ギリシャはまたしても、金融危機の窮地を切り抜けたようだ。国際通貨基金(IMF)の準備勘定にある資金を取り崩し、期限が迫るなか、750百万ユーロ(8億5,100万ドル)を返済できた。皮肉なことに、返済先はIMFそのものだった。
この瀬戸際政策は偶然ではない。1月の政権発足以来、アレクシス・チプラス首相率いる急進左派連合(シリザ)のギリシャ政府は、債務不履行の脅威、ひいてはユーロを分裂させかねない金融危機の脅威が、ギリシャの経済的・政治的な力の弱さを補う交渉力になると考えてきた。数カ月を経た今も、チプラスと、ゲーム理論を専門とする学者出身のヤニス・バルファキス財務相は、それを裏付ける証拠が何もないにもかかわらず、この見方に固執しているようだ。
しかし、彼らの計算は誤った前提に基づいている。チプラスとバルファキスは、債務不履行になれば欧州は二つの選択肢、すなわちギリシャをユーロ圏から追放するか、無条件の債務救済を与えるかのどちらかを迫られると想定している。だが、ギリシャが債務不履行に陥った場合、欧州当局には第三の選択肢がある。「グレグジット」を強いる代わりに、EUはギリシャをユーロ圏に閉じ込めて資金を断ち、その後はチプラス政権への国内の政治的支持が崩壊するのをただ見守ることができる。
ギリシャが政府の通常機能を維持するために必要な資金を使い果たすのを待つという包囲戦略は、ギリシャの抵抗を崩すためのEUの最も有望な手段に見えてきた。毎月末に賃金や年金を支払うだけの資金をかき集めることが、ギリシャ政府にとってますます難しくなっているため、この戦略は成功する可能性が高い。
そのためバルファキスは、自治体や病院の銀行口座にある現金を差し押さえるなど、ますます窮余の策に頼っている。これは、1月の選挙以降の経済混乱で徴税が大きく打撃を受け、政府歳入だけでは日々の経費を賄えなくなったことを示唆している。これが事実なら――ギリシャの財務統計は信頼性に欠けるため(これもEU当局の不満の一つだ)、確かなことは誰にも言えない――ギリシャ政府の交渉戦略は破綻する運命にある。
チプラスとバルファキスの戦略は、政府が債務不履行の脅しを実行に移さざるを得なくなっても、賃金、年金、公共サービスの費用を賄う資金は十分に残るため、ギリシャは信頼できる形で債務不履行をちらつかせられるという前提に立っていた。1月時点では妥当な想定だった。政府は大幅な基礎的財政黒字(利払いを除く)を見込んでおり、GDP比4%と予測されていた。
ギリシャが1月に債務不履行に陥っていたなら、この基礎的財政黒字を(理論上は)利払いから振り向け、シリザが選挙運動で約束した賃金、年金、公共支出の引き上げに充てることができた。この可能性を踏まえれば、バルファキスは、基礎的財政黒字をゼロまで減らすのではなく、GDP比4%から1%に削減する案を提示することで、他のEU財務相に寛大な提案をしていると考えていたのかもしれない。EUが拒否すれば、利払いを停止し、基礎的財政黒字の全額を追加の公共支出に充てるというのが、彼の暗黙の脅しだった。
しかし、対決姿勢の交渉戦略における切り札だった基礎的財政黒字が、すでに消えていたとしたらどうだろうか。その場合、債務不履行の脅しはもはや信頼性を失う。基礎的財政黒字がなくなれば、債務不履行に陥ってもチプラスはシリザの公約を実現できない。むしろ、欧州委員会、欧州中央銀行、IMFからなる「トロイカ」が現在求めている以上に大幅な賃金、年金、公共支出の削減を意味する。
一方、EU当局にとって、ギリシャの債務不履行は、以前考えられていたほど問題ではなくなっている。債務不履行を抑止するために、ギリシャをユーロから追放すると脅す必要はもうない。EUは今や、賃金や年金を支払わず、銀行保証を履行しないことで国民に打撃を与える役割を、ギリシャ政府自身に委ねることができる。
チプラスとバルファキスは、2年前に銀行危機の渦中にあったキプロスがEUに反抗しようとした際、同じことが起きたのだから、こうなることを予見すべきだった。キプロスの経験が示すのは、政府による債務不履行の脅しが信頼性を失った今、EUはギリシャにユーロ圏残留を強い、デトロイトのような米国式の自治体破産手続きに追い込む可能性が高いということだ。
ギリシャを自治体破産と同様に扱うための法的・政治的な仕組みは明確だ。欧州条約は、単一通貨だけでなくEU全体からの離脱を決めない限り、ユーロ加盟は取り消せないと明確に定めている。これは、EU各国政府が自国民や金融投資家に浸透させたい政治的メッセージでもある。
ギリシャが債務不履行に陥れば、EUは法的根拠と政治的動機に基づき、ユーロを唯一の法定通貨として維持するよう要求するだろう。ギリシャ政府が独自のIOU(支払約束証書)や「新ドラクマ」を発行して賃金や年金を支払うことにしても、欧州司法裁判所は、すべての国内債務と銀行預金をユーロで返済しなければならないとの判断を下すだろう。その結果、政府はギリシャの銀行にある預金保険対象の預金のユーロ価値を保証できず、外国の債権者だけでなくギリシャ国民に対しても債務不履行を強いられる。
したがって、ユーロ圏にとどまったままのギリシャの債務不履行は、シリザに選挙公約を実現させるどころか、トロイカの支援プログラムの下でギリシャの有権者が経験した以上の緊縮をもたらす。その時点で、政権の崩壊は避けられなくなる。ギリシャがユーロ圏を離脱するのではなく、シリザがギリシャ政府から退くことになる。ギリシャと欧州の間のゲームのルールが変わったとチプラスが悟れば、降伏は時間の問題にすぎない。
本記事は、 Project Syndicateとの協力により掲載されています。 本記事の掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しません。
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著者:アナトール・カレツキーは、Gavekal Dragonomicsのチーフエコノミスト兼共同会長であり、Institute for New Economic Thinkingの会長を務める。
画像:欧州連合(EU)の旗(手前)とギリシャ国旗が、アクロポリスの丘にあるパルテノン神殿の前ではためく。REUTERS/John Kolesidis。


