化を緩める必要があります。そうしなければ、小規模事業者、小規模農家、その他の「交渉力の弱い」参加者が、サプライヤーや販売業者としてバリューチェーンに加わるのを妨げてしまいます。こうした参加者は、多くの新興市場で事業を営むうえで欠かせません。
別のケースでは、交渉力の最適化によって、小規模事業者が取引のために破滅的な条件を受け入れざるを得なくなることもあります。中国のフォックスコンの電子機器組立工場における劣悪な労働条件や、バングラデシュのラナ・プラザ工場崩壊事故(1,000人を超える労働者が死亡)は、グローバル企業に一方的に有利な現地サプライヤーとの取引を推し進めることに内在するリスクを示しています。
従来の公式は破滅を招きかねない
良好なガバナンス、法の支配、労働者の権利保護、建築安全基準が十分に成熟していない地域では、従来の「勝ち方」の公式を当てはめると破滅を招きかねないことを、経営者は認識すべき時です。少なくとも、重大な事業リスクとなります。外部委託先のサプライヤーに著しく不利な条件で生産を委託すれば、サプライヤーが利益率を取り戻そうとあらゆる手段を講じるなかで、環境や労働条件をめぐる底辺への競争が生じる状況を作り出します。
第三に、包摂的な事業アプローチでは、組織の中核的能力の範囲外にあるバリューチェーンの一部に関与することも、経営者は検討する必要があります。事業運営を持続可能な形で継続・成長させるため、上流・下流の双方にある空白を埋める役割を会社が担わなければならない場合があるからです。
会社は、サプライチェーンや流通網の隙間を埋める創造的な解決策を開発したり、地元の起業家やNGOを支援する技術移転や資金提供を行ったりする必要があるかもしれません。アグリビジネス大手のOlamがガボンでインフラと経済特区を整備したように、地元政府や企業と協力してきた会社もあります。また、バリューチェーンの不慣れな部分へ進出するため、他の重要機関と提携した会社もあります。たとえばコカ・コーラは、ウガンダとケニアの農家に技術移転と資金提供を行い、ジュース製品に使うマンゴー、パッションフルーツなどの果物を現地で調達できるよう、ゲイツ財団およびテクノサーブと協力しました。
新興市場で事業を行う経営者をどのように育成しているのか、今こそ見直すべきです。ビジネス戦略は再考し、学び直す必要があります。20世紀の先進国市場向けに作られた公理にとらわれたままなら、21世紀の新興市場の機会に潜む価値を取り逃がすことになるでしょう。
この記事は、 Forbesとの協力のもと掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味するものではありません。
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著者:Bhaskar Chakravortiは、世界経済フォーラムの イノベーション経済学グローバル・アジェンダ評議会のメンバーです。
画像:2012年11月20日、パリ西部の金融街にあるアルシュ・ドゥ・ラ・デファンスの下を歩く女性実業家のシルエット。REUTERS/Christian Hartmann。


