経済学者は幸福とウェルビーイングをどう捉えているのか

A girl plays with a giant bubble as the sun sets at Moonlight Beach in Encinitas, California June 30, 2011. Picture taken June 30. REUTERS/Mike Blake (UNITED STATES - Tags: SOCIETY IMAGES OF THE DAY)
Some have cast doubt on the idea that happiness is decoupled from economic growth.Image: REUTERS/Mike Blake
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イースタリンのパラドックスとは、米国で経済成長が持続したにもかかわらず、1946年から1970年にかけて報告された幸福度が横ばい、または低下したという、リチャード・イースタリン(1974年)の発見を指す。幸福は経済成長から切り離されているという考えには疑問を呈する研究者もいる。たとえば、スティーブンソンとウォルファーズ(2008年)は、幸福度は通常、所得とともに上昇するものの、そのペースはより緩やかだと示している。それでも、幸福とウェルビーイングの経済学に関する研究は広がっている。

この分野の研究が進展し、広がるにつれ、経済政策の焦点を幸福とウェルビーイングに置くべきだと主張する声が高まっている。この考えは、ジェレミー・ベンサムの「最大幸福原理」にまでさかのぼる。オドネルとオズワルド(2017年)は、このような「ウェルビーイング政策」を「人々の心理的ウェルビーイングに関する感情を活用するあらゆる形態の経済・社会政策の立案」と定義している。より広く言えば、「市民が報告した感情のデータに基づく国家の意思決定」を意味する。

最新のマクロ経済学センター(CFM)とCEPRの調査は、この考えの重要な二つの側面を探ることを目的としている。

第一に、マクロ経済政策で用いられる他の、より従来的な統計と比べて、ウェルビーイングをどう測定するかという重要な課題を取り上げる。

第二に、この新たな研究分野がマクロ経済政策の目標に影響を与えるべきかどうかを検討する。ウェルビーイングと幸福の測定

ウェルビーイングと幸福に関する研究の多くは、主観的ウェルビーイングや生活満足度のスコアを用いている。こうしたスコアは通常、調査の回答者に、たとえばユーロバロメーター調査の次のような質問への回答を求めることで得られる。「全体として、あなたは自分が送っている生活にどの程度満足していますか?」1

研究が進むにつれ、公的な指標も整備されてきた。ブータンの第4代国王ジグミ・シンゲ・ワンチュクは、1970年代に「国民総幸福(GNH)は国民総生産より重要だ」と述べたことでよく知られている。2 ブータンでは比較的最近になって、9つの下位指標を使ってGNHを定量的に測定している。

同様に、英国国家統計局(ONS)は2011年以降、英国の成人を対象に調査を行い、個人のウェルビーイングを測定している。英国の調査では、生活満足度、回答者が人生で行っていることに価値があると感じる度合いに加え、調査前日に感じた幸福感と不安感を尋ねている。3

しかし、ウェルビーイングの測定には多くの批判がある。ホワイト(2014年)は、「幸福は曖昧で多面的かつ主観的な現象であり、測定に十分な精度で定義するのが難しい。個人や集団間で意味のある比較ができる形で測ることも難しく、政策の実施を複雑にする倫理的な問題も多く含んでいる」と述べている。

主観的ウェルビーイング指標を擁護する立場からは、これらの指標は長期間にわたり、さまざまな国で使われており、一貫した知見を数多くもたらしてきたと指摘される。また、支持者は、脳スキャンから得られるものなど、より科学的な幸福度の測定値も、一見問題があるように思われる自己申告指標から得た結果を裏付けていると述べる。

GDPにも批判はあり、クズネッツが1930年代から1940年代にかけて批判したのが始まりである。ジョセフ・スティグリッツらが主導した経済パフォーマンスと社会進歩の測定に関する委員会(2011年)は、現代経済の複雑化により、国が生産する財・サービスの価値を測る指標は、ますます有用性と信頼性を失っていると強調する。特に現代経済では、国内生産に占めるサービスの割合が大きく(さらに拡大しており)、製造業の製品やサプライチェーンもますます複雑になっている。

さらに、所得分配への関心が高まるなか、研究者は幸福度調査を用いて、OECD加盟国と非加盟国の双方におけるウェルビーイングの分布を把握することもできる(例:ヘリウェル、2016年)。所得分配の測定は、標準的なGDP指標から評価するのがより難しい。

それでも、コイル(2014年)が指摘するように、問題点はあるものの、GDPは要約指標として現代の経済分析と政治の中心であり続けている。この統計のわずかな変動が、政府の政策に対する評価を左右することもある。

GDPにも主観的ウェルビーイング指標にも長所と短所があることを踏まえ、CFMとCEPRの調査では、マクロ経済学におけるウェルビーイング指標の現状について、専門家の見解を尋ねる最初の質問を設けている。

質問1:主観的ウェルビーイング指標、あるいは一般的な調査指標のうち少なくとも一部の下位指標は、マクロ経済の実証分析に用いた際に有用な知見を得られるだけの信頼性を備えるようになった、という意見に賛成ですか。

質問1への回答

Image: voxEu

質問1への回答
(自己申告による確信度で加重)

Image: voxEu

最初の質問には、パネルメンバー57人が回答した。回答はおおむね三分され、40%が賛成または強く賛成、44%が反対または強く反対、16%が賛成とも反対とも言えないとした。

ウェルビーイング指標の分析は比較的新しいため、この割合は、主観的ウェルビーイング指標に対してマクロ経済学者が一定の受容性を持っていることを示唆する。賛否が拮抗していることは、両方の立場の回答者が、相手側の回答者も挙げている理由を根拠として示す場合が多いことからもうかがえる。

それでも、マクロ経済学者は全体として、こうした指標にやや否定的な姿勢を保っていることを示唆する事実が二つある。

第一に、この意見に強く賛成した回答者は1人だけで、強く反対した回答者は5人だった。第二に、自己申告による確信度で加重すると、賛成の37%に対し反対は48%となり、その差は広がる。

英国国家統計局(ONS)のために英国の経済統計を独立に検証する作業を主導した、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のチャールズ・ビーン卿は、福祉の指標としてのGDPの限界を認めている。しかし、ウェルビーイングをマクロ経済の実証分析に用いることには反対し、「マクロ経済分析の基盤とできるほど広く受け入れられ、十分な信頼性を備えた幸福またはウェルビーイングの指標を得るまでには、まだ長い道のりがある」と述べる。

ビーン卿は、こうした指標にはさらなる研究と分析が必要だと認めており、この見解は、提案全体に賛成する人にも反対する人にも共有されている。たとえば、ストックホルム大学のペール・クルーセルは「観察可能な経済行動」に焦点を当てることを好む一方、自身の見解は「研究が進めば変わる可能性がある」と述べている。

ボン大学のユルゲン・フォン・ハーゲンは、ウェルビーイング指標について、「直感に合うマクロ経済変数との一貫した頑健な相関を示すという意味では、十分な信頼性があるように思われる」と考えている。しかし、こうした知見が時間を経ても安定しているか、また下位集計レベルの分析でも同様かを確かめるため、さらなる分析を求めている。スターリング大学のデイヴィッド・ベルはさらに踏み込み、心理学などの分野との学際的研究を拡充する必要があると提案する。

GDPに取って代わるものではなく、すでにこうした指標の利用に前向きな人もいる。LSEのリカルド・レイスは、この分野で「過去20年間に目覚ましい進歩」があったと指摘する一方、これらの指標は「GDPの代替ではなく、補完と見なすべきだ」と強調する。同様に、レスター大学のパニコス・デメトリアデスは、こうした指標は「一貫して使うなら、有用な『付加要素』になり得る」と主張する。

利用を支持する理由には、より高頻度のデータを得られる可能性や、細分化されたデータを得られる可能性がある。後者について、ロンドン大学バークベック・カレッジのジョン・ドリフィルは、「社会の異なる集団がマクロ経済の動向から異なる影響を受ける可能性があるため、細分化されたデータは特に有用だろう」と述べている。

オックスフォード大学のマーティン・エリソンは、「ウェルビーイング指標の経時的な信頼性」に欠けると感じながらも、「集計値の背後にある知見を得られることはある。たとえば、景気後退によって人口の特定の層がどれほど大きな打撃を受けるかを理解するのに役立つ」と賛同している。

ブルネル大学のレイ・バレルは、マクロ経済の実証分析でウェルビーイング指標を使うことを支持する一方、関係性の複雑さに注意を促す。「ただし、たとえば平等の拡大がウェルビーイングの向上と結びつくといった、単一の原因による説明に使わないよう注意しなければならない。」

LUISSグイド・カルリ大学のピエトロ・ライヒリンは、この異質性は個人によってさまざまな形で表れると結論づけ、「この種の評価を個人間で集計して得られる指数の意味には、非常に懐疑的だ」と述べている。ノルウェー経営大学院のファビオ・カノーヴァは、同じ質問を受けても、ウェルビーイング調査の回答者ごとに解釈が異なることを懸念している。

さらに強く反対する人もいる。ロンドン・ビジネス・スクールのリチャード・ポルテスは、幸福を測定しようとする試みを好まず、代わりに国連の人間開発指数を、「ウェルビーイングの側面を測る、比較的客観的なデータを用いた指標は数多く存在する」例として挙げる。

カーディフ・ビジネス・スクールとヨーク大学のマイケル・ウィッケンズは、「幸福度は、福祉の指標としてのGDPのよく知られた限界を理解するうえで、さらなる知見をもたらすかもしれない」と認める一方、マクロ経済分析でこうしたデータを使うべきではない方法論上の理由がいくつかあると考えている。その一つとして、「初期の幸福研究は実際には不幸の指標だった。所得格差への嫉妬、病気、離婚、未婚などを測っていた」と述べる。ウィッケンズは、「これらのどれも、マクロ経済政策の自然な目標ではない」と強調する。

ウェルビーイングとマクロ経済政策

ウェルビーイングと幸福の研究者は、政策がウェルビーイングに与える影響を、政府はより真剣に考慮すべきだと主張する傾向がある。インフラ事業の計画担当者はすでに、個々の事業の費用便益分析で、投資が成長に与える影響だけでなく、汚染の減少による健康上の便益や、通勤時間の短縮による時間の便益も考慮している(たとえば、ロンドンとイングランド北部を結ぶ英国の計画中の高速鉄道HS2)。

オドネルとオズワルド(2017年)は、「あらゆる政府政策は人々の幸福を考慮しなければならない」と具体的に提案している。つまり政府の意思決定では、財政面の費用便益分析に加え、政策変更(および既存政策)がウェルビーイングに与える影響も考慮すべきだという。さらにこの提案は、政策の選択肢を費用便益分析する際に、特定の定量指標を使うことを推奨している。「実際には、各省庁に『必ず実施すべき』活動の予算を提出させたうえで、裁量的支出の一覧と、それぞれがウェルビーイングに与える影響の推計を示させることができる。」

政策分析のこうした手法の変更は、マクロ経済政策にも影響を及ぼすだろう。たとえば、複数の研究者が主張するように、幸福とウェルビーイングにとって相対的な消費が重要なら、成長を促す一方で不平等を拡大させる政策よりも、成長率が全員にとって低くなっても、より均等に所得を増やす政策のほうが望ましい。

もう一つ考えられる政策変更は、金融政策を一時的な安定化手段として使うことに関係する。失業は、新たな職を得た後も続く不幸の大きな原因だと一般に認められている。このため、たとえインフレ率の上昇を招くとしても、中央銀行に完全雇用への早期回復を目標として課すことが考えられる。

マクロ経済政策の重点をこうして移すことへの反対意見としては、どのような測定にも不完全さがあるとはいえ、ウェルビーイング指標はまだ政策設計を主導できる段階にないという見方がある。また、ウェルビーイングを左右する要因間の相互関係が、まだ十分に理解されていないとの懸念もある。

質問2:政策立案者がマクロ経済政策を決定する際、定量的なウェルビーイング分析が重要な役割を果たすべきだという意見に賛成ですか。

質問2への回答

Image: VoxEU

質問2への回答
​(自己申告による確信度で加重)

Image: VoxEU

CFMとCEPRの調査で、マクロ経済政策にウェルビーイング分析を用いることについて意見を尋ねた2番目の質問には、パネルメンバー63人が回答した。回答はかなり拮抗しているものの、定量的なウェルビーイング分析がマクロ経済政策で重要な役割を果たすべきだという意見に、回答者の48%が反対または強く反対した。賛成または強く賛成は38%で、残りの14%は賛成とも反対とも言えないとした。前問と同様、反対する人のほうが比較的確信度が高い。自己申告による確信度で加重すると、反対は48%から50%に増え、賛成は38%となる。

オックスフォード大学のサイモン・レン=ルイスは強く賛成し、「中央銀行は、非常に単純なミクロ的基礎づけモデルが示す社会厚生の決定要因よりも、この幸福度データにずっと注意を払うべきだ」と提案する。こうしたデータを理解できていないという議論は退けている。

インペリアル・カレッジのデイヴィッド・マイルズは、「非自発的失業によって生じる大きな苦痛は、さまざまな政府の政策(そしておそらく中央銀行の政策)に確実に関係する」と考える。主観的ウェルビーイング指標を使えば、マクロ経済政策とウェルビーイングの関係について理解を深めるための重要な情報が得られると主張する。

オックスフォード大学のケビン・オロークは、「経済学者が功利主義者であり続けるつもりなら、人間を実際に幸せにするものについて考えるべきだ!」と考え、賛成と回答した。しかし、質問1への回答者と同様、ウェルビーイング指標を信頼できるようになるまでにはまだ長い道のりがあることを懸念している。

こうした懸念から、LSEのフランチェスコ・カゼッリは、さまざまな中間目標(消費、失業、インフレなど)に重みを付けるための「多くの基準の一つとしてこうした指標を使うことには共感する」にもかかわらず、この意見には反対している。

チャールズ・ビーン卿、ケイト・バーカー氏(クレディ・スイス)、バーミンガム大学のトニー・イェーツなどは、マクロ経済政策や分析よりも、ミクロ経済政策や分析のほうが恩恵を受ける可能性が高いと考えている。パリ政治学院のフィリップ・マルタンは、金融政策における役割は見いだしていないが、「財政政策にとって、ウェルビーイングは主要な目標の一つであるべきだ」と考えている。

ストックホルム大学のジョン・ハスラーと同様、多くの回答者は、調査から得られる幸福度指標は「政策評価やその他の実証分析に使うべきだ」と賛成する。しかし彼らも、指標が目標になると良い指標ではなくなるというグッドハートの法則に似た影響を懸念している。たとえば、ジュネーブ国際・開発研究大学院のウーゴ・パニッツァは、こうした指標は「標準的なマクロ経済変数より操作しやすい」と回答し、政策目標として使えば「操作への強い誘因」が生じると述べる。

ウェルビーイング指標では、パトリック・ミンフォード(カーディフ・ビジネス・スクール)が言う「マクロ政策がウェルビーイングに及ぼす影響を精緻に測る指標」を得られないとして、反対する回答者もいる。

LSEのイーサン・イルゼツキは、「現在行われているウェルビーイング分析は前進する道ではない」と考える回答者の見解を代弁し、「さまざまな指標に目を向けるべきであり、何が良い社会をつくるのかについて意見が分かれ続けるだろうし、そうあるべきだ」と主張する。LSEのティム・ベズリーは、「多元的である必要があり、それは多くの点で過去からの脱却になる」と述べ、アマルティア・センの「ケイパビリティ・アプローチ」を、この分野で「最も説得力のある包括的な知的枠組み」として挙げている。

参考文献

コイル、D(2014年)、『GDP:簡潔で愛情のこもった歴史』、プリンストン大学出版局。

イースタリン、R・A(1974年)、「経済成長は人々の暮らしを向上させるのか:実証的証拠」、『経済成長における国家と家計:モーゼス・アブラムオヴィッツに捧げる論文集』所収、P・A・デイヴィッド、M・W・レダー編、『経済成長における国家と家計:モーゼス・アブラムオヴィッツに捧げる論文集』、アカデミック・プレス。

ヘリウェル、J(2016年)、「幸福格差と信頼の重要性」、VoxEU、9月6日。

オドネル、G、A・オズワルド(2017年)、「政策目標としての幸福」、『幸福を理解する:CAGE政策報告書』第1章、カレン・ブランドン編、ソーシャル・マーケット財団。

スティーブンソン、B、J・ウォルファーズ(2008年)、「経済成長と主観的ウェルビーイング:イースタリンのパラドックスを再検討する」、『ブルッキングス経済活動論文集』、春号:1-87。

スティグリッツ、J・E、A・セン、J・フィトゥシ(2011年)、「経済パフォーマンスと社会進歩の測定に関する委員会報告書」、欧州委員会。

ホワイト、M・D(2014年)、「政策目的で幸福を測定し利用することの問題点」、マーケイタス・ワーキングペーパー、ジョージ・メイソン大学マーケイタス・センター、バージニア州アーリントン。

注

[1] http://ec.europa.eu/public_opinion/index_en.htm.

[2] 詳細は、http://www.grossnationalhappiness.com/articles/を参照。なお、国民総幸福(Gross National Happiness)の「総(gross)」は、GDPの「総(gross)」と同じように明確に定義されているわけではない。

[3] https://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/wellbeing.

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